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とある一人の男が占い師になるまで #30 ~信用金庫職員編~

信用金庫の退職が決まり、引き継ぎ業務も無事に完了して、いよいよ本日が男にとって信用金庫への最後の出社日となる。
そこで男が目にした光景とは!?

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「それじゃあ、ちょっとみんな集まって!」

その日は私にとって信用金庫の最終出社日だった。
夕方、M支店の職員たちが一通り業務が終わった後、支店長が声をかけた。

私は全員の前で最後の挨拶をする事になった。

相変わらず、私は人前で話すのが非常に苦手だ。

M支店に配属された日も、職員全員の前で挨拶をしたが、その時と同じように、やはり緊張から自然と身体が震えてしまっていた。
それでも何とか声を振り絞って、私は挨拶の言葉を伝えた。

『本当に今までお世話になりました』
『2年間という短い期間ではありましたが、M支店で学んだ事を今後の自分の人生に活かしていきたいと思います』
『これから税理士を目指して頑張ります!』

実際はもっと色々な事を話したと思うが、ハッキリと覚えているのはこのぐらいだ。

そして、M支店の職員たちが一人一人順番に、私に対して挨拶をしてくれる事になった。

最初は次長の番のはずだったが……

「ごめんなさい……ちょっと後回しで……」

なんと次長は泣いてしまっているようで、言葉を出せない様子だったのだ。
実は、途中でM支店の次長は人事異動で変わったのだが、この新しい次長とは何かと気が合っていて、結構私は慕っていたのだった。

その後、何人かの職員が挨拶をしてくれた後、今度は融資係の先輩職員の番だったが、先輩は目を真っ赤にして泣いていた。

「本当に先輩として何もできず、申し訳ない」
「頑張って下さい……」

その後、最も苦労を共にした渉外係の先輩職員の番だったが、普段はクールな先輩が涙声になっていた。

「大学時代で簿記2級も持っていて、財務3級も満点取って、本当にスゲー新人だなって思っていた……」

私は絶対に泣かないと決めていた。
人前で泣くのが恥ずかしいからとかではなく、ここで私が泣いてしまったら、職員の皆さんに不安な気持ちをさせてしまうと思ったからだ。

それでも、私のために何人かの職員の方が泣いてくれている姿を見て、私は改めて『M支店で良かったなー』と思った。

思えば、信用金庫に入社した直後の2週間は最悪だった。
気の合わない同期たちと苦痛な研修期間を過ごし、精神的に落ち込んだ状態で配属されたのがM支店だった。

人間関係に対してすっかり自信を失っていた私は、M支店で上長や先輩職員たちに助けられて、次第に心を開いていくようになっていた。
M支店の歓送迎会の挨拶では、酔った勢いとはいえ、『理事長目指します!』などと全員の前で宣言したぐらいだから、少なくともその時私は信用金庫で生涯働こうと思い直していたに違いない。

もし私が同期生たちと仲が良かったら、もう少し信用金庫で長く勤めようと思っていたのかもしれない。

私はM支店でお世話になった人たちに対し、改めて申し訳ない気持ちも芽生えてきてしまった。
しかし、このままモチベーションの上がらないまま信用金庫で働き続けても、いずれは後悔する事が目に見えていたので、私は信用金庫を退職して、まずは税理士試験を勉強し、そこから活路を見出したいと思っていたのだ。

M支店の職員全員の私に対する挨拶が終わり、改めて私は最後に御礼を伝えた。

『本当にありがとうございました!』

職員たちから温かい拍手で迎えられた。
最後まで涙は流れなかったが、どこか意地になっていたのかもしれない。

その日の夜、4月の人事異動に伴ってM支店の歓送迎会が開かれたが、その中には私の送別会も含まれていた。

歓送迎会の内容はあまり覚えていないが、最後に私を中央にした記念写真を撮影してもらい、笑顔で終える事ができた。

こうして、私の約2年間の信用金庫職員としての生活は幕を閉じた。
短い期間だったが、私にとっては非常に濃厚な2年間だったと思う。

この2年間の経験が、その後の私の人生に多かれ少なかれ影響を与える事は間違いないだろう。

➤To Be Continued Next Chapter


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