とある一人の男が占い師になるまで #28 ~信用金庫職員編~
一昨日は直属の上司である渉外係長に辞意を伝え、昨日は支店長に辞意を伝えて、それぞれ了承を得る事ができたので,、一安心していた男であったが、実は本当のラスボスが控えていた。
本日、そのラスボスと対面する事になる!
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『支店長、昨日はどうもありがとうございました!』
支店長が出勤してきたので、私はすぐに昨日のお礼を伝えにいった。
「とんでもない!」
支店長もすぐに返事をしてくれた。
そして当然、私が辞めるという話は支店内の上長や先輩社員の間にも知れ渡っていた。
「山内君辞めるんだって!?」
「えー、ビックリした!」
「税理士目指すんだって!?」
「頑張れ!」
幸いな事に、私を応援してくれるコメントが多く、嬉しいと同時に少々恥ずかしい気持ちにもなった。
「羨ましい!」
「俺も辞めようかな……」
冗談なのか本気なのか、中には私を羨ましがるようなコメントをする職員もいた。
でも私を責めるような職員は誰もいなかったので、改めて「M支店で良かったなー」と感じていた。
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そして夕方。
渉外業務から戻り、締め作業も終わって、残務整理をしていたところ、ある人物が来店してきた。
本部の人事部長だ。
人事部長は支店長と少し話をした後、私に声をかけてきた。
「山内君、ちょっと応接室で話そうか」
『はい』
その後、支店長は私に小声で言った。
「何を言われても、自分の気持ちをしっかり伝えるんだぞ」
どうやら、人事部長は私を引き止めようとしているようだった。
人事部長の強張った表情からも、そのように感じ取れたからだ。
そしてその予感は当たったのだ。
「税理士を目指したいの?」
『はい』
「君と同じように税理士を目指して辞めた職員がいたんだけど、今何をやっているかと言うと、不動産会社で営業をしているんだよ」
『そうなんですか』
「彼は結局辞めた事を後悔していたよ」
『………』
「だから君もきっと後悔すると思うよ」
『でも、気持ちは固いので』
「働きながら税理士の勉強すればいいじゃない」
『それは現実的に厳しいので、勉強に専念したいんです』
「税理士試験で勉強した事を信用金庫で活かそうという気持ちはないの!?」
『………ないです』
「ないの!?」
『………はい』
「それならもう勝手にしなさい!」
『……すみません』
「君が採用した事で、一人入社できなかった人がいるんだよ」
『……申し訳ないと思っています』
「こんな事になるなら、君を採用しなければ良かったよ」
『……すみません』
結局、私は半ば強引な形で人事部長からの引き留めを跳ねのけてしまった。
恐らく人事部長は、以前から私が真面目な性格であったり、財務3級100点を取ったりしていた事から、期待していた分、本当に辞めて欲しくなかったのだと思う。
もちろん、人事部長に対しても申し訳ない気持ちがあるが、今さら『やっぱり辞めません』なんて絶対に言えないのだ。
そんな事をしたら、それこそ、私の辞意をスムーズに受け入れてくれた支店長や渉外係長に合わす顔がない。
ちょっと後味の悪い形ではあるが、最終的には人事部長も折れたので、今度こそ本当に私の退職が決まった事になる。
後は、後任の渉外職員へ無事に引継ぎを済まし、円満退職をするだけだ。
信用金庫を去る日は、着々と近づいている。
➤ To Be Continued
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