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二重人格ごっこ

 小さい頃、私のお気に入りは母親の鏡台だった。
 映る自分に向かって
「今日は寒いね、そっちはどう?」
 と映る自分に声を掛けて、遊ぶのだ。外に出て遊ぶことを禁じられていた私には、手軽な友達だった。楽しい事があったり、悲しい事がきた時も
一緒に喜んだり悲しんでくれる鏡の中の私は、かえがたい友達だったのだ。

 その日も話しけていると、鏡の中の私が
「ねぇ、こっちの中に来て遊ぼうよ。一緒にお人形さんで遊んだらきっと楽しいよ?」
 と誘ってきた、私はうれしくて
「うん、いいよ」
 と鏡からのびてきた手に、自分の手を伸ばそうとした時
「駄目よ」
 と隣に寝ているはずの、母親が私の手をとった。すると
「ちっ」
 と今まで写っていた私とは、似ても似つかないゆがんだおばあちゃんが写っていた。
「良かった」
 と母親は言うと、鏡台が見えない様に布のカバーをかけて
「もう鏡はのぞいちゃ駄目よ」

ーそれは、私が小学校入学式の前日だったー

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