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ブルックリン物語 #52 “Peace Never Dies” ぴが遠くであくびする

「Senriさん、早速カメラマンの契約書、請求書、送られて来ましたよ。チェックしてもらえますか? 内容がよければ進めますので。あたしからの疑問点、交渉しようと思う点は以下の点になりますのでそれも合わせてご確認くださいね」

Kayさんから重要なメールが来たのがわかった。極端に長い文章でもシリアスすぎる内容でもないのだが、中身が「避けて通れない」面倒臭い契約ごとだと、「ピン!」とメールの到着を告げるPCの音でわかる。この「ピン!」が重たいのだ。さあ、これからしっかり英語の束に性根を入れて細部まで読み込まないとならない。

未知の分野を切り拓くときは、何か胸の奥の方がキュッと痛い。この痛みの出所は何処だろう? 小学校の時50メートル走の記録を測る前に感じたあの緊張感と覚悟を決める気持ち。しっかりゴールを見据えて全力疾走しなければ結果は出せないという、退路をたたれた逃げ場のない孤独感とでも言ったらいいのだろうか?

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面倒臭い条件ごとや口にしづらいお金のことをテーブルの上にわざわざ載せて交渉しないで済むのであれば、どれだけ人生は楽だろう。暖かな日向の芝生の上で、のんびりカフェオレでも飲んでいたいうららかな春の午後、契約書と交渉ごとに目を通し、交渉場所へとテクテク向かう。いよいよニューアルバムの製作準備が始まったのだ。

だいたい、一つのアクション(例えばコンサートでもレコーディングでも撮影でも)をやるとする。そこでいかに赤字を出さないようにするか、これがとても大事だ。そしてそれを補佐すべく、マーチャンダイジングやCDや本を現場で1つでも多くお客さまに購入していただき、それを費用対効果の中に組み入れる。これでトントンか少しの黒になればなんとか「前へ」進める。1枚のアルバムを作るとなると音源はもとよりジャケット関係にもお金がかかる。関わる人、一人一人と綿密に契約書を交わし、後で友情が壊れないよう細心の配慮が必要だ。

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