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特別寄稿「大江千里デビュー記念日。」

5月21日は大江千里がアルバム『WAKUWAKU』、シングル「ワラビーぬぎすてて」でデビューした日である️。

当日は大阪バーボンハウスでのライブをサザンクロスのメンバーと一緒に行った。

本番直前にバーボンハウスのある梅田から心斎橋の三木楽器へ、本当にレコードがお店に並んでいるのかどうかを一人でこっそり確かめに行った。

ワクワク ドキドキ


あった。

でもあ行のコーナーの中に1枚だけ。これじゃいっぱいのレコードの中に紛れて、普通にしていると発売に気づけない。なのでそっと取り出して「このアルバム一押しです!」の棚に置いてあるレコードの上にそっと『WAKUWAKU』を被せて、そのまま店をスタスタ小走りに出てきた

そういうこと

どこ行ってたの?

サザンクロスのアミさんに言われ、

ちょっと散歩

と嘘をついた。

まとめ役

本番は意外と淡々と行われたけれど、関学のゼミの連中やテニスサークル「若葉会」の友達(現在H報堂重役)が大勢、会のメンバーを引っ連れて応援に駆けつけてくれた。

Mastery 4 Survice

でも、彼ら、当時はやってた山下久美子さんや白井貴子さんのステージでしばしば起こるような社会現象「総立ち」をまだ経験してない人たちだった。なのでライブの後半戦に、

「みんなの盛り上がってる声が聞きたい!」

と一番前のテーブルのドリンクを丁寧に退けてそこへ飛び乗り、

ハートが唐揚げになるまでメラメラ萌えるぜ! Are you Ready?

と叫んだ僕の意図など理解しようもなかった。

もちろん、僕に乗られたテーブルの人は自分のドリンクとテーブルがグラグラするので、必死に支えながらも立ち上がった。Waveのように「総立ち」が起こった。前からザザザと波が広がるようにお客さんが立ち始めたのだ。

&^%$#*(()

この瞬間のサブイボが立つような快感と責任とも言えるものすごい感覚を覚えている。すごいことをしでかしてしまった。もうきっと後へは戻れない。

後に戻ってないよね〜!

しかしザザザが15列目あたりでなぜか

パタっと止まる。


蕾のまま
パタっと止まる

え?

「たっそっがっレッにー、背を、むーケッてー」


全身で絞り出すように顔をくしゃくしゃのレコード包みにして歌っている時の僕の目の中に、

15列目、横一列に並んで座っていた10名ほどの関学「若葉会」の連中が映った。キョトンとする彼ら。あちゃー。

彼らは「総立ち」を経験したことがなかったのだ。

そこで念願の夢にまで見た、

「総立ちの千里」

は終わった。

さきなーさーい

ライブが終わった後

「惜しかったね」

とアミさんに言われ「ハハハ」と答えた僕がいた。

それ以後関学の銀座通り(学内にあるメインの通り)で「若葉会」所属、僕の友人O はなんとなく気まずかったのか「よ」と片手をあげて挨拶するものの、バーボンハウスでの「総立ち未遂事件」には一才触れてこなかった。僕ももちろん彼に尋ねない。

そういうことか

総立ち、甘酸っぱい記憶が感触として今も僕の中に残る。白井さんの東京のルイードで前座をさせてもらった時も、同じ小さな楽屋の鏡の前で、ブツブツmcの練習をする貴子さんをじっと観察し、

「今夜は今夜しかないのさ、貴子とクレイジーボーイズと一緒に盛り上がってイコーぜ^%$%^&*(ずえ☜〜)<#$%^&*¥!」

のフレーズを後ろで復唱し「こんなふうに恥ずかしがらずに大声でテーブルの上に乗って、貴子さんみたいに行くところまで行かないとだめ。

「今夜は今夜は〜〜(貴子さんの名曲の出だし)」

やればいつかできるはずと「本気で」信じていた。

本気と書いて「マジ」と読む

今も変わらずいっぱい練習して台本作って本番に臨むと僕の場合必ずと言っていいほどうまくいかない。お客さんもメンバーも自分の描いた筋書き通りには動けない。結局それ以後もライブって貴子さんみたいにという自分の思いと全く違う方向へ進んでしまってる。

考えてもしょうがない

いっぱいの社会現象がその日に起こり、誰にもわからない一期一会がライブの最中に起こる。その場の1回きりの「何か」を瞬時掴み取ってお客さんに投げる。お客さんも投げ返す。そんなとき憧れの

「総立ち」

が起こるのかもしれない。

でもそれは誰にも予測がつかない。

あの時バーボンハウスでのライブの後、衣装を持って南海高野線で実家に帰る途中、「南中学の後輩ですけど、ライブ良かったですう」と話しかけられて、最寄りの駅まで一緒に帰った人がいた。彼女は今も元気かな?

41年か 思い出す

「若葉会」のOとは今も付き合いがある。卒業後、「カルタス、千里走る」や「不二家アメリカンバー」などのCMで一緒に仕事をした。

P.S.  こちらも併せてご覧くださいませ。1234アナログ盤のCutting風景。

文・写真 大江千里 (c) Senri Oe, PND Records 2024

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