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ブルックリン物語 #55 “The Adventure of Uncle Senri” 千里叔父さんの冒険 (後編)

「あなたが世界中で一番落ち着ける場所ってどこですか?」
「そうだなあ、住んでいるLAでも日本でもないなあ。敢えて言えば、飛行機の上かな」

86年の春、LAで会ったカメラマンはそう僕に言った。あの日のアメリカへの憧れは天国まで続きそうなパームツリーとともに、広大なカリフォルニアの空へ吸い込まれていった。そのあと逃げるように日本へ戻った僕には、とてつもない空虚だけが残った。夢に全力加速し、アクセルを吹かし、近づき過ぎたのかもしれない。

あの年のカリフォルニアでのひと夏の「旅本」はジェットコースターのような目まぐるしい経験を「To be Continued( この先へ続く)」もなくフリーズだけさせ、胸の引き出しの奥の奥に押し込んだ印象がある。久しぶりにそれを開ける鍵を見つけ、恐る恐る鍵穴に入れ回してみる。するとそこには膨大な量のメモ書きが詰まっていた。あの数日間で感じた全てがそこにある。瞬きする間に終わってしまうかもしれない人生という名の旅の途中、どれほどの人たちと出会うのだろう。偶然が必然になりお互いの夢を語り合うまでになった時、そのエネルギーは時空を超える。あの時の僕が殴り書きしたメモには、今を生きるには十分過ぎるヒントがある。人生を輝かせる一番のカンフル剤は夢であり、宝探しの地図には「最初に戻れ」とある。「ワラビー」そのキーワードをローリーから聞いた時、「あっ」とフラッシュしていくつかの時代の変わらない僕が繋がった。直感が閃く。

ぴは静かに寝息を立てる。

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