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されど仲良き悪魔の物語(序)「SugarLyric 2nd Mystery 〜Start the Mission〜」【全曲レビュー】

「君は君 我は我なり されど仲良き」 ― 武者小路実篤

これは、10月16日に行われたVtuberグループ「SugarLyric(シュガーリリック)」2ndワンマンライブの現地レポート…というほどカッコつけられるようなものではなくて、現地参加者のただの感想文だ。

出演者であるシュガーリリックの面々が、事前に

メンバーそれぞれが個性を発揮できるような演出や曲構成にしている。

と語った2ndワンマンライブ。タイトルに「全曲レビュー」とあるとおり、粗密はあるがライブで披露された楽曲について一つひとつ取り上げていきたい。最後に全体を通した感想を書いているので、お時間のない方は目次からそちらだけでもどうぞ。

YouTubeでライブの冒頭部分(セトリNo.5まで/コメント欄にタイムスタンプあり)が公開されているので、合わせてご覧いただければと思います。

▼ YouTube冒頭無料アーカイブ


はじめに

SugarLyric(シュガーリリック、以下「シュガリリ」とも)は、「774 inc.」に所属するいわゆる企業Vtuber3人によるユニットだ。

3人とも「魔界出身の悪魔」ということで、名前やビジュアルのモチーフは統一感があるものの、3人それぞれの得意分野や趣味嗜好は同じユニットメンバーとは思えないほどバラバラ。
普段はそれぞれのチャンネルで個別に活動しているが、シュガリリとして3人が揃ったとき、パズルのピースがぴったり噛み合うようにシナジーが生まれる不思議な3人組。

▼ シュガーリリック
(左から【獅子王クリス】【龍ヶ崎リン】【虎城アンナ】)

シュガリリメインビジュアル影付き

さて、本題に入る前に白状しておくと、私はシュガリリの3人を満遍なく、同じくらい追いかけているというわけではない。
3人のうち特に私が好きで応援しているのは、歌を活動のメインに据えている【龍ヶ崎リン】だ。

全曲レビューとはいえあくまで「龍ヶ崎リンが好きな現地参加者」の感想なので、龍ヶ崎リンのところだけやけに長文で読点が少ない早口オタクになってしまっても、そこは笑って許してやってほしい。
もちろんほかの2人の配信もよく視聴しているので、一通りの知識はあるつもりでいるが、勘違いしている部分があれば、コメント欄でご指摘いただければと思う。

前置きはこの辺にして、そろそろ本題に入っていこう。


1. Fall In Mystery / シュガーリリック

パフォーマンス:シュガーリリック

2021年3月にリリースされたシュガリリの1stオリジナルソング。
シュガリリの3人が「人間界で探偵業を営んでいる」ことに基づいて、【推理】【謎解き】【ミステリー】といった単語が散りばめられているほか、ラップミュージックに造詣の深い龍ヶ崎リンの作詞による単独パートも織り込まれており、シュガーリリックの世界観や魅力が十二分に表現されている。

振り付けは、メンバーのうちダンスを得意とする【虎城アンナ】によるもの。ライブイベントでは、これまで2021年3月の「1stワンマンライブ」と、同年8月の「TUBEOUT!FES」で披露されてきた。

ライブを経るにつれてダンスのクオリティが上がっているだけでなく、今回はステージが広く作られていたため、それに合わせたアレンジが加えられていて、見ごたえは過去イチだった。

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現状、シュガリリにはオリジナルソングがこの1曲しかないため、虎の子である『Fall In Mystery』が開幕曲になったことに少し驚いたというのが正直なところ。
だが、それもライブが終わった今となっては合点がいく。この謎解きはひとまず後のお楽しみに取っておこう。


2. タピオカミルクティー / わーすた

パフォーマンス:虎城アンナ(ソロ①)

自分の誕生日記念配信でキャッサバ粉からタピオカを作るという、タピオカが好きすぎて行くところまで行っちゃってる感がすごい虎城アンナによるソロパート。

半年前の1stワンマンライブでは、ほとんどすべての振り付け考案とメンバーへの指導を担当した虎城アンナ。
そのハイレベルなスキルを活かしたダンス、そして持ち前の澄んだ伸びと甘さを兼ね備えた歌声が、このアイドル曲に合わないはずがなかった。

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普段の言動から、リスナーの間でナチュラルボーンサイコクレイジー女のイメージが確立しつつある彼女だが、この時ばかりは文句なしのアイドルだった。


3. シニカルナイトプラン / Ayase

パフォーマンス:虎城アンナ & 龍ヶ崎リン

この組み合わせと選曲には、完全に意表を突かれたとしか言いようがない。

龍ヶ崎リンのリスナーである私の中で、無意識にこの『シニカルナイトプラン』は龍ヶ崎リンの持ち歌だという考えが出来上がってしまっていたからだ。
上にある動画のとおり、龍ヶ崎リンはソロでこの曲のカバー動画を出しているし、これまで彼女自身の歌枠で何度もセトリに入っていて、ファンの間でも人気の高いカバー曲となっている。

ライブで歌うとしても、ソロなら驚かない。
しかし2人はそんな私の固定観念を壊して、軽々と超えた

『シニカルナイトプラン』の持つ雰囲気は先ほどの『タピオカミルクティー』とは全く異なるが、虎城アンナはダンスだけでなく歌声までしっかりと曲に調和するようなものに切り替えてきた。
途中のラップパートから龍ヶ崎リンが背景画面に登場し、歌に加わってくるような演出。

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演出の妙もさることながら、なにより高く伸びる虎城アンナと重く響く龍ヶ崎リンの歌声は本当に相性が良かった。ダンスや演出面も含めて、一見の価値がある。

余談だが、このパートははじめ機材トラブルによって現地会場に音声が流れておらず、一度中断して仕切り直された。
現地参加者は、無音で映像が流れる中、背景映像や虎城アンナのダンスからどうにかリズムを探りながら健気にマラカスライトを振っていた


4. G4L / Giga

パフォーマンス:龍ヶ崎リン(ソロ①)

さっき『シニカルナイトプラン』を「一見の価値がある」って言ったけど、これマジで百見の価値あるわぁー!!
個人的にそれぐらい好きな龍ヶ崎リンのソロパート。

先のデュエットでずっと画面の中にいた龍ヶ崎リン(2Dのすがた)が、自分のパートが始まると龍ヶ崎リン(3Dのすがた)になってステージに登場する。
という演出を画面の中で見てるわたし。何を言ってるのか分からねーと思うがとにかくすごかった(語彙消えた)。

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原曲は、エレクトロサウンドで尖った楽曲を作ることで有名なボカロP、作曲者であるGigaさんによるもの。

先に引用した龍ヶ崎リンカバーの『シニカルナイトプラン』を聴いてくれた方ならわかると思うが、彼女の歌声は、一般的な女声と比べるとハスキーで、かなり低音だ。
曲自体にあるダークでエロティックな空気感が、龍ヶ崎リンの歌声によってさらに深みを増して、聴く者をゾクッとさせるような蠱惑的な世界を醸し出している。

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こちらも、YouTubeの無料パートで見られるので是非聴いてもらいたい。


5. Love Cheat! / MOSAIC.WAV

パフォーマンス:獅子王クリス(ソロ①)

18禁麻雀ゲーム「いただきじゃんがりあんR」の主題歌。

いわゆるアキバ系の「電波ソング」を好んで歌う獅子王クリス、2ndワンマンでも変わらず元気に平常運転。

電波ソング(でんぱソング、電波歌、電波曲)は、「過度に誇張された声色」、「意味不明、支離滅裂だが印象的な歌詞」、「一般常識からの乖離」、「奇異ではあるが耳に残る効果音や合いの手、掛け声」、「一度聞いたらなかなか頭から離れない」などを特徴に持つ音楽を指す。
 ― Wikipedia「萌えソング」項

彼女の幼さの残る少女のような歌声は、電波ソングとの親和性が高すぎる。選曲からなにからド直球、ド安定の獅子王クリスだった。

人見知りでコミュ障気質、「虫を食べるASMR」や「○位以下でみさくら語マリカ」、雑談配信でコメ欄といきなりケンカを始めるなど、かなり尖った配信をしているが、真面目で努力家な苦労人という側面が見え隠れするためか、ガチ恋リスナーも少なくない。

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ガチ恋リスナーについて「面倒だから消滅してほしい」と発言しておきながら、なんだこのガチ恋量産ムーブはよぉ。そういうとこやぞ。

スクショで気付いた人もいるかもしれないが、ここでステージが変わっている。ライブ会場だった【109シネマズ二子玉川】と同じエリアに実在する空間(ガレリア)を模したステージになっている。

▼ ライブ当時、ガレリアにあった時計塔

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今回のライブはカメラワークが前回から相当進化していて、屋外ステージになったことで全方向からのカメラワークが存分に活かされていた。
そのおかげで獅子王クリスのガチ恋ムーブにもブースト掛かってしまったってわけ。

※ YouTubeのアーカイブで観られるのはここまで。
※ 次から4曲分ぐらい、筆者の個人的な感動を抑えきれない文章になるのでご注意ください。


6. ハミングがきこえる / カヒミ・カリィ

パフォーマンス:獅子王クリス & 虎城アンナ

一時期「ちびまる子ちゃん」のオープニングになって曲自体もヒットしたので、そこから知っている人も多いかも。どうでもいいけどこの時のOP映像、歴代で一番好き。
歌手のカヒミ・カリィは透明感のあるウィスパーボイスが特徴で、ポップな軽さと相まって耳に心地よい曲だ。

原曲のイメージを踏襲しつつ、虎城アンナの甘やかな声と獅子王クリスのあどけない声が交差するデュエットに落とし込まれている。合わんはずないやんこんなもん(唐突な地元訛り)…。

この曲を2人に勧めたのは、シュガリリのマネジメントを担う「三毛猫ななし」だったらしい。天才だな?

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ここで、曲がりなりにもシュガーリリックを知る者として、触れなければならないことがあると思う。
これまでも述べてきたように、シュガリリは3人のメンバーによるユニットで、それぞれに長じている分野、好きな活動分野が違っている。
配信の内容やこれまでの言動から、

龍ヶ崎リンは「歌うこと」
虎城アンナは「踊ること」
獅子王クリスは「絵を描くこと」

といっていい。「音楽ライブ」というイベントでは、歌/踊りを得意とする2人は自らのスキルをいかんなく発揮することができる。

一方で獅子王クリスは、本人曰く「歌もうまくないし、ダンスの技量も2人に劣る」。
これまでのライブイベントでも、彼女が必死にほかの2人に食らいついてきたであろうことは、想像に難くない。音楽ライブでは、獅子王クリスが得意とする「絵を描くこと」が見せ場になることはないのだ。

しかし「シュガリリ3人の個性を観る人たちに届ける」という触れ込みで開催された今回の2ndワンマンライブ、6曲目にして、獅子王クリスが自らの筆で中空に絵を描くという場面があった。
空間に浮かび上がる彼女を絵を見て、驚き、喜んでみせる虎城アンナ。
間奏が終わるとともに、獅子王クリスは自ら描いたハートマークを観客へ投げかけた。音楽ライブの演出として、獅子王クリスの個性が発露した瞬間だった

後の振り返り配信で、彼女は「皆が自分の居場所を作ってくれた。シュガリリは私を含めたグループなんだって思った」と語る。

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「きっとあるとき ぱっとみつかる ぐんとすてきな自分」という一節とともに、ライブの副題「Start the Mission」に込められた意味を思わずにはいられなかった。


7. Hotel Moonside / 速水奏

パフォーマンス:虎城アンナ(ソロ②)

 2015年に開催された「アイドルマスター シンデレラガールズ」のライブイベントでライブ初披露され、大きな反響を呼んだ本格的なEDM。
少しアダルティックで幻想的な歌詞と、不意に挿入される囁きが印象的。

舞台は引き続きガレリアステージだが、それまでかわいい系だった映像効果が一変し、観る者に心地よい緊張感を与える。
三原色の波形と青白いレーザービームによって彩られたステージ、そこで繰り広げられる虎城アンナの繊細なパフォーマンスによって、別世界に引き込まれてしまったような感覚を覚えた。

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「踊りを見てもらうためにVtuberになった」「ライブ・ダンスが好きで、それをやるために生きている」と話す彼女は、前回の1stライブでも、ソロパートのダンスで多くの観客を魅了した。
私の中では、それで十分だった。「ダンスの上手な虎城アンナ」は、これまでのパフォーマンスで評価できていたつもりだったが、それでは足りなかったようだ。

前回のライブから数段進化した舞台演出やカメラワークがあればこそ、彼女本来の技量をダイレクトに感じられて、「虎城アンナが見せたかったのは、こういうレベルだったのか」と驚き、胸を打たれた。

自分のダンスをみんなに届けたいと3D配信やライブの開催を切望していた彼女の言葉を思い出し、涙がにじんだ。
ダンスパフォーマーとしての虎城アンナにとっても、このライブは新たなスタート地点になったのかもしれない。


8. 逆さまの蝶 / SNoW

パフォーマンス:獅子王クリス(ソロ②)

ここからまたステージが変わる。ここも実在する場所で、会場となった映画館の直上にあるルーフガーデンだ。ガレリアステージよりもさらに開放的で、夕暮れの空が広く、近い。

『逆さまの蝶』は、テレビアニメ『地獄少女』の主題歌。

なあど君(獅子王クリスのリスナー)の皆さんには失礼を承知で申し上げるけども、獅子王の歌が胸に刺さることがあるとは夢にも思っていなかった

獅子王クリスといえば舌足らずな少女のような歌声が印象的で、次も電波ソングやウィスパー系の歌がくるものだと思い込んでいたが、新たなステージに独りで立つ彼女が発したのは、静かに語りかけてくるような歌声だった。

この曲は、自身が不登校だった学生時代に、ずっと聴いていた歌だそうだ。後方へ流れていく光を背景にして、自らの過去を嚙みしめるように歌い上げる獅子王クリス。

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私が彼女に対して抱いていたイメージの中に、「儚さ、穏やかさ」というものはこれまでも確かにあった。
ただ、それは固いトゲに覆われた箱の中にしまい込まれていて、まれにその光が漏れ出しているのを見られる、そんな印象だった。

このとき、固く閉じ込められてきた獅子王クリス本来の光を、私は確かに感じた。彼女の歌が終わるころ、夕暮れの空はさらに暗く、茜色の雲が流れる薄明。


9. エイリアンズ / キリンジ

パフォーマンス:龍ヶ崎リン(ソロ②)

舞台は引き続きルーフガーデン。星空の下にたたずむ龍ヶ崎リンの姿とともに前奏が流れ始めた。

『エイリアンズ』はこれまで龍ヶ崎リンの歌枠配信でも度々披露されていて、リスナーの間でも人気の高い曲だ。私は元々キリンジをデビュー当時から聴いていて、中でもこの『エイリアンズ』については思い入れがある。

(ここから、個人的な『エイリアンズ』の解釈を書きます。飛ばしていただいても構いません。)

「エイリアン」には、異星人というほかにも「よそ者」という意味があります。
『エイリアンズ』の歌詞に登場する「僕と君」は、社会の中で生きづらさを感じているような2人で、そして2人もまた、お互いに「エイリアン」として完全には分かり合えない。そういった悲哀が、曲の奥底に流れているように思います。

そういう哀しみを2人で共有しながら、それでも自分を認めて欲しい、相手を理解したいから、寄り添っている。
分かり合えないことを知りながら、だからこそ「大好きさ」と素直な気持ちを伝えずにはいられない。

人はみんな「エイリアンズ」なのかもしれません。
Vtuberとそのファンという関係性では、特に当てはまるのではないでしょうか。触れられない、分かり合えないからこそ、どうにかして素直な気持ちを伝えたい。そして、それが届いてほしいと願っている。

シンガーとして大好きな龍ヶ崎リンが初めてこの曲を歌ったときは、本当に嬉しかった。これまで数々のカバーを聴いてきたが、彼女の歌声で表現される『エイリアンズ』が世界で一番好きだ。

この曲について、ライブのMCで「リスナーと一緒に大切にしている曲。3Dライブ、素敵なステージで歌う姿をみんなに見せたいと思っていた。」と語った龍ヶ崎リンは、自らの想いを一つひとつ、歌詞に託すようにして聴き手に届けた。

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星降るステージで、ゆったりと月の上を歩むように優しく歌う彼女の姿を見て、私は溢れる感情を抑えられなかった。龍ヶ崎リンとしての愛の表現が、そこにあった。


10. 今夜はブギー・バック / 小沢健二 feat. スチャダラパー

パフォーマンス:龍ヶ崎リン & 獅子王クリス

3人の連続ソロパートを経て、ここでまた「やられたわ…」の組み合わせ。
ラッパーでもある龍ヶ崎リンがソロで歌うなら納得の選曲だが、そこにクリスゥ!?来たの!?ってなる。

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ソロパートの山場を越えてライブも中盤となっていたためか、それとも『ブギーバック』の魔法がかかったのか、2人ともリラックスした雰囲気でとても微笑ましかった。

特に獅子王クリス、めっちゃ楽しそう。もう獅子王クリスというか「あたち」。動きが女児。

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そこに低音で龍ヶ崎リンのハモりが重なってくる。空は深更、星が舞うステージでこんなことされたら、聴いてる方も気持ちよくなってしまう。
あたちも「気持ちよかったね、リンちゃん… ///」ってMCで言ってたし、歌ってる方もなんか気持ちよかったらしい


11. SEVENTH HAVEN / セブンスシスターズ

パフォーマンス:シュガーリリック

龍ヶ崎リンの「みんなに会いに行くね」というセリフとともに、ここから舞台はライブハウス風のステージに移動。ここは、1stワンマンライブで使われたステージと同じところだ。

1~4曲目の「地下秘密基地」ステージは、シュガリリの拠点に視聴者を招待しているということで、シュガリリとして視聴者の目の前に自ら出ていく舞台がこのライブハウスステージ、という位置づけっぽい。

シュガーリリックとしてのパフォーマンスは、1曲目の『Fall In Mystery』以来となる。9曲分のソロ/デュエットパートで3人それぞれの個性を出し切った後に、1stライブのステージに再集結するという展開は、とてもドラマチックだった。

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そしてこの『SEVENTH HAVEN』は、未来への希望と前へ進もうという強い意志を感じさせる。「Start the Mission」と名付けられたライブイベントの、まさにこのタイミングに最もふさわしい歌だったのかもしれない。

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なお、1stライブでは同じく「Tokyo 7th シスターズ」から『HEAVEN'S RAVE』がセトリに入っていた。
この曲を提案したのは「三毛猫ななし」だったそうだが、今回の『SEVENTH HAVEN』を推したのはもしかしてななし…?天才なのかななし?


12. Mrs.Pumpkinの滑稽な夢 / ハチ

パフォーマンス:シュガーリリック

もともと、龍ヶ崎リンがハロウィンに合わせてシュガリリの歌ってみた動画を出したいと考えていたところ、ライブ開催時期との調整で今回のセトリに入ったものだそうだ。

ステージに人数分のイスが登場し、歌とともにイスを使ったダンスが披露された。イスの造形や背景映像、振り付けが相まって、ハロウィンの賑やかで楽しげながらも妖しい、そんな雰囲気を演出していた。
こういうの、シュガリリやけに合うよなーって思ったけど、そういえばこの3人、悪魔だった。

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またイスの座り方が三者三様、シュガリリ3人の性格を知っている人が見れば、解釈一致感がすごかったはず。

歌は個人ごとのパート振りが結構されていて、3人それぞれの歌声を楽しむことができたと思う。獅子王クリスの高音と龍ヶ崎リンの全体を支えるような低音はもちろん、この曲にあっては虎城アンナが珍しく低く歌っていた。
曲のテーマに合わせたのかなと思っていたが、実は高音パートが高すぎて出すのが大変だったらしい。原曲はもともとボカロ曲で、一部異様に高いところがあるからこれは仕方ない、というか、歌えてしまう獅子王クリスが結構すごいのかもしれない。


13. STAR TRAIN / Perfume

パフォーマンス:シュガーリリック

アンコールを除いて、ライブのラストに位置付けられた曲。各メンバーの振り返り配信ではあまり多くは語られなかったが、強いメッセージが込められた選曲だったように思う。

原曲は、2015年にリリースされたPerfumeのシングル。当時、結成から15年となっていたPerfumeのこれまでの軌跡を表現した曲であり、「この曲でPerfumeの15年間が完成した」ともいわれている。

シュガリリ3人のこれまでの言葉や活動の来し方を知る人は、ライブのキーワード「スタート」と合わせて『STAR TRAIN』の歌詞を見ると、色々な思いが込み上げてくるのではないだろうか。

歌詞の中で特に印象的だったのは、

線路のない道をゆく / 想像を超えて進みたい
歯車のように噛み合う / 力は一人じゃ伝わらない

という部分だ。
彼女たちのようなタレント業は正解のない世界で、いつ何が起こるか分からないまま、常に手探り状態で、それでもなお進まなければならない。立ち止まることが「後退」を意味する、厳しい世界だろうと思う。
そんな世界で、バラバラな個性を持つ3人の歯車が奇跡のように噛み合うからこそ、前へ進んでこれたというメッセージが重ねられているのだろうか。

直前のMCで「みんなと一緒に盛り上がるために」と言って、手にペンライトを持った3人。歌っているときも、ずっと笑顔で絶えずライトを振り続けていた3人の姿を観ていると、私たちファンもまたシュガーリリックを前へ押し進める歯車の一つひとつとして、メンバーに受け止められているかもしれない、と考えるのは思い上がりだろうか。

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長い下積み時代を経て花開いたPerfumeが自らを表現した『STAR TRAIN』、その重みを、ライブ開催当時で結成1年7ヶ月ほどのシュガーリリックがそのまま背負うことはできないと思う。

しかし、先人の軌跡をなぞり、自分たちの過去と現在、支えてくれた人たちへの感謝と未来への希望を、3人は伝えてくれた。
これまで3人を見守ってきた人たちだけでなく、仮にこのライブでシュガーリリックを初めて知ったという人がいたとしても、このパフォーマンスから受け止められるものが何かあるはずだ。


14. Back to the Masquerade / シュガーリリック

パフォーマンス:シュガーリリック

ここで初お披露目となった、シュガーリリックの2ndオリジナルソング。

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なんだこいつら…。

アンコール!アンコール!!よっしゃきた!!と思ってたらいきなりこれ。なんだこいつら!

こんな人たち放っといて、ちょっとこの新曲について触れていきたい。

『Back to the Masquerade』
作曲・編曲 / Zekk
作詞 / 七条レタス(IOSYS)
RapLyrics / 龍ヶ崎リン

Zekkさんは韓国のトラックメイカー。BPMの高いダンス/エレクトロミュージックを数多く制作していて、日本の音ゲーにも楽曲提供している方。

七条レタスさんは、有名な同人音楽サークル「IOSYS」創設メンバーの1人。今回は作詞で関わっているが、「D.watt」名義で作編曲活動も。

龍ヶ崎リンはあの赤い龍ヶ崎リン。
シュガリリの1stオリ曲『Fall In Mystery』でも自らが担当するラップパートの作詞をしている。普段の日本語はガバガバのくせに、作詞をさせると毎回カッコいいものをぶつけてくるのが不思議でならない。

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この記事を投稿する時点では、歌詞の全文はまだ公開されていない。
アーカイブを聴き直してみたところ、シュガーリリックのメンバー【獅子王クリス】【龍ヶ崎リン】【虎城アンナ】をそれぞれ輝きの違う宝石になぞらえているように思える。

箱の中に閉じ込められて、独りでは自分の活かし方も分からず輝けなかった3つの宝石が、外の世界に飛び出して自らの個性を磨き上げてきた ―― 。
そうして輝きを増した3人が肩を並べて、厳しくも煌びやかな舞台へ歩み始める、そういったストーリーが思い浮かぶ。

タイトルにある"Masquerade"は「仮面舞踏会」という意味で、タイトルは直訳すれば「仮面舞踏会へ戻る」ということになる。
「仮面舞踏会」の参加者はそこに存在していて、皆楽しげでいるのに、仮面のせいで真実の姿や表情は見えない。これは彼女たちが活動しているVtuberの世界のことを示しているのではないだろうか。

ただ、シュガリリの3人が個性を磨いてきたのもVtuberの世界であるはずなので、そこに「戻る」ということをどう考えればいいのか、私の頭では追い付かないところではある。
でもまあ、そういう色々考える余地があった方が楽しいよね!ということでお願いします。

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いずれにしても、シュガーリリック3人の個性を発揮し、新たなスタートとして位置づけられたこのライブのラストを飾るにふさわしい、本当に今このタイミングだからこそ、シュガーリリックに必要なオリジナルソングだったことは間違いない。


おわりに

最後のまとめパートということで、ここから読まれる方もいるかもしれないのでまず申し上げておくと、半年前に行われた1stワンマンに比べて、今回の2ndワンマンはライブとしてのクオリティが段違いで進化していて、非常に満足感が高かった。

念のために言っておくけども、1stライブの満足感が低かったということではない。満足感というのはきっと【事前の期待値】と【実際に出てきたもの】とのギャップに左右されるものなので、

【Vtuberの音楽イベント】を期待してたらちゃんと【Vtuberの音楽イベント】が出てきたし、龍ヶ崎リンの歌に泣くくらい感動してしまったわたし

が、1stワンマン。こっちもめっちゃよかったのは確かだ。
これに対して、

【1stと同じくらいのVtuber音楽イベント】を期待していたら、いきなり【映像効果からカメラワークから別次元の演出で彩られたパフォーマンス集団のライブ】が出てきて3人からボコボコに泣かされてしまったわたし

が、2ndワンマンだ。コンビニで売ってる花火セット買って小さい打ち上げ花火に点火したら長岡の花火大会に出てくるような六尺大花火が打ち上がってしまったみたいなもので、まず驚くし感動するよねっていう話。なにこの例え話。

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さて、私は音楽系Vtuberのこういった形式のライブを多く観てきたとは言えないけれども、この「SugarLyric 2nd Mystery 〜Start the Mission〜」は、自分が観てきたライブの中で最高のクオリティだったと確信を持っていえる。

それはもちろん、私がシュガーリリックを見てきたことで事前に知識があるというのもあるし、龍ヶ崎リンの歌声が世界一好きでいるということも大いにあると思う。
しかし、今回のように全4種類のステージを渡りながら、カメラワークや映像効果がここまで凝ったライブを単純に見たことがない。

加えて、スタッフだけでなくシュガリリのメンバー間においても、互いにメンバーの良いところを生かして届けたい、観てくれる人を楽しませたいという想いのようなものが確かに伝わってきた。

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今回のライブは、「個性の発露」と「スタート」というのが二本柱になっている。
メンバーの「個」の力を、改めてシュガーリリックという「グループ」のパワーにして、新たなスタートを飾ろうという意志を感じる。

それは大いに成功したと思う。

これまでも、

シュガーリリックは個々だとバラバラだけど、3人集まると不思議とピッタリいい感じに噛みあう

ということは言われていたし、私もそう思っていた。ただ、そのイメージは「平面的なピースが組み合っている」ようなものだった。

今回の2ndライブを経て、私の中でメンバー3人の個性に深みが加わった。平面的なピースだと思っていたものは、実は立体だったのだ。

【獅子王クリス】【龍ヶ崎リン】【虎城アンナ】、それぞれ1つのピースだけを見ると歪な形だが、3つ合わさると互いにスキマを埋め合って、大きな「シュガーリリック」の形を作っているような…。

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このライブにおいて、「メンバーの個性」、「シュガーリリックのパワー」はたくさんの「意外性」とともに届けられた。

例えば、これまでの曲レビューで触れてきた龍ヶ崎&虎城による『シニカルナイトプラン』、獅子王クリスが『逆さまの蝶』で見せた新境地、龍ヶ崎&獅子王による『ブギーバック』、虎城アンナが『Hotel Moonside』で披露したダンススキルの底知れなさ。
龍ヶ崎リンは、おそらく誰よりも獅子王と虎城の長所を分かっていて、見事にそれを引き出せるような曲選をして見せた。

そして、全編をとおして「個性の発露」と「新たなスタート」というこのライブのテーマを最大限に体現したのは、獅子王クリスだった。
これまでのライブイベントでは見せられなかった芸術性と、深く閉じ込めていた優しく穏やかな心性を、彼女は見せてくれた。

皆が自分の居場所を作ってくれた。
シュガリリは私を含めたグループなんだって思った。

という彼女の言葉、終盤で龍ヶ崎リンと虎城アンナを仲間と呼んだことの重みは、文字以上の意味を持っている。

大仰なことをいうかもしれないが、この2ndワンマンライブをもって、シュガーリリックは本当の意味で3人のパフォーマンスグループとして出発できたのかもしれない。
「SugarLyric 2nd Mystery 〜Start the Mission〜」は先の未来において、シュガーリリックというグループの新たなスターラインとなった、記念碑的なライブとして振り返られるはずだ。

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最後になりますが、このような素晴らしいライブイベントを届けてくださったことについて、出演者であるシュガーリリックのメンバーはじめ、イベントに関わった全ての方々に感謝申し上げます。
また、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。





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