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第0話 関係としての惣邑を持ち返る

 4月から長井市地域おこし協力隊に着任した山崎 翔(やまさき しょう)と申します。これから、南長井にある「SENN」を舞台に、長井を中心としたアルカディアエリア(白鷹/長井/飯豊/南陽/小国)の関係案内所構想を具体的なかたちにしながら、同時にその意味を探るプロジェクトを始めます。

 今回は、その挨拶代わりとして、2022年3月11日から13日に起こったエピソード(出来事)について書きたいと思います。

 私と長井との出会いは、2016年まで遡りますが、このとき長井を訪れたのは、実に約2年半ぶりのことでした。思えば、これまで10回以上は長井を訪れていますし、時には2~3週間長期で滞在することもありました。でも、「誰か」と一緒に長井を訪れるのは、今回が初めてでした。

 私が、長井を再訪するきっかけになった人物が、日本・アルカディア・ネットワーク(JAN)の高橋 直記(たかはし なおき)さんです。2016年に長井市の西根地区で開催されている「ぼくらの文楽(2011年~)」で出会って以来の仲です。その関係は、一般的には、観光客(ゲスト)と観光地の住民(ホスト)の関係と言えます。

 今回の滞在最終日、長井から山形駅まで、直記さんが車で送ってくれたのですが、長井の地酒「惣邑(そうむら)」を買う予定が、それを直記さんが忘れていました。私はそのことを覚えていて、途中で伝えようかとも思ったのですが、まぁまた今度でもいいかと思って黙っていました。山形駅に着き、そのことには直接触れずに「山形駅で地酒買おうと思うんですけど、おすすめありますか?」と直記さんに聞くと、「あっ、ごめん、忘れてた!」と、私の想像以上に申し訳なさそうな顔をしていました。

   すると、この旅に同行した学生が「そういえば、今日、山形市内のイベントで惣邑売ってるって言ってましたよね?」と間に入ってくれました。私たちは、今回札幌(北海道)から長井へやって来ましたが、同行した北海道出身の学生2人は初めての山形訪問です。そのうちの一人は昨晩飲んだ惣邑をたいそう気に入り、いつの間にか製造・販売している長沼合名会社までの道のりを記憶し、さらには、私が発した何気ない一言を覚えていたのです。仙台へ向かうバスの出発時刻が迫っていたため、惣邑を売っている場所まで行くのは断念しました。結局、山形の別の地方の地酒を買うことに、何だかこの上ない違和感を覚え始ました(一方で、それは山形の他の地方のお酒と出会う契機にもなりました)。少なくとも、私自身は、旅の締め括りに、すごく重苦しい空気をつくってしまったなあと申し訳ない気持ちになったのです。

  その違和感を抱えたまま、バスの出発時刻が迫ってきました。バス停に向かおうとしたところ、「ちょっと待って!」と直記さんが呼び止めました。そこで差し出されたのはできたての山形名物玉こん。寒空の中、4人で互いにからしを掛け合いながら食べる玉こん!それはもう格別でした。直記さんと学生二人の行為(パフォーマンス)は、私自身の中にあった重たい空気を打ち消してくれ、それまでの出来事は玉こんのための演出であったかのようにさえ思えてきました。

 思えば、直記さんが、制度化されたツアーガイドだったら観光客として、「買い忘れている」と遠慮せず伝えたかもしれない。あるいは、パッケージ化されたツアーだったら、そのアクシデントは起こらなかったのかもしれない。でも、私にとって直記さんとの関係は、この6年の歳月の中で、観光客と観光地の住民以上の関係に成長していて、だからこその遠慮がありました。それは嫌われたくないがゆえの遠慮ではなく、信頼し合っているからの配慮です。さらに言えば、その重たい空気自体が、一過性の観光では醸成することのできない空気感です。なぜそれが、この長井という場所で生まれたのか。それを実際にこの長井で暮らしながら、言葉にしていくのが、今からSENNを舞台に始まるプロジェクトです。

 旅のお土産を購入するとき、その土地で生産・製造されているものを選ぶことに留まらず、「関係を持ち帰ること」。今回の惣邑には、この旅の登場人物のパフォーマンスのおかげで、その力が宿りました。ここで惣邑を持ち帰らないと、その関係を持ち帰ることができない。そんな気がしたのです。

 このエピソードは私の過剰な思い入れに過ぎない部分もあるでしょう。ただ、少なくとも私という個人にその思いが宿ったのは事実であり、それは長井でなければならなかった理由があるはずです。

 長井でウチとソトの関係を創造しながら、その意味を言葉にすること。それがまた、長井を流れる水のように浸み渡り、次の関係の土壌になる。そんな循環する場をこれからつくっていきたいと思います。その物語は既に始まっています。気になる方はこちらをどうぞ。

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