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【9月23日鶴居村講演会〜山奥の楽園編〜】
ヒッコリーウィンドの中にある秘密基地。
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圧巻のウイスキー棚、一枚板のカウンター、真空管アンプの音響設備、無数のレコード盤とCD、コレクションされたいくつものパイプに、アフリカツインなど数台のごついバイクに、壁にかけられた何本ものギター。
無頼派の美学が詰まってはいるけれど、きっと形だけ、知識だけ、の方だと本当の意味で安藤さんとの話は合わないだろう。
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昔、勤めていた会社の女性社長の影響でブコウスキーを集めて読んだ時期があった。暴力的な描写も少なくないその表現。
酒、女、競馬に溺れる主人公を完全に憎めなかったのは、ブコウスキーが作品の中でずっと、哀しみを哲学していたからだと思う。
この女性社長は「私が男だったら『住所不定無職』になっていたかもしれない」とたびたび聞かせてくれたが、あながちこの言葉を笑い飛ばせないほど、自分も共感の端っこを握っていた。
自分が男だったら。
そう思いを巡らせていたあの頃の私。
ひょっとするとこの人だったかもしれない、と目の前のクマのような男性を見て感じる。
その人の名前は安藤誠さん。
初対面なのになぜだろう。この人の奥行きにやはり、共感の端っこを握ってしまう。
秘密基地に話を戻す。
講演会が終わり、何人かの宿泊客の方々と共に、この空間の仲間入りを果たした。
カウンターの中で自称「クマ系」の安藤さんがパイプをふかしている。
横にはチャーミングな奥様の忍さん、そして山本さんも並ぶ。
昔はアイラ系のスコッチをよく飲んでいた私。今はスペイサイドが好みだと伝えると、マッカランのクエストを出していただいた。
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丸く削られた氷。バカラクリスタルとおぼしきグラスの中に注がれた飴色の液体。天使はこの分け前をどう味わっているのか、酒意地の汚い私はついつい蒸発するその一滴のことまで考えてしまう。
おもむろに安藤さんが金属製ギターを弾き始めた。
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音楽を奏でている様子はひと回り大きな竹原ピストルのよう。
自著を書いたとき、籠っていたホテルでかけていたのはカーペンターズとキャロルキングとクラプトンと竹原ピストルだった。
Amazing Grace聞いたら泣いてしまい、原稿書く手が止まった。
安藤さんにいくつか曲をリクエストしてかけてもらった。
チャックベリー、ルイアームストロング、クラプトン。
お酒がなくなる頃にはまた新しいものが足された。
グレンモーレンジのエクストリームレア18年、
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ロイヤルサルート21年。
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ただただ美味しかった。
ゆっくり味わいながら、時々リズムに合わせて体を動かしたり、時々目を閉じて昇天しそうになったり。
6月に伺った岡山の講演会。翌日あの初夏の庭でみんなとバーベキューしながら私は幸せすぎて魂が抜けそうになっていたけれど、同じ感覚。
映画「ソウルフル・ワールド」でジョーがジャズピアノを弾いているうちに入ってしまう、「肉体と精神の間」のようなゾーンとかフローとかの、あの感じだ。
この7分30秒からくらい。
「最後の一曲は?」と安藤さんに声をかけられて、カーペンターズの「Yesterday Once More」を。
突然にカウンターで立ち上がり、スマートフォンの歌詞カードを手にしてマイクもないのに最後まで歌うという、翌日にも人前で話す予定を控えているというのに酒ヤケの声がさらに低くなる失態を犯しつつ、でも、とにかく最高だった。
大好きなスコッチ、大好きなメロディ、初めて会ったと思えない人達、大切な友人。
今思い出しても少し涙が出そうになるくらい、あのアジトは人生のご褒美だった。楽園そのものだった。
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「苦労をくぐり抜けている人はわかる」
と、安藤さんは私のことをそう仰ったけれど、安藤さんこそ数々の重荷をその大きな背中に背負ってきたのだと思う。
安藤さんの声と、安藤さんの文章と、安藤さんの写真は全部一貫していて、同じ匂いがする。
答えの出ないものに答えを出そうとする人たちはみんな、こんな背中をしているのだ。
かくして、部屋に戻ったのは24時前。
そこから2時間、その日午後に話す内容のスライドの残りを仕上げて先方にお送りし、顔を洗って歯を磨いて、ベッドに入った。
朝晩は冷え込むと言われていたけれど、まったく寒くなかった。
気温もそうだけれど、手のひらの中に温もりがあったのかもしれない。
小さくて、でもたしかな、私の大好きなタイプのそれが。
アジトのカウンターで目をひいていた美しいガラスのランプ。
ベッドサイドに置かれた、仕事が細かいレザーのランプシェード。
これらの作品がどうしてヒッコリーウィンドのそこかしこにあるのか、
その正体が翌日明かされ、北見への道中にまた忘れらない思い出を作ってくれました。
ということで懲りずにお付き合いを。
続く。
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