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円形劇場

ミヒャエルエンデの『モモ』が住むのは、廃墟となった円形劇場。
私は世の中に、この円形劇場のような場所を“本を置きながら”増やしていきたいと、しみじみ思っている。

センジュ出版は2015年の9月に創業。
当時築40年近い木造アパートの2階で、6畳をふた部屋お借りしてリノベーションし、事務所にした。
11月、その1室の畳張りにした6畳にさらに手を加え、book cafe SENJU PLACEとして正式に保健所の許可がおりて、小さなカフェをオープンさせた。

そこにあるのは、ちゃぶ台がふたつ。本棚が3本。
1つ目は販売棚、2つ目はカフェ内でのみ誰もが読むことのできる本の棚、3つ目は貸し出し可能なミニ図書館棚。
そしてハンドドリップコーヒーと少しの焼き菓子、しずかに流れるラジオの音。

このカフェを開けてから現在の予約制にするまでの4年近くの間、
私はここで、ちゃぶ台を挟んで、お見えになるお一人おひとりの話を何度かうかがった。
次第に業務が増え、スタッフが増え、2018年くらいからはほぼカフェの運営をスタッフに任せて、社外での打ち合わせも多くなっていたけれど、
それ以前は会社が暇だったこともあり、ゆっくり、目の前の人の話を聞いた。
お客様だけではない。
スタッフとこのスペースでどれくらいの時間、対話しただろう。泣くことも、笑うことも、怒ることもあった。
でも、どんなに仕事が詰まっていても、目の前の人との話を私は最優先させていた。

いま私は、会社のすぐそばで、もともと肉料理とワインをメインとした飲食店が入っていた場所を12月から間借りし、
本と酒スナック明子」というブックスナックに、週に3日ほどママとして立っている。
日中はお子さん連れのお母さんたちも活用できるようなレンタルスペースになっているこの場所を、
(木目調のカラーボックス4本からなる)カウンターやお酒などを毎回バックヤードから出して夜間のみ設営、
外に看板を出して、24席程度のお店でお客様をお迎えし、オープンして4ヶ月目に入った。

新型のウィルスのことで今月のイベントこそすべて延期となったが、
オープンしてすぐから、著者や編集者、書店の方とのトークイベントや、企業研修の場、大学のゼミの集まりなど、多数のご利用をいただくようになり、
本に触れていただくこの場所の可能性を、少しずつ感じている。
(先日はソトコトの連載で、田中康夫さん、浅田彰さんにお越しいただくこともあり、かなり緊張した)

もともと会社員時代からよく飲みにいくたちだった。
妊娠、出産を経てその頻度はさすがに減っていたものの、
センジュ出版を立ち上げ、さらに息子が小学校に上がってからは、
かつてのようにお酒の席のお付き合いが増え始めていた。
とはいえ、経営者としては自社の本も届けたい。
果たしてどうしたらいいかと考えた結果、
「チャージが1冊の本購入」
というシステムを思いついた。
センジュ出版の本、そして私が個人的に仕入れた本を、チャージとして1冊選んでいただき、
お会計時にご購入いただくことになっている。

今年で45歳。
ますます、私は大切な友人と笑い合う時間を過ごしたい。
その数少ない友人は「本」がつないでくれる。
どんな本でもいいかというとこの年齢になるとそうでもなく、
「ほんとうのこと」が書かれた(と私がごく個人的に感じる)本が結んでくれる人との時間を、
これからの人生、大切にして生きていきたいと、そう願う。

このスナックによく通ってくださる方は、
センジュ出版の本や、私が好きな本を好んでくださる方が少なくない。
もちろん、本をすすめていただくこともある。
年齢は20代から60代までと幅広いけれど、ご一緒していて、お話ししていて、シンプルに楽しい。

そして、時にはこの場所でかつてのカフェでのように、ご相談を伺うこともある。
先日も、ファンクラブ会員の方がとあるご相談でいらっしゃった。
悩んでいらっしゃるのがよくわかったものの正直な私の思いをお伝えしたところ、
帰り際に「本当に来てよかった」とおっしゃってくださった。
そのお顔を拝見し、この場所を作ってよかったなと、しみじみ感じるのだ。
私はセンジュ出版の読者の方に、こういうお顔を浮かべられる日がその人の人生において一日でも多く訪れてほしいと、
ただそれだけを願っている気がする。

カウンセラーになりたいわけではない。
いつも、縁あった友人として、目の前の人にただ思ったことを正直に伝えるだけだ。
できれば笑顔になって帰っていただけるように。
だからこそ、カフェもそう。スナックもそう。
この場所をこれからも、本と、人に、守ってもらおうと思っている。

あの日のモモがいた、円形劇場のように。

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今日の1冊 002:『COJI-COJI』(さくらももこ著 ソニーマガジンズコミックス 現在は新装版がりぼんマスコットコミックスより発売)
私にとってこの本のある本棚の場所:自宅居間の本棚
この本を選んだ理由:
自分が人の話を聞く時にいつも浮かんでいるのは、コジコジ。
いつだって正直者だけど、少し口が悪い。たまにいいことも言う。
大バカであるが故に、憎まれない。
そんなコジコジは宇宙生命体らしい。。

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『しずけさとユーモアを 下町のちいさな出版社センジュ出版』(エイ出版社刊)

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