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文次の手紙#15

政次さま

拝啓 その後に変わりありませんか。僕も益々元気です。他事ながらご安心ください。7月6日、7月22日付の手紙相次いで受け取りました。慰問袋(第3回目)も無事届いていますれば何とぞご安心ください。万年筆も立派に届いています。

内地もだいぶ暑いようですが南支の暑さもまた格別です。しかし暑さもなれて大して苦しい事はありませんが、蚊軍の襲撃には相当悩まされます。
内地は今年は水が非常に少なかったようですが、当地では少し雨が降るとすぐ水が氾濫して一夜のうちに田んぼも道も一面の湖海と化してちょっと壮大なながめです。ちょうど稲刈り時でしたが、土民【※1】は船に乗って野良に出かけ、船の上から稲を刈るという珍風景も見られました。いまでは第二回目の田植えが始まっています。

この間○○演習に行って、偶然にも萱田さんと隣り合わせの兵舎にいた為に色々故郷の話等を久しぶりに語り合いました。

目下○○候補者教育も都合により一時中止のやむなきに至り、それぞれ各隊に復帰しました。僕もまた隊に帰り、元の警備地にて警備の任についています。南方方面の複雑な状況も聞いていますれば益々緊張して事に当たり、来たるべき戦闘を待機しています。

あるいは当分の間、便りが出されないかもしれませんが、便りがないとて心配されないよう母上様にもよろしくお伝えください。姉も更生の道を確かに守って働いているとの事、僕も遠くから喜んでいます。昭人、昭子さんにもよろしく。

では皆様の健康を祈ってペンをおきます。

昭和15年8月3日(8月21日到着)

文次より

本文中の〇〇は全て伏字、原文ママ
【※1(原文ママ)】現地の部族

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