政次の手紙#01
文次殿
福岡の練兵場で厳かな出陣式を見、大里の宿舎永岡様方で親切極まりなき饗応を受けて、門司の岸壁で御用船の出帆を陰の終わるまで見送ったのはつい昨日のようでしたが、もはや一か月以上となった。毎日の様に第一信を待っていたが、2・3日前、花田君の便りの中に三里ばかり離れた新塘【※1】という所で、目下、検閲前で大いに働いている。軍隊にもすっかりな馴れてすこぶる元気旺盛である安心せよとの事で大いに喜んで近いうちに便りをするだろーと待ちていた。本朝、手紙を見て一層安心しました。
うちの者も皆々壮健で粘々と働いておりますから何にもご心配はいりません。昭人もいよいよ来たる4月1日から新入学をする事になって楽しんでおります。その後、野見山隊長、班長、大賀、小西さんへはそれぞれ礼状を出しました。また、手厚き返事もいただき、お預けの着物も、行きて受け取って来ました。2、3日前、班長さんが伝書鳩の練習に当地まで来たと言うてちょっと立ち寄られました。
大里の永岡さんへは豊盛り【※2】と魚を宅扱い鉄道便で贈りました。大変遠慮されたが、非常に喜ばれました。古賀の方も先日、安産をして(女子)、母子ども健全で多いに安心致しました。今日君が事も知らせておきます。
興亜の聖戦長期建設国家の大業も、挙国一致の力により、坦々とその度を進め汪政権【※3】の確立、ソ連の縮小等、和平を示しつつあるようですが、決して油断はなりません。ますます、意気を奮いて帝国の武威を発揮し、隙を見せてはなりません。この時こそ、大切な時期で最も頑張るべき過渡期ではないかと思われます。出征の際、分隊長の選に漏れたのは何より遺憾に思い、千秋の恨みとするところであります。この度はまたさらに編成も変わり、教練も更新された事と存じます。大いに発奮また人に負けぬと之自信を得るまで体を惜しまず勉強して。要領も必要であるが、何と言っても実力を発揮してどこまでもガンバルのだ。
戦地において困苦欠乏に堪えるという事は武士の常。決して不自由を思ったり、不平不満を言ったりしてヤケになる様なことがありてはなりません。精神一致、何事も不成一定不撓の信念を養いて進まねばなりません。それに就労は第一健康だ。身体に異状を呈する様な事があっては何もかも駄目です。思う事の半分もできぬ事となる。一歩でも人より抜けんとすれば身神(体と心)の強健だ。それのみ終始私どもの念願にかかりておるのであります。
ますます暑くなるにつけ、悪疾のはやり、毒虫等の害、大に気をつけてください。慰問袋を送ろーと思います。必要の品をお知らせください。また班長や教官のお名前が承りたい。相当の教養ができたら進みて第一線に立つが出来様と思う。人におくれぬ様に進軍選抜せられんことを希望する次第であります。
暇があったら状態を詳しくお知らせください。さようなら
昭和15年3月27日
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