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【1%ノンフィクション】Vol.0646(2009年10月28日発行のブログより)

どらえーもん。(≒very good thing)

岐⾩県各務原かかみがはら市に少年⾃然の家という施設がある。

ここは市内では⼩学⽣の合宿研修施設として知られている。

ウリは当時としては巨⼤なプラネタリウムだった。

プラネタリウムは神秘的で恋に落ちやすい。

甲が⼩学校6年⽣の夏休み、市内の⼩学校の5年⽣ と6年⽣から
各1⼈ずつ代表で選ばれて参加するという2泊3⽇の⾏事があった。

そこで甲は選ばれた。

甲にしてみれば貴重な夏休みが奪われてしまい、正直迷惑な話だった。

合宿では施設のすぐ横にある⼭に登ったり図画⼯作をしたり
星座を記憶したりと様々な課題をクリアしていくというものであった。

甲が⼀番苦⼿なタイプのでしゃばりなリーダー格で
男勝りなタイプの聞いたことのない⼩学校の⼥⼦⽣徒“⼄” に出逢った。

たった48時間の合宿にもかかわらず⼄とはいかにも気が合わなかった。

起床時間の際に⼄が友⼈たちを引き連れて
甲たちの部屋に乗り込んできたくらいだ。

これによって両部屋の宿泊者全員が廊下に出されて
説教を⾷らったくらいだ。

翌⽇の昼過ぎに解散になるが、
甲は⼄ともう会わなくてもいいかと思うと⼼底せいせいした。

何といってもそれまで⽣きてきた12年間の⼈⽣で
最も嫌いなタイプだったからだ。

その数⽇後に夏休みのプールで友⼈と泳いでいると、
 腕っ節の強いので有名な担任の先⽣から声がかかった。

「甲ちゃん、⾃然の家の合宿楽しかったぁ︖」

甲は思い浮かぶのは1泊⽬の夜に⼤⽬⽟を⾷らったことくらいなので、
正直に
「夜、怒られました」
と答えた。

先⽣は、
「後から部屋に来い。どらえーもんやるわ」
と⾔った。

正直、甲は殴られるのかと思ったが
“どらえーもん” とは⽣まれて初めてのラブレターだった。

しかも、相⼿は⼄。

封筒には恥ずかしげもなく担任の先⽣から甲にきちんと渡すように
⾚ペンで明記してある。

中⾝には⻑い⽂章が綴られていたが、
甲にはその隠喩や遠回しな表現がさっぱり理解できなかった。

1ヶ⽉ほど返事をせずにいると再び⼿紙が学校に届いた。

甲は怖くなってまた無視した。

あれだけお互いに嫌い合っていたはずなのに理解できなかったのだ。

担任の先⽣もからかいながら
「甲ちゃん、ちゃんと返事はしたか︖」
と⾔ってくるようになった。

今にして思うと先⽣は結構真剣に甲に催促していた。

結局返事はしなかった。

⼆度と⼄から⼿紙が届くことはなかった。

しかしその後まる4年経ってお互いに⾼校⽣になったある⽇、
甲と⼄はばったり出くわすことになる。

⼆⼈とも、⾔葉を交わさずともお互いが誰なのかがわかった。

「あ、・・・」

甲はその後何年経っても
⼥性をがっかり・うんざりさせることを繰り返すことになる。

⼈⽣は、修⾏だ。

...千田琢哉(2009年10月28日発行の次代創造館ブログより)

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