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痛かった、お昼休み

中学二年生の、夏服の時季。

お昼休みに4人で校庭で遊んでいた。メンバーはみんな僕と同じクラスメートで、放課後遊ぶ仲というほどではなかったが、喋るとそこそこ楽しいくらいの関係の人たちだった。

確か昼食を食べ終わった後は、30分とかそこらしかない時間だったと思うけど、その中の残り15分くらいの間は、4人の誰かが体育倉庫の裏に落ちてた軟式野球ボールを見つけたので、それで軽いキャッチボールをして遊んでいた。

チャイムが鳴って、みんなで下駄箱へ向かって校庭を歩いていた。もちろん、他の生徒たちも思い思いに歩いている時間である。

そこで事件は起こった。

怒号が後ろから聞こえてきた「おい、デブ!」と。たまたま、僕ら4人以外に近くに人がいる気配はなく、その中で太っているのはちょうど僕しかいなかったのであった。内心ものすごくビビりながら、「なんか呼ばれてるんだけど」と半笑いを作って他の3人にも話しかけてみたが、生返事が返ってきて、声を掛けられていない他の3人の方が、僕より怯えている感じがひしひしと伝わってきていた。ただ、僕も怯えていたのは間違いない。

多分、自分だよな……と意を決して振り向いて、「はい」と返事をすると、見たことのある先輩がいた。名前は知らないが野球部であることはすぐに分かる程度の人が3人。3人とも僕を睨んでいた。僕が何をしたというのか。

返事をして立ち止まると、僕と遊んでいた他の3人はそそくさと校舎へ戻っていってしまった。中学生当時、先輩が怒ってきたら逃げたくなるのも容易に理解できる。

先輩方のうち、怒号を飛ばした真ん中のTさんが、まるでドラマのセリフのように「お前ちょっと裏来いよ」と言ってきた。他の2人の先輩は、僕が裏にエスコートされている間にいなくなっていた。

そして校舎裏にTさんと二人きり……どうやら怒りの告白だ。自分たちの部活のボールで遊ばれていたことが気に入らなかったらしい。倉庫にしまわれずに「落ちていた」ボールでたまたま遊んでしまっていた僕たちにまさしく「落ち度」があったという話だ。正直、あんまり納得できなかった。

その後は2,3回ほど「調子乗ってんじゃねえぞ」的なセリフを言われた気がするけど細かく覚えていない。不思議と、先輩相手にも関わらずだんだん僕の方の怒りもこみ上げてきた。

ただ、先輩もさすがに語彙が尽きてしまったようで、僕の胸元目がけて肘を使って殴ってきた。計2回の殴打、今思い返すと特殊な殴り方だった。

先輩は睨みながら先に校舎に入っていき、僕も5時間目の音楽に向かうために急いで戻った。この時は、僕も先生が好きではなかったために、報告しようという気にもならなかったので、何事もなかったかのように音楽室に移動した。

音楽室に着くと、先に帰られてしまった3人が僕を見つけて話しかけに来た。僕は起きたことの壮絶さを伝えるのは性格上苦手だったので、あまり大したことなさげに「なんか先輩に殴られたんだけど」と、人生のビックリしたエピソード集に一つ追加することにした。

そのTさんは、先輩たちのなかでもあまり好かれていないことを知っていたので、その後の学校生活に支障が出ることもないという自信もあったし、実際にもなかった。

大人になって、時々競馬をやる時にTさんと同じ名字の騎手を何度も見るが、今では好きな名前にもなっている。ただし、Tさんとはそれ以降一度も話したことも会ったこともないので、それはわからないが。

何はともあれ、2019年3月。この時期は花粉症でくしゃみが止まらない。

なんだか「胸が痛む」

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