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往年のミステリーのような『ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~』(三上延)【読書ログ#162】

『ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~』(三上延)

太宰の古書をめぐる長編1本。本作も、大輔と栞子のうぶな恋愛物語の合間に、古書をめぐるミステリーが展開される。若者向けなので、すれっからしな大人は、ストーリー部分をそれなりに我慢をしながら読む事になるのだけれど、今回も古書をめぐるミステリー部分が面白いので全然問題無い。

話の展開のしかたや、古書をうまくミステリーにからめる手腕が、巻を進めるつれこなれてきているので、この構成が本シリーズで終わってしまっているのがもったいない気がする。

今回は、20代の無名作家だった太宰のデビュー作である『晩年』をめぐる話を中心に、栞子の一族の謎に迫る。

第一章『走れメロス』
第二章『駆け込み訴へ』
第三章『晩年』

今回話の中心になる『晩年』は太宰のデビュー作で、初版で500部しか印刷されなかった。しかも、アンカット製本だった。これは、製本の際にわざとページを裁断しないで、購入した人が、読みたいページを次々にペーパーナイフなどで切り開いて読んでいく本の事。現代では付録のページ位でしかつかわれていないようなギミックだが、昔の文学作品では本全体がふくろとじになったまま世に出る事もあったそうな。

そんな、数も少なく、カットもされていない初版本は当然、貴重なものとなる。

本作で取り上げられる『晩年』のアンカットが未開封の初版本は、一作目にも出てきた栞子が保管するものだが、その一作目で『晩年』に執着するあまり犯罪にはしり逮捕された男から、さらにもう一冊、別の『晩年』を探すよう依頼されるところから物語が始まる。

ちょっと仕掛けを入れすぎたかな? ラストの展開などは多少無理やりな感じもあるが、往年のミステリー作品を読んでいるような醍醐味もあり、これはこれで悪くないね。なんて思える終わり方。

男女の物語が、親子の物語になり、本作では一族の物語になってきた。いよいよ次巻でラストに。

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。