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『ガソリン生活 (伊坂幸太郎)』【読書ログ#12】

我が家では、2年に1度、7月に車検の時期が来る。今年も来る。今年も来た。

ディーラーの見積もりを見ると、中古車購入の見積と勘違いするような金額にクラクラした。だが、最近の車はディーラー以外に出すとロクな事が無いので、多少高くてもディーラーに出す。税金だと思うしかない。

明細を見ると、オイル交換は約8リットルで3万円以上かかかるそうだ。これは、同じ量のジャックダニエルズよりも高い。十四代の本丸よりも高い。大豆白絞油なら3000円で釣りが来る。だが、このオイルにしないと車が機嫌を損なうそうだ。仕方がない。

それ意外にも、聞いたこともないパーツがどんどん交換対象となるので、あれこれと理由を聞くのだが、すべては車の機嫌の為らしい。

さらに、見積もりの説明の途中で、メカニックが頭をさすりながら、ボンネットを持ち上げるダンパーを交換しないかと持ちかけてきた。

油圧かなにかが弱くなっていて、作業中にボンネットが落ちてきて上半身を挟まれたそうだ。

ディーラーに居る全員が、総掛かりで私の小遣いを全てむしり取りに来ているのかもしれない。

だが、メカニックの下手な演技はさておき、ボンネットが固定されないのは申し訳ないので交換を依頼した。頭をさするメカニックに「挟まれるくらいなんだ! 我慢しとけ!」とは言えない。これには4万円かかった。

メカニックへの優しさのために4万円。家族にだって、めったに使わない金額だ。

ちなみに、私はこの車でボンネットを開けたことがない。もうしょうがない、全部税金だと思って我慢するしかない。

車検では、車の点検以外に税金も取られる。重量税というらしい。重さに応じて税率が決まる。ちょっと意味がわからない。京王線に乗っていて、あなたは小太りだから運賃2倍ね。なんて言われたことは無い。

ついこないだ、今年の自動車税を払えと言われたので払ったばかりだ。重量税と自動車税は何が違うのか。消費をすると消費税。自動車に乗っているから自動車税。重量があるから重量税? 重たいだけで税が取れるなら、MacBookPro からも税金を取ればいいのに。インゴットかと思う位重たいよあれ。

そんなわけで、車に乗っていると、2年に1度税を取られ、1年に1度税を取られ、給油のたびに税を取られる。

そう、給油もひどい。給油をすると、アラブの王様への支払いとは別に、あれこれと税金がかかってくる。

まずは石油税だ、消費をすると消費税だが、石油をすると石油税だ。そしてガソリン税(本則)とガソリン税(暫定)が来る。ガソリンをするからガソリン税だ。

ふと、ガソリンは石油じゃないのか、石油でガソリンじゃないのかと思うが、これくらいで怒っていては身体が持たない。

ガソリン税の(本則)と(暫定)ってのもよくわからないが、それ以上にわからないのが消費税だ。消費をするから消費税だ。税を消費したのかな。よくわからないが、税金の支払いに税がかかる。追い鰹ならぬ、追い税金。

だれか、この仕組をうちの6歳と3歳の娘達にもわかるように説明してほしい。彼女たちは、メルちゃんのお世話10点セットが欲しくても、家が貧乏だからと買ってもらえず不満を溜めているというのに、その横でパパがガソリンをジャブジャブ給油して一万円とか使っている。

ジャブジャブで思い出したが、我が家の車は7人乗りだ。家族4人プラス同居の義父、義母を連れて移動する事があり、このサイズが良いのだけど、7人乗れる車は大きい。大きい車は重たい。重たい車は燃費が悪い。実に悪い。リッター5キロだ。実に悪い。ジャブジャブと飲み込んだガソリンをそのまま垂れ流すような車だ。

そこへ来て車検なので、ふと、もっと燃費の良いクルマがいいなぁ。なんて思いはじめてしまう。買い替えとか検討しはじめてしまう。

そんなタイミングで読んだのがこの『ガソリン生活』だ。

ディーラーでの車検見積もり待ちで読み始めたのだが、伊坂幸太郎はやっぱり面白いなと嬉しくなる作品だった。

フィクションでは、大抵は誰かが『語り部』となる。その『語り部』は、物語の進行を説明し、読者の理解を助けたりする。

シャーロック・ホームズだとワトソンがホームズの助手であり、事件の記録係という役割だが、小説では、そのワトソンが過去の事件を紹介する一人称小説、という体裁になっている。(こういうのを『ワトソン役』というらしい)

三人称の視点だと、神のように登場人物たちの頭の中まで見通していたり、RPGみたいに俯瞰して見ていたり、ただただ客観的に観察するように書いていたり。

本作では『車達』の一人称で物語が紹介される。もう、何を言ってもしょうがないから読んでほしいのだけど、コレがとにかく痛快で面白い。

『ガソリン暮らし』の世界では、車たちは、排気ガスが届く範囲の距離に居る車同士で会話が出来る。ファミレスの駐車場に入ると、「やぁ、緑のデミオ!」と声をかけられたりする。

彼らは車なので、話題の中心は車社会とそのオーナーの話題となる。彼らはすれ違うたびに情報交換をし、どこそこで事故があった、だれ(車)が事件にまきこまれたなど噂し合う。

しかし、話が出来るだけなので、映画『カーズ』のように、自主的に動いたりは出来ない。よって、人間側になにかアクションをする事はできない。すれ違う車に「この先は事故で渋滞だよ」と伝えられても、自分のオーナーに伝える事は出来ないし、自分のオーナーがピンチになっても助けられない。ひたすら傍観するしかないもどかしさに車達はもだえるが、読んでいる私ももだえてしまう。

物語は、とある家族を中心に進行する。本の裏表紙の筋書きにかかれているから言っちゃうけど、素敵な女優さんが主人公一家の持つ『緑のデミオ』(マツダのコンパクトカー)に乗り込んできて知り合うのだけど、その翌日に不可思議な事故で亡くなってしまうという事件がおこる。

この事件の顛末を中心に、家族におこる様々な出来事や事件を『緑のデミオ』視点で見ていく事になる。

車以外の人物たちも魅力的なのがこの作品の素晴らしいところ。いかにも伊坂幸太郎っぽいキャラクター達がでてきて楽しませてくれる。

理論派で弁の立つ生意気だけど優しくて親切な10歳の小学生や、天然ボケの兄、さばさばしたお母さん、護身術マニアの校長先生、実は気のいいあんちゃんなパパラッチ。みな魅力的で好ましい。

物語の構成も巧みで、車視点を活かしきった話の組み立てはとても楽しめるものになっている。しまいには、車相手に泣きそうになるし。とてもおもしろい作品でした。おすすめ!

先日、我が家の車が車検から戻ってきた。

デカイし、燃費は悪い、そのかわり超安全で乗り心地も悪くはない。

たまに、もっと取り回しの良いクルマに買い換えようかな? なんて考えて中古車検索を三日三晩(楽しいのだ)していたりすることもあるが、この『ガソリン暮らし』を読んだら、妙に愛着がわいてきた。

高いオイルにしたし、消耗品はあらかたピカピカの新品だ。機嫌よくしてるかな。

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。