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ナマコとホヤは美味しい『ウニはすごい バッタもすごい - デザインの生物学』(本川達雄)【読書ログ#149】

様々な生物が、長い長い、長い年月をかけて環境に適応してきた物語。その物語は、生物各々の身体デザインに現れている。著者や他の生物学者は、それを丹念によみとき、そしてこういった書籍で私たちに言語化してつたえてくれる。素敵な世の中よね。とても充実感のある読書をした。

それにしても、

人類で一番最初にナマコを食べた人は、どんな思いで食べたのだろう。

人類で一番最初にホヤを食べた人は、どんな思いで食べたのだろう。

人類で一番最初にウニを食べた人は、ラッキー! これ美味い! 醤油! 醤油もってきて! となったのだと思うけど、ナマコはその場で食べられる気がしない。

調理が必要だし、調理を始める段階になるまでの加工や処理に一生懸命になる必要がある。なぜあれを食ったのか。なぜ、そこまでして食ったのか。

ナマコを握りしめると、尻から腸を出す、そしてゴシゴシすると硬くなる。

同じ惑星の仲間とは思えない。

ホヤもヤバイ。

懇意にしている蕎麦屋の大将が「お前らだけ飲んでいてズルい、自分も酒を飲みたい」と、週末に店を閉めて常連をあつめた飲み会を店で開催したことがある。

つまみは各自が持ち寄るのだが、蕎麦屋の大将はホヤをもってきた。なぜホヤか。あえてホヤか。

ホヤはすごい。見た目がすごい。ホヤ見てごらん。

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赤くてごつごつしてよくわからない生物だ。どこに売ってるのか。オオゼキにもサミットにもコープにも無い。

可憐な女性や子供がわしづかみにしても、そのよくわからないっぷりは変わらない。

歌もあってミュージックビデオもあるのだけど、サムネイルだけみたら、動物から心臓をもぎ取った直後みたいに見える。捧げものじゃぁーとセリフが聞こえてくる。MVはカワイイから見てね。

蕎麦屋の大将は、見事な手さばきでホヤを処理しながら「いいねぇ、うまそうだ」というのだけど、さばくところを見ていても、ちっとも美味そうにはみえてこない。

これに包丁を入れながら、美味そうだ、と言える人類はすごい。

食べると美味いけどね!

といった感じの話を、酒を飲みながらよくしている。そのあとは、世界の珍味について盛り上がったり、生物多様性に思いを馳せ、己らの特殊な遺伝形質を開陳しあい、ゲタゲタ笑ったりしている。

不惑を超えて、モテる必要も、モテたいと願う体力も失ったどうしようもないオッサン飲みの会話のネタの一つだ。

さて、久しぶりに新書を読もうと、書店でぶらぶらしていたら、すごく魅力的な題の本があったので、手に取り目次を見ていたら、なんと、ナマコとホヤで、それぞれ章を割いていた。

『ウニはすごい バッタもすごい - デザインの生物学』(本川達雄)

第1章  サンゴ礁と共生の世界——刺胞動物門
第2章  昆虫大成功の秘密————節足動物門
第3章  貝はなぜ螺旋なのか———軟体動物門
第4章  ヒトデはなぜ星形か———棘皮動物門Ⅰ
第5章  ナマコ天国———————棘皮動物門Ⅱ
第6章  ホヤと群体生活—————脊索動物門
第7章  四肢動物と陸上の生活——脊椎動物亜門

ナマコ天国! ホヤと群体生活!

本書、とても売れていたので、実は、前から気にはなっていたのだけど、買うに至っていなかった。でも、目次をみたら欲しくなった!

ということで購入。

本書では、生物がいかに工夫にまみれた生き方をしているのか、結果として身体がどのようにデザインされてきたのか、そういったことが事細かに紹介されている。

全ての章が面白くて、こりゃ凄い本だな! って思うのだけど、個人的にはね、やはり、ナマコとホヤに感心・歓心しました。

皆さんも是非、4章のヒトデから始まる棘皮動物門から、脊索動物門への流れにしびれてほしい。

棘皮動物というのは、5つの仲間で構成されていて、ウミユリ、ヒトデ、ウニ、ナマコ、クモヒトデがメンバーだ。なんと、ヒトデとウニとナマコは仲間なのだ。

ヒトデを海で見かけたことはあるでしょう? でも、ひっくり返したことありますか? ありますよね。

上からみたらかわいいのに、ひっくり返したら足みたいな器官がムニャムニャ動いていて、遊星からの物体Xみたいなグロテスクさで放り投げたことがあると思いますよ。ありますよね。

そんなヒトデの足をグイっとそらせ、風呂敷のように包んだ形にしたのがウニです。あのムニャムニャ動くなぞの器官が、黒くて硬いイガイガに変身し、外敵から身を守るように進化した。

大きな体で堂々と海底に身をさらし、逃げ隠れしない強気の姿勢をとったのがウニだと言ってよい。(P144)

強い。そして、そんなウニがナマコの原型になる。えー、何で?

ウニを上下に細長く引き伸ばして横にコロンと寝かせたものがナマコ。(P145)

だという。ちょっと意味が解らない。おそらく何万年もかけて行われたことなのだろうけど。

ウニも、さすがに全く捕食されないわけではないので、さらに海底の砂の中に潜りだす種類が現れたのが最初。

そうなると身を守るトゲも骨も何もかもが不要となり、砂の中を進みながら砂ごと微生物や有機物を食べて生き延びた。そんな奴らが再び地上に出てきたのがナマコなのだ。

ヒトデからウニ、そしてナマコと進化を進めた名残もまだあるそうで、ナマコを正面からじっくり見ると、口の周りの触手が5の倍数だったりするらしい。だからといって、自分ではじっくりなんて見ないけど。

と、本書はこんな調子でものすごい量の研究成果をもとに、膨大な量の蘊蓄を手に入れることが出来るので、とてもおススメなのです。

驚きに満ちた生物の世界を、こんなにキャッチーに、面白く、わかりやすく読ませてくれるなんて凄いなぁ。

本書では、章の最後で、当該生物を紹介する替え歌が紹介される。全7曲。巻末には楽譜もつく。謎の情熱に満ちた名著。

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。