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HDD(ハードディスクドライブ)とは?

ハードディスクドライブ(HDD)とは、データを磁気的に記録するためのストレージデバイスです。コンピュータの内部に設置されることが一般的で、データの保存や読み出しを行う主要なデバイスとして広く使用されています。

この記事では、HDDの動作原理やSSD(ソリッドステートドライブ)との比較を中心に説明します。


HDDの構造

ハードディスクドライブの構造は、物理的な動作を伴うため非常に興味深いものです。HDDは以下の主要な部品から構成されています。

HDDの基本構造(引用元

1. 磁気ディスク(プラッタ)

HDDの中でデータを記録する円盤部分は「プラッタ」と呼ばれます。通常、HDDは複数のプラッタで構成されており、それぞれのプラッタの両面または片面にデータが記録されます。プラッタ表面にわずかな凹凸があると故障の原因となるため、高い精度の平滑性と表面硬度が求められます。

また、高速回転による振動を抑制できる高い剛性および耐衝撃性も必要です。これらの特性を備えるために、ディスクが硬い(ハード)素材で作られているため、「ハードディスク」と呼ばれています。

プラッタの材質にはアルミニウム製、ガラス製、セラミック製があります。プラッタの素材そのものは非磁性ですが、表面に記録用の磁性体を塗ることでデータを記録できるようになります。また、レコード盤のように螺旋状にデータが書き込まれるのではなく、HDDのプラッタは同心円状にデータが記録されます。

磁気ディスクの断面図(引用元

2. スピンドル

スピンドルはプラッタを回転させる軸です。スピンドルモーターによって回転が駆動され、プラッタは毎分5400回転(RPM)から7200回転の速度で回転します。
高性能なHDDでは、10000RPMや15000RPMのものも存在します。この回転によって、磁気ヘッドがデータの読み書きを行うための高速なアクセスが可能となります。

3. 磁気ヘッド

磁気ヘッドは、プラッタの表面を移動しながらデータを読み書きするための部品です。磁気ヘッドはプラッタの非常に近くに配置され、空気の層によって浮遊しています。

この浮遊距離はナノメートル単位であり、プラッタ表面との接触を防ぎながら正確にデータを読み書きします。各プラッタの両面に磁気ヘッドが配置されているため、データの読み書き効率が高まります。

HDDにおける磁気ヘッド(TDK社のHPより引用)

4. アクチュエータアーム

アクチュエータアームは、磁気ヘッドをプラッタの表面上で移動させるためのアームです。スイングアームと呼ばれることもあります。

アクチュエータアームはボイスコイルモーターによって制御され、高速かつ正確にプラッタ上のトラックを移動します。アクチュエータアームの動きは、プラッタの内側から外側までをカバーするように設計されています。

5. コントローラ

コントローラは、HDDの動作を管理するための電子回路です。コントローラは、データの読み書き、エラーチェック、修正、およびインターフェース(SATA、SASなど)を介してコンピュータとの通信を行います。

コントローラの性能がHDDの全体的な性能に大きく影響するため、高速なプロセッサと大容量のキャッシュメモリが搭載されています。

HDDの動作原理

ここでは、HDDがどのようにデータを書き込んでいるのか、また読み込んでいるのかを説明します。シンプルに言えば、以下の3ステップで、読み込みと書き込みが行われています。

  1. プラッターが高速で回転(通常7200rpm程度)

  2. ヘッドがプラッター上を移動し、特定の位置に到達

  3. ヘッドが磁気信号を読み取る(読み込み時)、または書き込む(書き込み時)

でもこれだけだと、HDDの中で物理的に何が起こっていることを理解したことにはなりません。HDDの動作原理を本当の意味で理解するには、ナノスケールで起こる現象を理解する必要があります。

Tedの教育用動画はとてもよく表現しています(説明は英語ですので、お得意な方は視聴してみて下さい)。

この記事では、動画の内容を日本語で説明していきたいと思います。

まずは、飛行機が地上1mmの高さを飛行しながら、地球を1周25秒で繰り返し周回し、地上の草を1本ずつ数えている様子を想像してみましょう。

これを手の平に収まるサイズに縮小したものが、近年のHDDと同じサイズになります。このサイズに30TBもの大容量データを保存することができるのです。さて、どうやってデータを保存しているのでしょうか?

HDDの中心には、上で説明したような磁気ディスクが複数枚積み重なっており、高速で回転しています。これが地球の表面に相当します。

その表面上を磁気ヘッドが飛び回っています。これが飛行機に相当する訳ですね。下の画像で言えば、金属製の尖った部品です。

この磁気ディスクには磁化された小さな金属が膜状にコーティングされています。ここで磁化とは、外部磁場をかけたときに、その磁性体が磁気的に分極して磁石となる現象です。

簡単に言えば、磁石を近づけたときに磁石になるということですね。

HDDに限らず、デジタル機器の中ではすべてのデータは0と1の羅列で表現されます。この8通りの0か1の並びを1バイトと呼んでいます。

したがって、HDDの中でも何かの形で0と1を表現する必要があります。それが、磁石のS極とN極になります。磁気ディスクの表面上の小さな金属は粒子単位で全て磁化されています。

この磁化された金属粒子それぞれがビットという単位で0か1という情報を持つことができるのです。この0と1が羅列した磁気ディスク上を磁気ヘッドが移動することで、01001001…とデータを読み取ることができるのです。

一方で、データのディスクへの書き込みはどのように実現するのでしょうか?

データの書き込みとは、言い換えるなら表面上の0と1の羅列を変更するということです。これは一言で言えば強力な磁石を近づけて、磁性を反転させることで実現されます。

分かりやすく例を出して説明します。磁気ディスク上の金属粒子がS極だったとしましょう。この金属粒子に対して、強力なS極の磁石を接近させると、金属粒子がS極のままでは反発してしまうので、金属粒子がN極に変化するということですね。

この強力な磁石の役割を果たすのが、電磁石であり磁気ヘッドの先にくっついています。しかもこの電磁石は電気を流した時だけ磁石になるというとてもユニークな特性を持っています。

つまり、書き込みの状況を正確に説明すると以下のようになります。
① 電磁石に電気を流す/流さないを制御する
② 電磁石が磁石になる/ならないが変化する
③ 磁気ディスク上の金属粒子の磁性がS極/N極に変化する
④ 磁気ディスク上の金属粒子が0か1の情報を持つ
 

このような一連の流れによって、HDDに対して情報の書き込みと読み出しが可能になります。

HDDの性能指標

HDDの性能を評価する主な指標には以下のようなものがあります:

  1. 容量:記憶できるデータ量(TB単位が一般的)

  2. 回転速度:プラッターの回転速度(rpm:1分間の回転数)

  3. シーク時間:ヘッドが目的の位置に移動するのにかかる時間

  4. データ転送速度:データの読み書き速度

これらの指標は、HDDの用途や価格帯によって異なります。例えば、高性能なサーバー用HDDは、一般的な家庭用PCのHDDよりも高速で信頼性が高いですが、価格も高くなります。

例えば、東芝が販売しているサーバー用のHDDだと、16TBなど非常に大容量ですが、価格は約4万円程度と比較的高価です。


HDD/SSDの比較と市場動向

HDDとSSDは、どちらもデータストレージデバイスですが、それぞれに特徴があります:

  1. 速度:SSDの方が圧倒的に高速

  2. 容量:大容量の場合、HDDの方がコスト効率が良い

  3. 耐久性:SSDの方が物理的な衝撃に強い

  4. 消費電力:SSDの方が省電力

  5. ノイズ:HDDは機械的な動作があるため、若干のノイズがある

用途や予算に応じて、HDDとSSDを使い分けることが一般的です。例えば、HDDは以下のような幅広い用途で使用されています:

  1. 個人用PC:一般的なデスクトップPCやノートPC

  2. サーバー:企業や組織のデータセンター

  3. ストレージシステム:大規模データストレージ、バックアップシステム

  4. 監視カメラシステム:長時間の映像記録

  5. 家電製品:テレビ録画機器、ゲーム機等

近年、フラッシュメモリを使用したSSD(ソリッドステートドライブ)の普及により、HDDの市場シェアは一部で低下傾向にあります。

しかし、大容量データの保存に関しては依然としてHDDが優位性を保っており、特にデータセンターやクラウドストレージの分野では重要な役割を果たしています。

SSDとHDDの出荷台数の推移(日本経済新聞から引用)
HDDとSSDの比較(日本経済新聞から引用)


HDDの将来展望

HDDは技術的な成熟度が高く、大容量・低コストという特徴から、今後も一定の需要が見込まれています。

特に、ビッグデータやAI、IoTの発展に伴い、大量のデータを保存する必要性が高まっていることから、データセンターやクラウドストレージ分野でのHDD需要は堅調です。

今後のHDD技術の方向性としては、以下のようなものが挙げられます:

  1. HAMR(Heat-Assisted Magnetic Recording):熱を利用して更なる高密度記録を実現する技術

  2. MAMR(Microwave-Assisted Magnetic Recording):マイクロ波を利用した高密度記録技術

  3. SMR(Shingled Magnetic Recording):トラックを重ね書きする技術による大容量化

特にHAMRとMAMR技術によって、HDDの記録密度は今後も向上していくことが予測されています。

HDDの面記録密度 [bit/in^2]の時間発展(TDK社のHPより引用)

HAMRとMAMRの詳細については、以下の記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい。

ちなみに、2024年の5月に東芝はこのHAMR、MAMR技術を用いて、3.5型ニアラインHDDとして、30TB超の記憶容量の実証に成功しています。

ニアラインHDDは、オンラインとオフラインの中間のような性質を持ったストレージです。ニアラインHDDの具体例としては、NASのような必要に応じてネットワーク経由でも取り扱える製品をイメージしてもらえるとよいかと思います。

オンラインHDDはGoogleドライブなどインターネット上に存在するストレージオフラインHDDはUSBメモリなどインターネットから隔離されたストレージですね。


まとめ

  • HDDは磁気記録技術を用いた大容量データストレージデバイス

  • プラッター、ヘッド、アクチュエーターなどの主要部品で構成

  • 容量、回転速度、シーク時間、データ転送速度が主な性能指標

  • 技術革新により、容量と性能が飛躍的に向上

  • 個人用PC、サーバー、ストレージシステムなど幅広い用途で使用

  • SSDとの比較では、大容量・低コストが強み

  • 将来的にはHAMR、MAMR、SMRなどの新技術による更なる進化が期待される

この記事が勉強になったよという方は、スキお待ちしています!
今後も、半導体やテクノロジーに関する分かりやすい記事をお届けしますので、見逃したくない方はフォローも忘れないでくださいね!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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参考文献

https://www.tdk.com/ja/featured_stories/entry_025.html


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