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【SELFの本棚】#005 心はどこへ消えた?

いろんな人の、いろんなおすすめを、目的もなくつらつらとながめてみる。

普段私たちは自分の興味にしたがって何かを調べたり、探したりすることが多いのですが、そんな文脈から外れたところに実は素敵な出会いや、思わぬヒントがあったりするものです。

誰かの好きな本と、その好きな理由を ただご紹介するこの企画。

今回はSELF ふるかわりさが最近読んだ中で一番おもしろかった本をご紹介します。

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『心はどこへ消えた?』 東畑 開人著  (文藝春秋)

臨床心理士であり、十文字学園女子大学准教授である東畑開人さんの本。

2020年以降、世界中が「大きすぎる問題」に振り回されており、その大きすぎる物語は、私たちを「みんな」へと束上げ、小さな物語たちを吹き飛ばした。正論には異常なほどの強い力が宿り、例外や個別の事情という小さな物語は一掃されてしまう。

その「小さな物語」こそが心の居場所であり、物事をシンプルに割り切ろうとする大きな物語を否定したところに心が現れると著者は言う。

複雑な話を複雑なままに聞き続けた時に、その人の心を感じる。あるいは複雑な事情を複雑なままに理解してもらえた時に、心が理解されたと感じる。表だけではなく、裏まで含めてわかってもらうと、心をわかってもらえたと思える。 (本文より)

2020年5月から1年間 文藝春秋で連載されていたコラムをまとめた本で、人と人とが会いにくくなり、繋がりが失われていく中で、危機の最中「心」に何が起きているのかを書き続けていくうちに、問題の本質は別のところにあると気付いていく本で、著者曰く「黒幕は、この20年の間に私たちの社会に起きていた地殻変動」。

そんな一見重苦しそうに思えるテーマですが、時には声を出して笑ってしまうほどの軽快な文章でスラスラと読み進めていくうちに、オンラインミーティングや課題解決、あるいは報道で見聞きする感染者数の推移ばかりに意識を取られていた私たちの心が少しずつ温度を取り戻していくような気持ちになります。

読み始めるとあっという間に読み終わってしまいますが、著者が毎週毎週締め切りと格闘しながら1年かけて書いた文章だということもあって、知らず知らずのうちに大きく「無機質」に傾いてしまっている私たちの心をじっくりと時間をかけて本来あるべき方向へ引き戻してもらうための、心地よいカウンセリングを受けたような読後感が得られます。

1章ごとの文量が短いので、ちょっとした気分転換としても楽しめる本だと思います。


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