【SELFの本棚】#010 腸と森の「土」を育てる 桐村里紗著
(文:ふるかわりさ)
医師である桐村氏がプラネタリーヘルスという視点から、真の健康や豊かさについて科学的根拠を交えながら、分かりやすくも深く解説した良書です。
近代の医学は、本来、全体がネットワークとなり、相互に影響し合っている「身体」と「心」を分断し、さらに、身体を交換可能なパーツとして分断し、どんどん細分化していきました。この分断思考が、他者や自然との練三区政を失わせ、人を孤独に追いやりながらエゴを増幅させ「自分だけで健康に、幸せになれる」という思い込みを生んだ原因です。
一人ひとりが健康な心身を保ちながら、壊れた世界を同時に治癒させていく(SDGs)ためには、人を含む全体を最適化するヘルスケアが必要で、その地球全体の健康を実現することがプラネタリーヘルス。
私たちが生きる現代は、地質学的に言うと人類が地球を覆う土に隕石の衝突波のダメージを与えた時代「人新世(ひとしんせい:アントロポセン)」と呼ばれており、土の破壊によって人と地球の病が顕在化しているのですが、その土を犯すことのリスクや、よい土が地球環境だけでなく私たちの体にどのような影響を及ぼしているのかがさまざまな視点から説明されています。
第1章 人は森であり、腸内に土を持つ
第2章 消化管で人は自然とつながっている
第3章 腸内の土の悪化が、心身にもたらす病
(1)腸と心身とのネットワーク関係
(2)腸内細菌と心身の疾患の具体的な関連
第4章 食と農業の選択で、土の未来を変える
(1)人が与えている、甚大な環境負荷
(2)未来と健康を変える「食と農業」
第5章 微生物で接続する、腸と土、人と自然
(1)腸内の土壌を改良する食の選択
(2)プロバイオティックスー腸と自然をつなぐ発酵食品
(3)プレバイオティックスー腸内の有用菌を育成する
(4)サスティナブルなタンパク源の選択
(5)あなたの腸内の土壌環境を知る
(6)食べ物を大切にする、土に還る
おわりに
目から鱗がボロボロ落ちるような話がたくさん出てくるのですが、その中でも面白かったのが、発生学的に見ると受精卵から最初に発生する臓器は脳でも心臓でもないという話。まず最初にできるのは「腸」らしいのです。最近腸を「第二の脳」と表現するシーンをよく目にしますが、桐村医師は、むしろ「第一の脳が腸」だともおっしゃっています。
腸内細菌の話は日常生活でもよく耳にしますし、今年と去年はずっとウイルスの脅威に晒されていましたが、それについても面白い記述がありました。
(サーフィンの時に波に飲まれて)海水をがぶ飲みしたり服鼻腔に回数をためたり、しょっちゅうしていますが、それでも海水のウイルスで病気になることはありません。それは、それらのウイルスが共生可能な種だからです。また、仮に少々の病原性を発揮する種であっても、多様な種が共存する生物のダイバーシティ(多様性)が保たれた環境では単独行動をして病原性を発揮することは難しいからです。
ウイルス同様、人間社会におけるダイバーシティの大切さも、スッと肚に落ちる解説がなされており、著者の視座の高さや観察眼の鋭さなどにワクワクしながら自分の健康や社会の健康、地球の健康などを新たな視点で見つめ直すことができる一冊です。
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