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【SELFの本棚】#008 マッキンゼーが読み解く食と農の未来

(SELF編集部  小平)

SELFの中で「食」と「農」について語る機会も多いですが、身近な問題なこともあり、複雑な世界の食と農の状況の全体像を掴むのはとても難しいです。とても複雑なので単純な「有機農法vs慣行農法」とか「肉食vsビーガン」とか分かりやすい二項対立に落とし込みがちで、枝葉の議論になっちゃうなと思うこともあります。

今回のSELFの本棚は「マッキンゼーが読み解く食と農の未来」。この本は、そんな世界の現状の全体像を知る入門書に良い一冊でしたのでご紹介しようかと思います。

第1部は「食と農を変える8つのメガトレンド」という内容です。

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※上図は紹介本序章より引用

例えば、その中にある技術的な話ではセンサリングやAIを使った精密農業、ゲノム編集、バイオ農薬(バイオイノキュラントやバイオスティミラント)などの紹介があります。でも、こういう馴染みのないものに初めて出会うとと、ちょっと身構えてしまうかもしれません。ただ、最近のトレンドは、AIの画像認識やドローンを使って、不必要な農薬を使わない、不必要な肥料を投下して環境を汚さないなど、SDGsに配慮した技術が多い印象です。バイオ農薬も一見怪しげですが、その中のバイオイノキュラントは作物の生育を助けるための微生物を土に与える有機農法的な技術だし、バイオスティミラントも植物からできた天然由来の植物の活性剤です。発酵や微生物の世界ってかなりマニアックな分野だったのですが、その分野に世界の巨大農業関連企業群が参入して9000億円の市場規模になろうと急拡大中というのは驚きました。世界のメガ企業達を動かしたのはSDGsやESG投資のトレンドやオーガニックを求める消費者の変化です。私たちも日々の暮らしを変えることで大きな食や農を変えることができるのだと希望が持てました。

その他、牛肉の10%が大豆ミートに置き換わるとブラジルの大豆生産の60%を増やさないといけない(なので培養肉の方がいいのかも)とか、温暖化でロシアやウクライナが小麦の最大生産国になるとか、世界の3大メガ農業企業の話、ジェネリック農薬などなど面白いです。流石にマッキンゼーなので図表の作りがとても上手いのでどれも分かりやすいですね。

ちなみに第2部は上記のような世界のトレンドを踏まえて、日本の農業はどうあるべきかという内容ですが、世界のトレンドのワクワク感に比べると日本の遅れや小粒感は否めません。今後、日本スタイルの農のあり方を試行錯誤してく必要ありそうです。

世界の農業は、今後10年で爆増する中国や途上国の食肉需要に応えいといけなく、その食肉生産を支える飼料作物や代替となる植物タンパク質の生産の需要も激増します。また、その生産を温暖化による環境変化や水資源の枯渇に対応しながら行っていかないといけない(しかもCO2排出の2割以上を占めているので、大規模なCO2削減をしつつ)という超ハードモードに突入です。今のまま食卓は10年後には確実に無いという一文が本の中にあるのですが、日々食べるものにもっと注意を払うための入門書にもいいかと思います。



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