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【かごしま地域企業名鑑】 #001 日当山無垢食堂

地域に根差した経営をしている組織を訪ねる連載企画「かごしま地域企業名鑑」。掘れば掘るほど出てくる、かごしまの素敵な企業。”ナカノヒト”にスポットを当てながら、その魅力を探ります。

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第1回目は、日当山無垢食堂。支配人の中原伸一郎さんにお話を聞きました。

都会のことはよく知らないけど、憧れたことは一度もない。

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「ちょっと”パトロール”の時間なんで!」と、インタビューが終わるとすぐに海へと向かった伸一郎さん。 ※パトロール=趣味の魚釣り

2019年の冬に、ここ日当山無垢食堂がオープンするまでは、両親が始めた「エアロンカ」という小さな飲食店を母と妻との3人で切り盛りしていました。

19の時からエアロンカで両親と一緒に働いて20年間。辞めたいとか、嫌だと思ったことは一度もなかったです。

僕が生まれたのが1980年。僕が4月生まれで、エアロンカは6月生まれなんで、なんだろう、、、。職場というより、双子の弟みたいな感じですかね。生まれた時からずっと一緒にいてくれた存在。

エアロンカという店名は、もともとヘリコプターの整備士をしていた創業者の父がつけたもので、飛行機の名前なんですよ。
「自由な小型機の原点を象徴する存在」とも言われているらしく、2人乗りで65馬力、巡航速度90MPH、失速速度35MPHと超軽量動力機にも劣るほどののどかな飛行機らしいんですが、正規の耐空証明を有する航空機なので、その気になれば、日本中どこへでも飛んで行くことが出来る。
ロマンチックなところのあった父が、若かりし頃、母と二人三脚で始めた店。いろんな思いというか、夢や希望を詰め込んだ名前なんじゃないかな。

今息子が12歳。自分も子を持つ親になってしみじみと思うのが、3歳(姉)と生後2ヶ月(僕)の子どもを抱えながら、当時務めていた航空会社を辞めて、料理の経験もない夫婦2人でよくあんな店をオープンすることを決意したなということ。

いい時も、悪い時もあるのが商売ですが、よく39年も続けられたなと、感謝と尊敬の気持ちでいっぱいですね。

いつも地域の人と共に。たくさん支えてもらったし、おなかを満たしてきたという意味で少しは僕たちが支えになれていた部分もあるかな。

3つ上の姉がこの日当山無垢食堂を作ると、一緒にやらないかと話してくれた時、エアロンカと無垢食堂、どっちがいいとか悪いとかそんな感情はなかったです。

ただ、父が他界して、夜は母と2人で店を切り盛りしていた中で僕も40、母も60を過ぎたし体力も落ちてきてるから、まぁみんなと一緒に新しいことを始めるのもいいかなと思って、無垢食堂の立ち上げにチャレンジしてみることにしました。

一世一代の大決意!みたいな感覚ではなかったですね。今でもまたいつかエアロンカは復活させようと思っています

店(エアロンカ)を、無期限で休業することをSNSで発表した翌日から最後の営業の日までは、本当にすごかった。(笑)

忙しい人も、遠くに住んでいる人も、39年間店を支えてくれた常連さんたちが「最後にもう一度エアロンカのご飯が食べたい」と言って、昼も夜も、本当にたくさん食べに来てくれて。
その気持ちがありがたくて泣きそうだったけど、グッとこらえました。(笑)

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お昼は、近所の会社に弁当の配達もしていたんですが、きれいに洗って返ってきた弁当箱の中に「長い間地域のためにありがとうございました」と書かれた手紙が入っていたり、最終日に近所の方が赤飯を炊いて持ってきてくれたり。本当に地域の人に愛されていたんだなと、また日当山(ひなたやま:地名)でも頑張らなきゃなと思いました

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数えたことはないけど、39年間。あまり休まずに営業をしていたし、弁当の配達などもしていたことを考えると、本当に何十万食。僕たちを育てながら、その厨房をずっと切り盛りした母は、やはり偉大だなと思います

少しずつ確実に、人との関係性を築いていく。

無垢食堂は、レストランが併設されている物産館です。

霧島市が運営している「日当山西郷どん村」という観光施設の中にあって、足湯があったり、本当に立派な日本庭園があったりしてすごく気持ちの良いところです。空港から10分で来られるし、霧島市の中心街からも近いので、観光客の方も、地元のお客さんも、どちらも多いですね。

前の事業者さんが半年で店を閉めてしまったこともあって、最初は取引先を増やしていくことにも苦労しました

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そこから、積極的に農家さんたちの畑に足を運ぶようにして、少しずつよい関係性ができてきたなと思っています。あと、あれですね。やはり、畑に出ると、農家さんの大変さというか。土づくりから、肥料、植え付け、収穫。台風が来たり、雨が降り過ぎたり、逆に降らなかったり。

こんなに大変な思いをしながら丁寧に作ってくださった野菜なので、僕たちも丁寧に調理をして、お客さんに「おいしい!」と言って食べていただきたいなと思っています

物産館担当の仲間が店長を中心にコツコツと、お客さんや取引先との関係性を深めて、いろいろな面白い商品とか、鹿児島のおいしい野菜や加工品など、取扱商品をどんどん増やしてくれているし、レストランは料理長を中心に物産館で売っている食材をいろんな料理にしたりしています。

家庭でも簡単に再現できる料理が多くて、食べに来てくれたお客さんたちがよく「レシピ教えて!」と言ってくれるので、その時は誰にでもレシピを教えるようにしています。霧島のおいしい食材を、おいしく食べてほしい。ただそれだけです

20代から70代まで。家族のような仲間たち。

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今、無垢食堂には20代から70代の仲間がいて、全員が本当に毎日毎日一生懸命働いています。レストランは加工品を使わないし、物産館も生鮮食品が多いので、本当にたいへんだけど、みんなで仲良く、和気あいあいと。

エアロンカは母と妻との家族経営だったので、なんというか、自分たちが食っていければそれでいいという部分もあったんですが、無垢食堂は、家族のいるたくさんの人が働いてくれていると思うと、やっぱり頑張らないといけないな!という思いはあります。みなさん生活があるから。

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調理場の包丁には、「食は人の天なり」という言葉が刻まれています。
吉田兼好の徒然草に書かれている言葉の一句で、もとになったのは、海の向こうの「帝範」という古い書で、食はひとびとの命を繋ぐ最も大切なもの、という意味らしいです。

「手をかけることは気を込めること。手を抜くことは気が抜けること。」
「気が抜けたものは気が枯れる、と言って汚れること。」

この言葉の通り、料理長の田中を中心に本当に心を込めて料理をしています。

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20代から70代まで、本当にいろんな人が働いているんだけど、みんな助け合いながら、得意なことを持ち寄りながら仕事をしています。だからやはり、この仲間たちは僕にとって家族ですね。

誕生日とか、記念日とか、そういう時は誰からともなくサプライズの企画が持ち上がって。みんな本当にお互いのことを大切に思ってる。

みんなが優しいんです。
そのみんなが、農家さんたちが本当に頑張って作った野菜で心を込めて作る料理なんで、食べたら元気になると思います。

ただのレストランと物産館じゃない組織

実は、うちの会社ってすごくおもしろくて。ここのレストランと物産館だけじゃなくて、車で2分くらい行ったところに「ココレカ」という出産祝いのお店をやっていたり、法人は別なんですが、ひより保育園(霧島市)そしてそらのまちほいくえん・総菜店(鹿児島市)も同じ仲間で運営してるんです。

たとえば料理長の田中はもともとひより保育園の給食室にいたし、店長の濵田はそらのまちほいくえんにも、ひよりにも、ココレカにもいた。(笑)

みんな同じ思いで、「どの組織がどうなるともっと楽しいかな」とか「今の自分はどこにいると一番力が発揮できるかな」とか考えて、組織を行ったり来たりするし、お互いのことを一緒に考える。楽しいことも大変なことも、自分のこととして一緒に成長できる仲間がたくさんいるっていいですね。

僕は包丁を研ぐのが得意というか(笑)喜んでもらえるので、休みの日は保育園の給食室と総菜店の包丁研ぎに行ったりしています。保育園の子どもたちも「しんちゃんが来た〜!」と言ってくれます。友達ですね。昔から子どもと動物には人気があります、僕。

EAT LOCAL KAGOSHIMA

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今、地球温暖化とかの環境問題だったり、心や健康の問題だったり。いろんな課題があるけど、みんながもっと地元の生産者さんと繋がって、地元の旬のものをもっともっと食べるようになるといいなと思います。

今、無垢食堂では、厨房から出る野菜クズなどを使って「完熟堆肥」を作ろうとしてるんですが、これがすごく面白くて。

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野菜のクズとかもみ殻とか米ぬか、そして近所から拾い集めてきた落ち葉などを混ぜておくと、発酵して60度以上になるんですよ。

農家さんが野菜を作ってくれて、それを僕たちが料理にして。そして厨房から出た野菜クズを僕たちが堆肥にして農家さんにお返しする。これを使ってできた野菜を食べてみるのが楽しみだし、もっともっといろんなところで、この取り組みが広がれば良いなと思います

面白そうだなと思った方がいたら、無垢食堂の物産館に来たときに「コンポスト見せて」と言ってください。

地球の裏側で知らない誰かが作ったものもいいけど、自分が暮らしている町で、今取れたものを今食べるって最高ですよ。

次生まれるとしても、この街を選ぶ。焼酎もあるし。

朝6時に起きて市場に行って。あ、潮の良い時はそれより早く起きて海に行って、桜島を見ながら釣りをして。運がいいとイルカにも会える
店が8時半オープンだから7時半ごろには出勤して、物産館担当の日は掃除をしたり、レストラン担当の日は仕込みをはじめて。
仕事が終わって、潮がよければまた海にパトロールに(釣り)に行って(笑)。家に帰ったらまず焼酎を飲む。鹿児島ではこれを「だれやめ」と言います。ダレるって、疲れるという意味で、それをやめる。疲れを吹き飛ばすとかそんな意味かな。

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だれやめの焼酎は国分(銘柄)。若い時は国分は芋くさいと思ってたけど、国分が変わったのか、僕の味覚が変わったのか、今はもうずっと国分ですね。これがいい。

また生まれ変わるとしても、この街に生まれて、イカ釣りをしたり、農家さんと遊んだり、焼酎を飲んだりして暮らしたい。最高ですよ。

みんなそれぞれに、自分の好きな「地元」を持って、その土地その土地ならではの豊かな暮らしを楽しむといいと思います



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