夜明けの優しい明かりに希望を感じて。『僕たちは変わらない朝を迎える』

日本の映画監督は、かつてスタジオシステム方式が基本で、現在のテレビ局のようなもので、東宝・松竹・東映・新東宝・日活といった個人が持つスタジオがあった。
監督志望が入社して、いきなり監督にはなれない。

技術部門・演出部門、制作部門など部署ごとに分かれての大量生産が目的でもあった。
テレビ局乃至は子会社も一緒で、AD(アシスタントディレクター)、AP(アシスタントプロデュサー)、さらに現場にラインプロデューサー、制作進行など、沢山の経験を経て、ディレクターへの道がある。
だけど、現在はコンクールやYouTube等の配信で発表が可能で、誰でも映画監督になれる時代。
そんな中で、映画館は存在し続ける。大きなスクリーンで上映されることに意味があるのだと思う。
これは理想なのかもしれない。
ただ、コロナ渦で不要不急と言う言葉がエンターテイメントの意味や価値が問われている最中。

街を歩けば、聞こえる音楽。
スマホを開けば見られるドラマや映画、バラエティ番組。
その中には夢を追い続けるものがいる。
シネコンが主流の今、単館映画館も負けてられない。
若いクリエイターが希望を見出す場所でもある。

今回ご紹介するのは、映画『僕たちは変わらない朝を迎える』。
(ネタバレ注意)

監督は、戸田杉弘 氏。
映画制作・配給会社であるチーズfilmの代表。
『ねこにみかん』で劇場デビュー。『13月の女の子』ほか。
今作のモチーフにもなった雨のパレード『morning』のMVも担当。

出演者は、髙橋雄祐さん、土村芳さん、桃果さん、前原瑞樹さん、松林慎司さん、津田寛治さん ほか。

内容は、30歳を超え、映画監督として壁にぶつかっている藤井薫(髙橋雄祐)。ある日、支えてきた女優の宮崎寧々(土村芳)から突然に「藤井くん、私、結婚します」と告げられる。
それから脚本を書き始める藤井だが、ラジオ番組からある曲が流れる。
脚本は完成し、会社の上司であるプロデューサーの奥田(津田寛治)から「理想ではなく、希望を書け」と突きつけられる。
そして、藤井は自分自身と向き合い始めるのだが……という話。

感想としては、
藤井の言葉に初めは違和感があった。ただ、相手によって言葉(関西弁)に変える事で二人の距離感が描かれているのは納得した。
藤井の善行貯金は、面白いキャラだし、どこか話しづらい空気を出す態度にも映画監督らしい雰囲気があり、孤独感を感じる。心を開くまでには時間がありそうで、他人から見れば格好つけだし、いつまで理想を求めてんの!?ともなる。
冒頭近くの居酒屋の場面で、南沢が言った「藤井は、どういう基準で役者を選んでるの」という問いに藤井が応える言葉こそ、藤井自身の理想像なのかもしれない。

夜中、都会にあるキラキラした電灯、東京タワーを背景に二人が乗るタクシーは走る。
向かった先は、海岸だった
夜明けに、交わす二人の会話。
互いにあくびをする仕草は心を開いている証拠で、二人の本音が現れた。
そして、彼女に伝える「おもでとう」。まだ上手くはなっていない。
いないけど、それが藤井という魅力なのかもしれない。
二人を照らす夜明けの明かりが、優しく、美しく、希望を覗かせる。


今作は、コロナ渦で企画されたものだという。
閉塞感が止まらない時代に、監督は『別れ』をテーマに描いている。
しかし、『別れ』はどちらかと言うと暗いイメージを持つ。
なのに、『別れ』がテーマになっているのは、その先の希望を監督自身も見出したかったからじゃないだろうか。

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