老親と車とハームリダクション
先日の池袋での暴走事故以来、同世代の友人たちとの会話の中で、必ずと言っていいほど親の運転免許問題が話題になります。 海外に住んでいると、年に1・2回しか親にも会えませんが、たまにしか会わないがために親の老いにも気付きやすく、自分がいない間に日本で事故や事件を起こさないように、、、と気にする人たちが多いのかもしれません。 去年、私が姉と協力して、父に大きな四駆から軽への乗り換えをさせたのですが、この話は友人たちにも好評なので、ここでもご紹介してみます。
私の実家は、最寄りのバス停まで歩いて15分、最寄り駅までは1時間に5本あるバスでそこから20分。(車なら自宅から駅まで15分。) タクシーだと最寄り駅まで2000円かかります。 そしてその最寄り駅を最後に出るバスは午後8時が終バスという田舎で、一番近いスーパーでも徒歩15分、コンビニはもう少し先になるので、車がないと不便極まりない所。そんな家で暮らす老親から車を取り上げるのはとても難しく、74歳の両親は今でも車を運転しており、近所には80歳を超えても運転しているおじいさんたちも少なくありません。 ちなみに私の両親は、同居していた私の祖父には70歳で免許更新をさせずに車を諦めさせた経緯があり、老いたらいつかは運転できなくなるとわかってはいるものの、まだもう少しは車がないと困ると言う認識をしています。
両親はもともと体育会系だったこともあり、年齢の割には身体能力も高いし、既往症もほとんどなく今のところは心身ともに健康です。 とは言え大きな四駆を運転している父については、もし交通事故を起こしたら、自分は助かっても相手に大きな被害を出してしまう可能性が大きい。 そして10年モノの車なので安全装置も付いておらず、もうこの手の車はどう考えても後期高齢者向けではありません。 でも今さらながらも男のプライドなのか、重厚長大な車から小さな車へ乗り換えるのは嫌だと言う始末で、母も、隣の市に住む姉も説得できずにいたようです。
そこで、たまにしか帰国しない口の達者な娘(私)の出番です。 姉と相談しながら、去年、私が日本に3ヶ月間帰国している間に使いたいから、と言う理由で軽自動車を買い、海外にいる間は住民票がなくなるので父のセカンドカーとして自動車登録してくれと頼み、ついでにバッテリーが上がらないようにたまに乗ってくれ、とお願いして実家に置いてきました。 もちろん安全装置は付けられる全ての物を付けてあり、「黄色いナンバープレートは嫌」と言うのを見越して東京オリンピック仕様の白ナンバープレートを1万円のオプションで付けて、さらに甥っ子にさりげなく質問させて軽でもSUVなら乗りそうと言うことも調べた上での車種選定。 車の保険も家族分まで適用にして私が支払っているし、もちろん軽でも安い買い物ではないですが、事故の心配をしているよりはずっとマシと割り切って支払いをしました。
結局、「海外にいる娘の軽」を「預けられて」から1ヶ月も経った頃には、父の移動のメインはこの軽になり、今もまだ四駆も手放してはいないものの稀にしか乗らなくなったそうです。ちょうどガソリン代も上がってきていたので、リッター10キロ未満の四駆からリッター20キロの軽に乗り換えるのは父にも都合が良かった様子。 先月、私が一時帰国中にこの「私の」軽自動車を乗って出かけていたら、自分の大きな車に乗らなくてはならず不便だとボヤいたほどに、軽に乗ることがデフォルトになっているようでした。
この一連の企画を一緒にした姉とは、小さい車に乗り換えるにあたって「年齢以外での理由」を与えたことが勝因だったのではないかと話しており、今回の池袋での事件の後も、昨年の自分たちは良い時期に上手く父を小さい車に誘導できたよね、とホッとしています。 代替する移動手段がない田舎で、老いてきた親の免許を取り上げることはとても難しいですが、少なくとも安全装置を付けた小さな車に乗り換えさせることで、不注意や判断ミスや瞬発力の低下を補い、事故の可能性を低くすることはできます。(まさに国際保健で言うところのハームリダクションの考え方です。笑) 我が家の事例は、海外在住の娘の依頼という手を使っているので、どこの家族にでも使えるパターンではないですが、何かの理由を付けて車のサイズダウン、安全装置使用を促すきっかけを作る、そんな工夫の一つとしてご参考になれば幸いです。
それにしても、実際に当事者としてやってみると、他人の行動変容を必要とするハームリダクションの企画も難しいものです。 次は80歳で免許返納を目指し、長期戦での戦略を立てていくつもりですが、相手の心情リサーチや外部要因をしっかりしながら頑張らないと。「自己責任」が好きな日本ですからね、努力します。