見出し画像

スケッチを描いて考える

スケッチをしながら考えるのは効果的。絵を描くことで、考える作業に「手が参加する」からです。自分だけにわかる絵でかまいませんから、アイデアを考えるときは、ぜひスケッチを加えるようにしてみましょう。授業でも、手を動かしながら考えてもらうと教室は活気づきます。例えば、「自分にとって理想の家」を考えなさいという課題。みんなが色々な住まいを考案するのですが、それを文章だけでなく、絵をつけて提出するようにと指示するのです。

手が考えるというのでしょうか。無意識的に絵を描いていくと、自分の考え方が既成概念にとらわれていることにハッとする学生も出てきます。早い話、住宅会社のパンフレットのような外観図しか描けないことに愕然とするのです。自分は自由にモノを考えられると思っていたが、すでにあるイメージに絡め取られていることを知ります。これが、重要です。自分を形づくっている思いや考えが、メディアから受け取ったもの、まわりで見聞きしたものに大きく依存していることを知れば、いずれ乗り越えていくこともできます。

いったん、既成概念から解き放たれることができた人は、発想が広がっていく。同時に、とてつもない設計の家を企画した場合、現実にはさまざまな問題をかかえることも見えてきます。建築学科の学生ではありませんから、細かいことは分かりません。ただ、工事費がかかるだろう。このカーブを作り出すのは大変に違いない。こんな色や形では、近隣からいやがられる可能性もある…。こうした社会的な条件が見えてきます。そうなってくると、最初に出てきた住宅会社のパンフレットのような設計案も結構よく考えられていることがしみじみと分かるでしょう。でも、それを乗りこえて行かないと逞しい創造性は発揮できないとも自覚します。いいかえれば、「現実そのまま」→「理想のアイデア」→「それを阻害する現実の諸条件」→「条件を乗りこえる工夫」…という成功の図式が見えてくるのです。

絵で描写するということは、自分の中の無意識を動員してアイデアを浮かび上がらせること。ところが、哀しいかな、実際は、独創と呼ぶには寂しいものであり、過去の情報に支配されていることも実感します。そこが分かってくれば、日頃の情報収集、先達に学ぶことの大切さも納得します。独創的と自分では思うアイデアを、現実というヤスリで削ってみると、ひりひりと問題点が感じられる。そこで止まらずに、もう一回、理想に向かって現実の諸条件を越えて、アイデアを磨いていく。文字にすると難しそうな過程ですが、絵を描きながら考えていくと、こうした流れを無意識の海の中で「手中に収める」ことができるのですね。文字だけで考えると、自分の奥底に渦巻いている潜在的な思いを表に出してくることがうまくできません。身体を動かすことで、いったん、外に出してみる。その後に、論理で追究していく。考えることは、手と頭のキャッチボールなのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?