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停滞を破る「楽しさ公共圏」

調査によると「身の周りで感じる楽しいことが多い」という率は41・7%である。一方、「世の中で感じる楽しいことが多い」は、13・9%と減少する(博報堂生活総研「生活定点調査」20歳〜69歳・3089人・2022年)。「世の中」には、楽しいことが少ないようだ。楽しむことが目的である余暇施設を除くと、社会には「楽しさのデザイン」が乏しい。「むやみに楽しんではいけない」という「心の壁(メンタル・ブロック)」が阻害している可能性がある。
 「楽しさの3Cデザイン」を考えてみたい(図参照)。まず、片隅の「コーナー」から変えてみる。介護施設、病院、学校、駅に活気ある強調色を使うとか、壁画を描くことは、即効性がある。街角にピアノを設置するのも楽しい。AR(拡張現実)の活用で、空間を「水族館」「花の名所」に変身させる手もある。
 日常生活に特異な「キャラクター」が登場すると楽しくなる。ペットの同伴を許すオフィスでは、職場の雰囲気がやわらぐ。介護施設や病院における動物セラピーは笑顔を増やす。今後は、広場で道化ロボットが、通行人を爆笑させる場面にも出会うだろう。
 最後のCは「カルチャー」。異文化が混ざると、秩序が緩んで楽しくなる。留学生が増えたキャンパスは活気付く。街には訪日客が戻り、盆踊りにも参加し盛り上げている。一方、企業の構成員も多様になってきた。時代の要請で「組織のダイバーシティ(多様性)」を確保するという受け身の姿勢ではなく、多様な文化が混在すると、ドラマが生まれて雰囲気が躍動的になると前向きに捉えたい。
 社会を良くするには、怒り・哀しみなどのネガティブ感情を減らすだけでなく、楽しさ・喜びなどのポジティブ感情を増やすことが効果的である。例えば、スクールカウンセラーの増員も大事だが、学校自体を楽しくすれば、心理的に追いつめられる子どもは一気に減る。「エンジョイ」することで、創造性も高まる。日本の停滞感を破るために「楽しさの公共圏」を広げることが求められる。 (発想コンサルタント)

『日経産業新聞』「関沢英彦の目」23.9.16掲載

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