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コロナで見えた遠隔技術の可能性

この所、テレワークを経験する機会が増えた。日頃、外回りが少ない人たちに聞くと「家で仕事をしても能率は変わらなかった」と答える。満員電車での通勤がない分、資料集めなど他の作業に時間をかけられる。テレワークを支える通信環境が整ったことが大きい。筆者もオンラインによる15人の会議に参加したが発言者の声や表情がよく分かり、資料も見やすくて円滑な進行ができた。

「遠く (tele)に伝える技術」が、テレフォン、テレビジョンなどによるメディア社会を作った。だが、近頃では、在宅でのテレワーク、遠隔からの診断・手術、教室外と繋ぐオンライン授業、ネット接続型の自宅フィットネスなど、「遠くで共同行動する技術」に進化した。「遠く」の人々との「労働」「医療」「学習」「運動」などを可能にする環境が整ってきたのである。

「遠隔(tele)技術」は、「距離の克服」をもたらした(図参照)。同時に、昨今のように皮肉にも「接触回避」のためにも有効だ。中国・雲南省の昆明医科大学では、5GとVR(仮想現実)の技術を組み合わせた隔離患者看護システムを稼働。VRヘッドセットを付けて、遠隔操作で病室内を観察し、患者の状態を見守る。言わば「非接触接近」の技術である。興味深いのは、同じ技術が、無いものを有るようにする「非存在実在」の機能を持つこと。VRによって、存在しない人やモノを目の前に登場させる。5G技術なら、多数の端末からの複合情報をリアルタイムで遠くに送ることも可能。隔絶した空間にいる人同士が、映像・音・光・振動によって「互いの気配」を感じられるシステム作りも、NTTドコモとソニーなどで進められている。

新型コロナウイルスの感染拡大は、人と人の空間的距離を意識させる契機になった。「距離を克服する」「直接接触を回避する」「無いものを存在させる」という遠隔技術の3つの機能を考えることは、社会的なイノベーションのヒントになるはずである。 

『日経産業新聞』2020.4.3

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