その春 ぼくたちは小さな布で顔を隠していた
その春 ぼくたちは小さな布で顔を隠していた その春 ぼくたちは小さなデビルから隠れていた 国のてっぺんにいる人も 舞台で芝居をする人も 食べ物を売るお店にいる人も おさなごたちの世話をする人も みんな小さなデビルに見つからないように だれもが小さな布で顔を隠していた いつもはちがうテレビを見て ちがう話題を追いかける人々も その春は みんな小さなデビルからどう隠れるかを考えていた 同じことについて考えたので賢い人とそうでもない人のちがいが見えた いつもは黙っている人も声を上げた いつもおしゃべりな人はしゃべり続けたが ことばはふわふわと空にただようだけだった その春 ぼくたちはたがいにはなれていたが 教室にもどったように いっしょにいた クラスのなかで だれがいいやつで だれがダメかがはっきりと見えた その春 ぼくたちは小さな布で顔を隠して いっしょに隠れていた
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