見出し画像

2017年のこと

1年の体感は歳を重ねるごとに加速していくらしい。1歳になったころは人生の1/1を占めていた1年という時間だが、今やたったの1/23を構成するに過ぎない。

23年の年月をひとつの身体に圧縮した僕の"1年"はどれも窮屈そうにしている......。と、言えるなら良かったが、残念ながらスカスカのまま保存されてしまった年もいくつかある。

生かされている限り調子の良い年悪い年、アタリハズレが出来てしまうのは仕方ないことだ。なぜなら自分のやることなすことだけでなく、自分にはどうしようもない、周囲の環境にも人生は左右されてしまうからで。

......でも、それにしたってあのスカスカの1年は本当に中身のない1年だったのだろうか。相対性理論とかいうカッコよくて難しい話によると時間の流れは平等ではないらしいが、それでも毎年365日は巡っている訳だ。なんだったらスカスカの1年のうち最悪だったあの時は閏年だったような気もする。

もしかするとスカスカの1年はまだ解釈の解像度が低いだけで、見ようとしていないから見えないだけなのかもしれない。

長年見ようとしなかったということにも当然大きな意味がありそうだが、そろそろ覗き見くらいしてもいいはずだ。幸い今なら圧縮された僕の年月がクッションになってくれそうな気がする。

今の自分が未来を形作っていくように、未来からのまなざしが過去を変えることだって出来るはずだ。

今年はそういう年にしていきたい。

そのための第一歩として、まずは2017年の印象から雑多に振返っていくことにした。



○ △ □ ○ △ □ ○ △ ○


O'Flynn

ハウスサウンドを軸に従来のマナーやトレンドに敬意を表しつつ、フリーキーな発想で熱量をもたらしてくれたO'Flynn。

2017年リリースとしてはセルフレーベルから発表された「Glow Wormが一歩抜け出したクオリティでとてもよかったけど、16年の年末にリリースされた「TYRION / DESMOND'S EMPIRE」も素晴らしかった。最高。

同じく昨年MigrationをリリースしたBonoboにも通じる視野の広さだけど、よりダンサンブルで享楽的。

新世代による新しい解釈のハウスが一線に台頭してきたことがトピックだった2017年、アイコンとしてはもっとふさわしい人物がいるかもしれないけども、僕自身をそこに接続してくれたO'Flynnは2017年の印象のひとつ。9月にはこれまた大活躍だったPalms Traxらと共にFaltyDLのRemixを手がけるなど、彼もまた活躍の場を拡げている。




Thundercat - Drunk

昨年のベストアルバムのひとつであり、ベストバイのひとつでもあったThundercatのDrunkは恐らくは昨年一番聴いたアルバム。

リリックの軽快さや本人の戯けた性格、あとついでにふざけたジャケットからは連想しがたい美しいハーモニーを何故かパッケージングできる彼の魅力は、自身によるベースの超絶テクに乗ってさらに本当に訳のわからないものになる。

この散らばりすぎたアンバランスな要素を右へ左へと拾い集めざるを得ないリスナーの千鳥足が、ついぞ素晴らしく混濁した酩酊の世界へと誘い込んでくれる。そういう意味でDrunkはまさに彼にピッタリのコンセプトなんだろうな。




長谷川白紙 - アイフォーン・シックス・プラス

なんかSoundcloudでEPまとめたプレイリストは貼れなかった・・・。.

無論、あらゆる作品がこだわりで出来ているのは大前提として、その中でも一際はちきれそうな繊細さなのに全速力で駆け抜けていく彼(と彼の楽曲)の登場は大きなインパクトだった。

砂漠で」の後半、ドラムとシンセをバッキングに従えながらエレピのソロが支配していく所、ドラムに隠れてアーメンがエレピに喰らいついていて最高。絡みと言っても融合というよりまさに喰らいつき、ヒリついた果たし合いの印象を受けるのだけど。アーメンは叙情詩とされてる中でも一番くらい外的なモチーフなのかもと感じているけど、そういうものをあくまで自分の中で昇華する様が愛しい。

フュー・スタディ P」からこの「砂漠で」を経て展開していく「横顔 S」の音楽的な説得力(もしかしたら一番の主題はこの曲にあるのかもしれない)。ジングル的な「すぐ」に、続くと思いきやなんだかボーナストラックの風合いが漂いつつ最後にしっかり着地してくれる「綿の外は」の5曲。曲が良すぎてiPhone割れるし、指から血が出てしまいそう。

12月の京都でようやく現場を見れるかなと思ったけど、その時は残念ながら縁に阻まれたので、またどこかで観れたら。




King Krule - Czech One

淡くて深い(音楽を"深い"と表現するのは普段禁句にしているが......)King Kruleの一曲。

夢に落ちるか醒めるのか、でもどっちにしても自分にとっては現実の一部。催眠的に色々なところから煙ってくるなにかがひたすら肌を撫でる居心地の悪さ、しんどさを持っていながらしっかり最後までもっていく素晴らしい曲。

四方からいろんなものが来るのに重力や場面が不必要に暴れないけど、しっかり必要な分は動かしてくれる、だからここにいる自分に刺さる、って。本当に煙らせ方が上手い。

同じくリリースされたアルバム「The OOZ」も中々の作で、全体を通して伝わってくる行き場のないパーソナリティの発散、もがいていてもその爪痕の完成度の高さ、どこをとっても上等です。




Opal Sunn

Hiroaki ObaAl Kassianによるユニット。以前からオオバさんはトラックのクオリティが高くてライヴセットも楽しかったけど、6月にCircus Tokyoで共演した時に彼らのこのレコードを貰って以来、DJで良い流れをつくれた先に訪れる重要なタイミングには必ずプレイしている。

推進力と力強さのあるOpal Sunnの楽曲はフロア映えも凄く良くて、テクノに比重のよったパーティでもその力を随分と発揮していた。

2015年はDenis Sultaのパワフルな登場に度肝を抜かれたけど、Opal Sunnのデビューは同じくらいの衝撃を持っていた。Okadadaさんに「お前の好き嫌いはわかりやすい」と言われたけど、この曲は多分その典型。





他にもArcaの新譜Samphaあたりは各誌年間ベストにも名を連ねたし、水カンの「メロス」と「嬴政」に更なるポテンシャルを垣間みて、Benjamin Clementineの「I Tell A Fly」では構成の巧みさに唸り、Wata IgarashiさんによるVolte FaceのRemixでは陶酔と不安のあいだを搔い潜るグルーヴが良い緊張感を醸し出していて、現場ではこの曲を使うためにストーリーを組み立てることが何度もあった。

Der Plan13年ぶりの新譜という個人的事件にあわせて、Spotifyではいくつか旧譜も登録されていることに気づいたことも朗報のひとつ。

Logicによる「Everybody」は空想の世界を下地にしながらもリアルの世界に向けて強いメッセージを掲げたオピニオンとしてお気に入りの一枚だった。



○ △ □ ○ △ □ ○ △ ○


YUKI PACIFIC

8月のDarkjinjaでのYUKI PACIFICのプレイは2017年一番良かったDJだった。しかも圧倒的に。

MAXで100人入るかどうかも際どいストンプのフロアに荘厳な世界をつくりあげつつも、世界観の広大さの中で見失わない、確実にそこにYUKIちゃんがいることがわかる、パーソナルな芯を貫いた圧巻のプレイだった。

TwitterにはハイライトとしてGhost in the Chellネタの瞬間をアップしたが、場当たり的な瞬間最大風速ではなく、常に暴風の渦中にいるようなセット。

オーガナイザーのSouj(※1)によるこの評もあながちレトリックと切り捨てられない的確さで、本当にそれほどの凄みを持っていた。

DJの心が現場の雰囲気にライド出来ないことは警戒すべきことだけど、現場の雰囲気に呑まれてしまって自分を主張できなくなることはもっと警戒すべきことだと思う。

これまでのユキちゃんはなんとなくそこに悩んでいるような節もあったように(勝手に!)感じていたけど、徹底的に自分を主張することで現場を自分に乗せていったスーパープレイをやってのけた瞬間に立ち会えたのが嬉しかった。



※1(彼の完璧なパーティプランによってこの日が生まれたことはしっかりと記しておきたい。)



さよひめぼう

今年一番狂っていたのはさよひめぼうで間違いない。

何年もの長いあいだ、1人で曲をつくり続けていたさよひめぼうさんは、2017年、パソコン音楽クラブにより俗世に降りてくることになった。

Live SETの経験ゼロ、さよひめぼうとして人前に出ることすらはじめてという、完璧にベールに包まれた彼がなにをしでかすのか、プレイが始まるまでわかっているお客さんは誰1人いなかったはず。

恐いもの見たさで集まったフロアの人たちの頭を四方から殴りまくるような理解不能のVaporwaveと合流したIDM、Breakcoreは圧巻のクオリティで、他を寄せ付けないというか、寄り付きたくても即破壊されるような......とにかく洗濯機の中にレンガと一緒に入れられてぶん回されているような気分だったことだけ覚えている。

その後東京でもギグがあったが、未だに誰1人彼のことを正しく言語化できていないのがなにより衝撃を物語っている。

きっとWarpの黎明にリアルタイムで立ち会えていたら、こういう感覚だったんだろうな。



SISI - RA Podcast. 566

SISIが担当したRA PodcastはSisiさんがレジデントを務める、伊豆に場所を変えてから数年経つRainbow Disco Clubの雰囲気をしっかりとプレゼンしつつ、彼独特の(そして極上の)ヴァイブを感じさせる秀逸なmixで、今年のハイライトのひとつ。

自分で開いた初パーティにも出演してもらっていたり元々から本当に尊敬しているDJ。人間の言葉にならない部分を音楽で表現して全員で共有させるスキルが卓越していて、それはこのmixでもしっかりと証明されている。



TESLA

こういったタイミングで自分のつくったものを紹介出来るようになったことが本当に嬉しい。

Joule全面協力の元、毎回無茶をさせてもらっているTESLAはひとつの到達点に届いたように思う。上の画像はLicaxxxと2人で開催した回。

なんでCircusALZARじゃないの?とよく言われるが、このパーティの特別感は、いろいろあるけどやっぱりJouleじゃないと出来ないことで、Jouleであるべきパーティなんだというのをこの回で強く実感した。

始まる前は自分自身ですら不安だらけだったがフタを開ければ素晴らしい形になった。開催前に企画を話した人たちでこの結果を想像出来た人はいなかったと思う。

よもや関西から生まれるものなど何もないと言われて久しい時代に、関西から面白いものが送りだせたらとよく考えた1年だった。TESLAにしても当然100点満点ではなく、課題は山積で至らない所ばかりだけど、自分が育った街に囲まれて、自分がその街の一部になって今度はなにかを育てる側になれたら、と思う。

数年、数十年スパンで街全体を継承し、代謝していけるリズムとグルーヴをつくりだしていくことが進展あるグローカルに繋がるはずだ。



078Kobe

開催直後に関係者に向けておくったメールがあるのでそれを一部転載することにする。

Twitterにも書きましたがこれだけ音楽的見地からしっかりしたオーガナイズをした上で当たり前のようにそれを市民と共有できることは中々出来ないと思いますし、神戸の街がもつポテンシャルの高さを感じました。

港の歴史から常にモダンだったことは言うまでもないですが、震災で一度形のあるものが全て無くなってしまったところから、こうして形のないものを大事にする土壌が官民一体であるのかなと思うと感慨深いですし、それを復興記念公園で、大阪人で部外者の僕が一助できているのであればとても嬉しいです。

単なる音楽フェスやカルチャーフェスとしてではなく、21世紀における新しいかたちの「市民祭り」としてこれからも続いていってほしいし、またぜひご協力させてください!

DJ終わりの資料用インタビューでうまく答えられなかったのでここでお伝えしておきます



○ △ □ ○ △ □ ○ △ ○


母を亡くした子どもは「母の日」をどう過ごすのか?

「社会の間違い」に気づいてそれを正すことはとても難しいことだが、「自分の正しさを疑うこと」は時としてそれ以上に難しい。

自分の中の正しさを盲信するあまり、自分自身の振る舞いが見えなくなってしまうのは往々にあることで、僕自身も大小様々な間違いを犯してきた。そしてこういった自己欺瞞こそが一方的な抑圧を生み、また抑圧による憎しみの再生産を生んできた。

完璧な人間はいない様に、また完璧な世界など存在しないのかもしれないが、だからこそ不完全な世界であることに諦めを抱かず、自分の誠実さを疑い、相手を許し、そして指摘しあうことで、少しずつ社会は発展していけるのかもしれない。

社会と自分自身の常識を疑うことは音楽にとってもとても大事なことだと思う。死角にスポットライトを当て続ける作業は「ディグ」のひとつだ。レアトラックや真新しいアイデア、ブラッシュアップのその先の世界は常に今、人目につかない境地に存在している。

内面から己の音楽を進化させていける人間は、より社会の摩擦に気づきやすいのかもしれない。そしてこれをひっくり返した時に僕が根ざすべき考えが見えてきた。

痛みの構造に目を向けない人間が、はたして素晴らしい音楽家になれるだろうか。


タコ部屋

なんとなくからスタートした大阪の寄り合い部屋だけど、僕個人はここが限りなくオープンに近いクローズな場所になればいいなと思う。

クローズな私的の(コレクティヴな)場であることが「部屋」の強みだけど、他者が集う場所として外側から断絶してしまっては面白くないと思うから。

この部屋をつくった縁でいろいろと面白そうなことが実現できたし、まだまだこれからも実現していきそう。

特に自分より若い世代がこの部屋だったりこの部屋にいる人だったり、置いてある本や機材そのほか色々なものをハブにして、新しい外側に接続していく所をみると嬉しい。

さっきの話とも微妙に繋がってくるけど、(公の)人目がつかない所には何があるのか、人目がつかない所から生まれるものとは何かを感じられる場所になれればかなり面白いと思うので、引き続きアップデートしていきたい。



○ △ □ ○ △ □ ○ △ ○


他、Nicola Cruzの公演Contactで開催されているMNML SSGSでのAya Gloomy、AV女優戸田真琴によるシン・ゴジラ評(※2)、アイスランドサッカー界の育成システムレビューtrackmakerの時の謎集合写真IKEAの学校自分の曲を自分の曲だから自分のsoundcloudにアップしたら自分の曲だから削除された事故など、掘り返せば印象的な出会いは沢山あった。

Thundercat以外のベストバイは色々考えたが、結局Timemachine用に購入したHDDかもしれない。

ベスト貰い物は神戸でSan ProperからもらったRush Hourのトートバッグ。流石のレコードが入る丈夫なつくりのおかげで、レコードバッグが壊れてからあまりやらなくなったレコードでのプレイを最近また徐々にするようになった。




※2(ブログには宣伝としてAVのパッケージ画像がそのまま使用されているため文中でのリンクを避けたが、検索に失敗してより危険なサイトを開いてしまうリスクもあるのでリンクをここに置いておく


○ △ □ ○ △ □ ○ △ ○


あとパーソナルなこととしては、今までならありえない凡ミスで間違ってしまったことが多々あったので、今年はその辺の気を引締めていきたい。

関連するのかどうかはわからないけど、1年間ほぼずっとある問題に悩まされてきて、パフォーマンスが落ちていたので今年は取り返せれば。

上半期は特にDJとしても悩みの時期だったが6月のOpal Sunn公演のDJではなにかを掴めた気がする。そこからのDJは、善し悪しはもちろん別であれど開放感が違った。とにかく楽しい。

7月のLiquidroom9月の大分が特に印象的。

前者では緊張感の中で、後者では(はじめての土地だけど)仲間感の溢れる中でそれぞれアグレッシブなDJになり、リキッドではフロアとのレスポンスを、大分ではフロアと同じ目線の高さになる感覚を持てた。

アグレッシブなDJはモードが別物、という感覚をどうしても拭えなかったこれまでとは違って、自分が普段根に持っている鬱屈した部分と地続きで熱量を上げ下げ出来るようになってきたと思う。少しずつ。

結局音楽の一番好きな所はそういう矛盾した要素を同時にパッケージング出来る超越的なところだし、今年はそういう感覚を持てるDJの回数をしっかり増やしていきたい。

あとはいい加減そろそろアルバムのめどをつけるぞ!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?