アフターデジタルの社会

今回は藤井保文さんからお伺いした内容を、シェアします。

<藤井さんプロフィール>
東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 修士課程修了後、2011年ビービットにコンサルタントとして入社
2014年に台北支社、2017年から上海支社に勤務し、現在は現地の日系クライアントに対し、UX志向のデジタルトランスフォーメーションを支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行っている
最近、10万部売れているアフターデジタルの続編が出版されています。
2014年に台湾、2017年に上海へ赴任。そこでモバイルペイメントが進んで現金を誰も使ってない(現金使用率がもはや3%以下)、ICTが社会実装された中国の先進的な状況に危機感とインスピレーションを抱きながら、現地で編集したppt150ページにもなる知見を一冊にまとめ上げ、「アフターデジタル」として上梓


以下、お伺いした内容を箇条書きで共有します。

デジタルとリアルについて

・デジタル=利便や効率を生み出せる
・リアル=信頼や感動を生み出す力がある
・デジタルとリアルの融合が本質で、それは対立概念でない

アフターデジタルとは

・「リアル世界がデジタル世界に包含されるという現象」
・デジタルを起点に、「リアル接点というレアで貴重な場」をどう活用するか、という世界観
・「ビフォアデジタル」では、オフラインのリアル世界を起点にして、付加価値的な存在としてデジタル世界を展開していた
・人がデータに接続・蓄積され、「顧客×行動」データの取得・活用が可能になる
・データの取得・活用により、最適なターゲットだけではなく、最適な「タイミング×コミュニケーション」の提供が可能になる。
・企業競争の焦点が「製品」から「体験」へと変わり、体験全体での価値提供が重視されるようになる

そもそもの、OMO(Online Merges with Offline)概念整理

・ビジネスのオンラインとオフラインを分けるのではなく、それを一体として捉え、オンラインにおける戦い方や競争原理から考える概念
・OMOの本質は、「体験志向」で考え、サービスをオンラインオフラインの垣根なく設計すること
・行動データを集めることが目的化してしまう事例が散見されるようになってしまっている
・目指すべきなのは「使う人が便利になり、データを集めることができる
そして正のループができていって世の中がどんどん便利になっていくという流れ」
・良いスコアを得るためにどんどん民度が上がって社会が良くなっていく、そしてさらに便利になり利用が増えるという正のスパイラル。

OMOの考え方を活用したアフターデジタルの世界における産業構造

・決済プラットフォーマー
決済を軸に顧客の状況を詳細に精密に理解できる。「サービサー」へユーザーを繋げ、「サービサー」から経済圏の付加価値を得ることができる。
・サービサー
圧倒的なUXで業界に君臨する。「決済プラットフォーマー」からユーザーを得て、「製品販売」から「モノ」の提供を受ける。
・製品販売
メーカーをはじめとする従来型ビジネスであり、「サービサー」の下請け的存在

顧客を真の意味で知る行動データの取得合戦の始まり

・主導権を握るのはプラットフォーマーだし行動データを利活用できないと負けてしまう
・だからずっと使い続けてもらえる体験品質を備えたUXが求められることになる
・中国で展開する“DiDi”という配車アプリ。ドライバーのスコアリングが組み込まれていて、GPSやジャイロセンサーで遠回りや乱暴な運転はすべてモニタリングされ、タクシー運転手が給料を上げようとすればするほど、顧客体験がよくなっていく構造になっている。
・アリババの信用スコアもそうだが、“良い行動データを残そう!”というモチベーションを喚起するクレバーに設計されたアーキテクチャによって中国の民度が上がったと感じる人が増えている。
・信用スコアリングの事例をはじめとした中国の先進事例では、テックとUXによって社会構造が変革されてしまう事態になっている


アフターデジタル時代のアーキテクチャ設計が重要

・サイバー法学者のローレンス・レッシグ氏によると、「行動変容にもたらす4つの力」として、「法」、「規範」、「市場」、「アーキテクチャ」がある
・リアル世界でのアーキテクチャづくりでは、国が主導することが多い。しかし、デジタル世界では、国ではなくてもアーキテクチャづくりが可能となる。
・この現象は、中国にて既に生じており、国家主導ではなく、起業家の精神性にもとづき、企業自体が自社ミッションを伴うアーキテクチャ設計を実現している
・一方で、「ナッジ」や「生権力」など、人々の自由をはく奪したり、誘導したりすることも可能であり、リスクも存在する点には注意が必要である
・テックやUXは、社会アーキテクチャを構築できる優れたものであるものの、扱うにあたり「責任と努力」を忘れてはならない。
・行動データを収集して人々をコントロールするというディストピアな世界ではなく、より人々のUXを上げていく
・さらには、単に便利になるという基本的なアーキテクチャではなく、より高次な次元の欲求(藤井さんは「意味」と表現していた)を満たしていくようなサービス設計が、これからの日本には求められていくのではないか


日本でのアフターデジタルの方向性…

・日本における社会アーキテクチャの前提は、中国と異なる
・中国では「負や不からの解放」を軸に「便利さ」を目指してデジタル社会を構築し、プラットフォーマーを生み出すことができた
・日本は、多様化してマスがなく、人口も中国ほど多くない
・このような日本では、「負からの解放」よりも、「自らを由縁とする生き方」を軸に「意味」を目指してデジタル社会を構築するのがよいのではないか

今回は以上となります。

(武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第13回/2020/8/10)

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