僕の自動車教習所日記 最終回

前回の日記でも書いた通り教習所の卒業試験に合格したが技能の授業のキャンセル料金を未払いしていた事により、僕は卒業させてもらう事は出来ませんでした。
卒業した訳でもなければ在籍している訳でもない。

自分は今、どこにいるんだろう。何の為にここにいるんだろう。

まるで思春期に思いそうな質問を自分に投げかけながら教習所を去りました。

次の給料日が来るのを待ち、教習所にキャンセル料金を支払いに行きました。
懐かしみながら教習所に入る、一段階段を上るごとに思い出が後を追いかけてくる。

やっとこれで卒業出来る。
僕は受付にいるおっさんの前に立ってお金を支払おうとした。
その時、ふと思った。

これを支払ったら、もうこの関係も終わってしまうんだと。

教習所に行けば先生と生徒の関係。

何で女性の教官をつけてくれないんだ。

そうやっていじけたりした時もあった。
時には、自動車学校裏でタバコを吸ったり、標識の授業をボイコットなんかもしてやろうかと少しグレてる時もあった。

今思うとそれは何かに不満があったからじゃない。
それはきっと、おっさんに自分を見てほしかったんだ。
おっさんに気にかけて欲しかったんだ。
俺が車の運転中わからない事があったらいつも隣にいて教えてくれた。
何も言わずにただ、助手席にいてくれる時もあった。
とにかくハッカの匂いが強い時もあった。
笑ったら黄色と黒が混ざった阪神みたいな歯を見せて笑ってくれた。
それがそこでは日常だった。
ライブでウケた日、滑った日でもおっさんは変わらず俺に指導してくれた。
そんな日常が当たり前になっていた。

日常は当たり前になる為にあるんじゃない。
変化に気づき、その変化を恐れる事なく受け入れそれをまた日常とする。
それが日常であり、その積み重ねが人生になるんだ。
俺はおっさんと居ようとする変化を心のどこかで恐れていたのかもしれない。
俺はおっさんと、おっさんと一緒にいて楽しいと思ってたんじゃないのか?

俺は、どうするべきなんだ。

するとおっさんが「今日はどうしたの?」嫌味のないタメ口で優しく僕に囁く。

「料金を、払いに来ました」

「料金って、何の‥?」

あえて言葉足らずに喋った。
その足りない言葉が僕達に時間を与えてくれた。
「キャンセル料を‥」
「わかった、ちょっと待っててね‥」
そういうと厚いレンズの老眼を掛け僕には見えないように書類を探し何かを読んだ。
「あった、関本さん‥?」
「はい」
こんな時まで苗字で呼ぶのかよ。そう思いながらも俺はただ返事をする事しかできなかった。
「じゃお、お金もらうね」
「はい」
手渡しでおっさんにお金を支払う。
目が合う二人。
その時のおっさんの老眼越しの目はまるで寂しそうな目で俺に「もう終わりなんだね」と語っているかのようだった。

そんな目で俺を見ないでくれ。
終わりなんだよ。そうするしかないんだよ。

おっさんの目が「払わなくていいからここにずっと居なよ‥」そう語りかけているかのように感じた。
そう言いたかったかもしれない。
でも言わなかった。二人の為に。
普通ならここでおっさんを抱きしめるべきだったのかもしれない。
ただお金を支払う僕。
受け取るおっさん。
全て投げ捨てておっさんと二人で生きる道を進むべきだったのかもしれない。
だが、全てを捨てて二人で生きていくには僕は若く、青すぎた。
おっさんは俺に卒業証明書の書類を渡して口を開く。

「おめでとう」 

少し開いた窓を通る風と一緒にまた嫌味の無いタメ口が、顔に流れてくる。
とても心地がよかった。
この心地良さのお陰で甘えられてたんだ。

だから僕は振り返らずに教習所を出た。

                   完


                 〜あとがき〜

今までこの僕の自動車教習所日記をご愛読してくださりありがとうございました。

せっかくなので門真免許試験会場まで行ったことも少し書いておこうと思います。
朝5時に起床して忘れ物をよくする自分なので入念にチェックをして最寄駅へと向かいました。
冬の季節の朝方が暗過ぎるし、ましてや門真なんてなかなかの田舎だったので街灯がかなり少なく。
前からこっちに歩いてくるフードを被った人に対して怖がりながら歩いてるとただの小学生だったなんて事もありました。
その状況を伝えたくて写メを撮ったのですが見返すと、寒さからか恐怖からかかなり震えていたみたいです。



真っ暗な道のりを乗り越えると門真試験会場がありました。
ただ私は試験会場には向かわずにサクセスという試験会場の隣にあるその日の試験の出るところなどを教えてくれてギリギリまで勉強を教えてくれる場所があるのです。
無償ではありませんが勉強に時間を割いてなかったのでこちらにお世話になることに。
プレハブ小屋の中に机が数個並べられていて席を案内され、天井に吊るされているイヤホンを付けるとおじさんの声で問題と答えを読み上げられているので用意された問題集を読みながらその見知らぬおじさんの声を聞くことによってテストに向けて対策が出来るのです。
何時間か勉強をして試験の集合時間になるとプレハブ小屋を出て試験会場へと向かい、受付をするのですがこれがまた長いしめんどくさかったですね。
もう合格にしてくれないかと思う程でした。

受付を済ませ試験の開始時間まではまだ時間があったので勉強したり近くにラーメン屋があったのでそこでラーメンを食べました。
そして試験の時間になり会場に入り、指定された受験番号の席に着く。
ある程度待つと、3人のおじさんが現れ受験生の僕らに試験の流れや説明をして試験が始まる事に。
びっくりしたのがですね。今まで教習所で受けてきた問題とはちょっと問題の雰囲気が違うんですよね。
少し焦りました。。
僕は最後まで考えて試験官、いや、おじさんの「そこまで」と言われるまで問題と向き合っていました。
結果は後ほど発表するするからまた30分後にこの教室に来てくださいと言われたので試験会場前にある喫煙所でタバコを吸う事に。

正直、自信はありませんでした。。ここで落ちたらどうしよう。。また来なきゃ行けないのもめんどくさいし、、とブルーな気持ちになっていると。
頬に雨よりも冷たいものを感じました。
上を見てみるとそこには空から鮮やかな雪が舞い降りてきました。

それを見て僕は、今じゃないと首を振りながらボソッとつぶやきました。

寒さに耐えながら時間を潰していよいよ発表の時間に、発表の仕方は教室を出ると大きなモニターに合格者だけがそのモニターに番号を映し出され番号が無いものは不合格とみなされ別室に移動する様にとしけおじ(試験官のおじさん)に言われました。
教室の席の列事に外に出てモニターを見に行く事に。
ドキドキしながらモニターに向かう私。
すると見事に僕の番号がありました。
無事別室に行く事なく再び教室に戻り、免許の写真を撮ったりなどして数分後には無事免許をもらうことができ、雪に打たれながらお家まで帰ったのでした。

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