僕の自動車教習所日記②

自動車教習所に通い始めて数回だが、まだまだ環境に慣れる事は出来ない。
何よりしんどいのがスケジュール調整だ。朝昼教習所に行ってはバイトやライブに行きその合間でネタを書いたり作業をしたりとそれを両立出来ない時の自分がとても恥ずかしく思う。
顔は平常に保っていてもサーモグラフィーでその時の自分を見られたら全身真っ赤っ赤なんだろう。

そんな真っ赤にして通っている教習所には学科という交通ルールを授業として受講する時間がある。
パワーポイントを使って知っていることから細かいところまでしっかり教えてくれる。
しっかり教えようとし過ぎて一度授業の合間に「少し休憩で伸びをしましょう」と教官が言いながらパワーポイントで外国人が伸びをしている写真が出て、伸びぐらいみんな知ってるだろと言いたくなるパワーポイントが出るくらいだ。
それくらいしっかり教えようとしてくれている。

やはり学校なだけあって学生時代のクラスのような空気があったりする。
しっかり受講している人、寝ている人、中には下がスウェットの少しグレてそうな女の子も居た。
田舎のヤンキーみたいな子を久しぶりに見てとても興奮している自分がいた。
教官にこの問題が分かるかと聞かれ「えー、わかんなーい」と答える彼女。
「もぉー」と答える教官。
私は教官を砂漠の中で水もろくに飲んでない自分の目の前で、水が入った2ℓのペットボトルをべこべこ鳴らされるほど一気で飲んでいる姿を羨ましそうに見るかの様に教官を見ていた。

周りの学生からは、なんで分からないんだと、なんだこいつはと言わんばかりの少し不純物が混ざっているような目でその子を見ている様に感じた。


「お前らにゆいな(仮名)の何が分かるんだよ!!」


そう言って、俺は教室を出てがむしゃらに走った。
AT車のエンジン音かってくらい心臓が鳴っていた。
自分でもどうしてあんな事をしたのか分からなかった。
ゆいなの事を考えたら体が動いていた。
きっとゆいなに対するあの目が許せなかったんだと思う。
興奮を抑えつけるかのように俺は教習所の下の蛍光灯に照らされながらセブンスターを咥え、火を付けた。
「はぁ、何してんだ俺、、」そう呟くと


ゆいな「スピード違反だよ」


ゆいなが立っていた。
関本「え?なんで…」
ゆいな「廊下は走っちゃ駄目って知らないの?」
関本「ハハッ、教習所は走るところじゃなかったっけ?」
ゆいな「廊下は別でしょ、ほんと馬鹿なんだから」
少し怒っているのにどこか嬉しそうなゆいな。
どんな教官の授業よりもゆいなの馬鹿という言葉が俺には必要なんだと思った。
そう言うとゆいなは黙って俺の口元にあるセブンスターを取り上げ、僕の吸っていたタバコを吸い出した。
ゆいなから出たタバコの煙は僕を優しく包んで悲しく消えた。
少しの静寂の中、教習所近くの踏切の音が響き渡る。

ゆいな「ありがと…」

小声で彼女はそう呟いた。踏切の音で掻き消すかのように。
関本「え、なんて…?」
ゆいな「別にー」
関本「なんだそれ、お前さ、授業サボって試験大丈夫なのかよ?」
ゆいな「あんたに言われたくないですー」
関本「可愛くねーの」
ゆいな「じゃあさ練習しようよ」
関本「は?」
ゆいな「今日の授業でやってたでしょ、狭い道路で対向車にすれ違う時の練習」
関本「なんでだよ」
ゆいな「いいからほら」
関本「めんどくせーな」
ゆいな「じゃ私が左に寄せて停止するからその間に徐行して進むんだよ」
「ほら向こう言って」
関本「わかったわかった」
ゆいな「はい、じゃあ進んできて」
ハンドルを持っているかの様にマイムををして恥ずかしがりながら進む俺。
関本「なんでこんなこと…」
ゆいな「ぶーん」
なんの恥ずかしげもなく子供の様に無邪気に練習するゆいな。ずっとこんな時間が続けば良いと思った。また体が勝手に動いた。
ゆいな「はい、左寄せたよ、行ってくださーい」
俺はゆいなの目の前に止まった。
ゆいな「ちょっと、早く行ってよ」
俺はゆいなの小さな顔を両手で触り、小さな唇に俺の唇を停車させた。
グロスの匂いとセブンスターの味がした。
ゆいな「ちょっと、、」
関本「練習に、なったろ?」
ゆいな「こんなの、、違反だよ、、」
関本「今回はどうやって怒るんだ?」
ゆいな「こうするの」
そういう言ってゆいなは俺にキスをした。
ゆいなのつま先はアクセルを全開で踏んでいるかの様に伸びていた。

というゆいなという名前かも分からないままヤンキー女との妄想をして受講していると授業は終わり帰りにヤンキーと一緒になり、なぜか恥ずかしくなって僕は急いで立ち漕ぎをして帰った。



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