僕の自動車教習所日記③

教習所に通い始め、たまに芸人から「教習所どう?」と聞かれることが増えた。
周りの芸人はあれが懐かしいだのこれが緊張しただのと色々と教えてくれる。
でも、ごく稀に芸人ではない一般の人に教習所に通っていることを話すと、「え、金勿体な、、貯めといたらいいのに!免許なんか取っても何にも変わらんで?」
と言ってくる人もいた。
そう言われたときに、こいつは変わることのできない人間なんだろうなと思った。

教習所ではいよいよ技能、つまりは教習車に乗って教習所内での運転が始まろうとしていた。
初めての運転、僕は緊張とワクワクが止まらない中で待合室の椅子に座りテレビを観ながらその時を待った。
テレビの内容なんかまったく入っていない。見てるフリをしているだけだ。
この感覚は風俗の待機所に似ていた。みんなソワソワしている。だから読みたくもない漫画を手に取り読んでるフリをする。
漫画の内容なんか一切入っていない。

だが、ここは教習所。風俗と違って番号札では呼ばれない。

「関本さん!関本 伸さん!」僕のフルネームが聞こえた。
声の元を辿ると、そこには風俗嬢とは真逆のハゲたおっさんが立っていた。
そりゃそうかと思いながらその教官と技能の授業をする事に。
手始めに車の前後の安全確認、エンジンをかけるまでの動作から簡単なアクセルを踏んでの前進と後退を指導して頂いた。
その後、「じゃ運転してみようか~」ということで驚きながらも訳もわからず運転を始めることに。

カーブの仕方も教わってもないのに大丈夫かなと不安はあったがそれと同時に自信もあった。
なんとなくわかる、ハンドルの感触、車から見る景色。どれも初めてじゃない感覚があった。
俺は車に乗るために生まれてきた。車のエンジン音がまるで俺の運転を欲しているかのように語りかけてくる。
「フッ、おもしれえ」そんな顔をしながら俺はエンジンをかけ車を走らせ緩やかなカーブをただおもむろに感覚だけで走った。

すると、見事に車は縁石に乗り上げた。
静寂の中に静かに鳴るエンジン音。
車が傾いた状態で教官が口を開いた。「最初はみんなこんなもんですよ~」と言ってくれるのかと思ったら「関本さ~ん、こんな運転じゃだれも乗りたがらないですよ~?」と煽られた。
車外から人に煽られてるのはニュースで見たことあるけど車内で人に煽られる事もあるんだと思った。
そう思いながら僕は「チェンジで」と心のなかで呟いた。


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