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聖フランシスコと味わう主日のみことば〈復活節第6主日〉


わたしがあなたがたを愛したように、互いに愛し合いなさい。これがわたしの掟である(ヨハネ15・12)。


今日の福音(ヨハネ15・9-17)は、〈十字架の犠牲〉に向かうイエスが〈最後の晩餐〉の席で、弟子たちに残した惜別の説教が読まれます。復活節の主日ではありますが、イエスの〈復活の喜び〉を生きるということが、わたしたちにとってどのような意味を持つのかを深く思い巡らすとき、やはりそこには、わたしたちへの〈愛情〉ゆえに避けることの出来なかったイエスの〈十字架の犠牲〉が、今一度、思い起こされる必要があるということなのでしょう。

イエスの望みはただ一つ、それはわたしたちがイエスの〈愛〉にとどまり続けることです。「父がわたしを愛されたように、わたしもあなたがたを愛してきた。わたしの愛にとどまりなさい」(15・9)。

聖フランシスコは、神の恵みによって、イエスのこの言葉を深くその魂の奥底に刻まれました。フランシスコの列聖を記念して、時の教皇の依頼によってその伝記を書いたチェラノのトマスは、次のように述べています。

愛の力によって他の被造物の兄弟となったことを考えれば、キリストの愛が〈フランシスコ〉を、創造主の像を刻まれた者らにとって兄弟としたとしても不思議ではありません。キリストが愛した〈人々〉の魂を愛していないなら、自分はキリストの友ではないと見なしていたのでした。(フランシスコは)何よりも兄弟たちを一つの特別な信仰によるいわば家族、永遠の遺産にあずかる者として一つに集められた者として、臓腑の奥底から溢れ出る愛情をもって抱きしめていたのでした〈チェラノのトマス『魂の憧れの記録(第二伝記)』第2巻〉※1。


フランシスコの魂を深く揺さぶったキリストの〈愛〉は、自らを神と他者に捧げるイエス自身の〈愛〉から溢れる出るものでした。「友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない。わたしの命じることを行うならば、あなたがたはわたしの友である」(15・13-14)。

わたしたちには、何か高い壁のように感じられてしまうイエスによる新しい〈愛〉の掟ですが、イエスの言う「友のために自分の命を捨てる」ということは、フランシスコにとっては、普段の生活の中で、具体的に生きることのできる身近な問題でした。それは、他者からの見返りを求めようとする自分自身の〈エゴ〉を手放し、できる限りの〈無私〉の心でわたしたちに注がれる神の〈愛〉という模範を生きることだといえるでしょう。そこでフランシスコは、兄弟達にこの〈愛〉を具体的な状況を提示しながら、それを生きるように促します。それは例えば、次のような状況において表現されます。

自分にされた不正を悲しまず、神への愛のために、その人の霊魂の罪について鋭い痛みを覚える人こそ、自分の敵を真実に愛しています。そして、行いをもって愛を示さなければなりません〈『訓戒の言葉』(愛について)〉※2。

自分が同じような状況にあったなら、隣人から我慢してもらいたいだろうと思うとおりに(ガラ6・2、マタ7・12参照)、自分の弱さに基づいて隣人を我慢する人は、幸いです〈『訓戒の言葉』(隣人への同情について)〉※3。

自分の兄弟が病気で、報いることが出来ない時に、健康で報いることが出来る時と同じように、その兄弟を愛する僕は幸いです〈『訓戒の言葉』(まことの愛徳について)〉※4。

遠く離れていても、一緒にいる時と同じように兄弟を愛し、尊敬し、愛徳があれば、その人の面前では言えないようなことを、その背後でも決して言わないしもべは、幸いです〈『訓戒の言葉』(まことの愛徳について)〉※5。


フランシスコが言う〈幸い〉という言葉は、神から祝福を受けるということですが、それはすなわちキリストとの〈永遠の一致〉に生きるということであり、イエス自身がその人の内に生きて下さるということを意味しています。フランシスコは、イエスと一致して生きるというその〈喜び〉を、心の底から味わうすべを知っていたのでしょう。しかしその〈喜び〉は、自分のエゴに打ち勝つという内的な戦いの勝利、つまり、エゴの〈死〉を経ることなしには迎えることの出来ない霊的な〈復活〉の体験なのです。

フランシスコも、自分自身のエゴという苦しい内的な戦いなしに、このような霊的次元にやすやすと到達したわけでは無かったでしょう。おそらく、この〈喜び〉にいたるために、どれほどの人知れない霊的な戦いをくぐり抜けてきたかは、神様だけがご存知なのかもしれません。


※1『アシジの聖フランシスコ伝記資料集』フランシスコ会日本管区訳・監修、教文館、2015年、344頁。
※2『アシジの聖フランシスコの小品集』庄司篤訳、聖母文庫、1988年、37-38頁。
※3同書、42-43頁。
※4同書、46頁。
※5同上。

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