日本の伝統工芸品をMidjourneyで生成する(前編)
伝統工芸品をMidjourneyで生成してみた
こんにちは、猫碑です。
今回は日本の伝統工芸品オタクの私が、伝統工芸品をMidjourneyで生成できるのかどうかを1週間くらい本気で検討して9000字強の記事にした力作…もはや怪作です。気合いで書いている長文ですので、ご覧になりたい項目や画像だけを目次から参照することをお勧めします。全部お付き合いしてくださる方がいたら、それはもうありがたいとしか言いようがないです。
今回もガンガンに呪文を公開します。伝統工芸品の模倣品が増えている昨今。場合によっては海外で悪用されることもありそうかも?と躊躇したのですが、私自身のなんの儲けも期待していないし、いい用途で使用されることを願って無料の公開に踏み切ります。系統立てて説明しているものではないですが、どなたかの参考になれば幸いです。
きっかけ
ただ単に私が伝統工芸品オタクなので…というのが最初ですが、下記のようなメリットもいくつかあると思ったからです。こんなことができたりしたら超最高だなと。
自分がいつの日かオーダーメイドを頼むときに、へたっぴな絵と言葉で伝えるよりかはMidjourneyで「具体的にこんな感じ!」と提示できる。
職人さん・アーティストさん側も、普段からイメージを膨らませるのに使うことができる。
今までにない新しいタイプの伝統工芸品を模索できる。
漫画やイラストを創作する人の参考・補助になる。
そして最近気になった事例として、呉服屋さんでMidjourneyで生成した着物を販売しているところがすでにあるんです。面白い着物を作っていらっしゃるので長年見続けている業者さんなんですが、これには流石にびっくりでした。この記事の内容が一部実現しているということです。これは他の分野でもやるしかないなと。
他にもAI生成の話とはズレますが、ポケモン工芸展とかありますね。これもポケモンと工芸、という今までにない自由な取り合わせだから話題になっているのだと思います。AIならお手のものです。
生成する伝統工芸品を絞り込もう
日本の有名な陶器や、漆器を生成するのは何人かやっていらっしゃる方を見かけました。プロンプト作成中に見かけたサイトの中でも特に参考になったのは以下のサイトです。BLOG CAKEさん、本当にありがとうございます。
しかし、想定外なことに完全に伝統工芸品の名前や細かな特徴を名指しして生成している人はまだ日本にいないようです。(驚くべきことに、海外には何名かいたんです。Discord上で調べた限りですが。)
そこで、今回は知名度の高い伝統工芸品10種と、私が好きな伝統工芸品いくつかを生成することにしました。基本となる10種はこのサイトを元に選定しました。
私が好きな伝統工芸品として、村上木彫堆朱・秀衡塗・芝山漆器(芝山細工)・高岡銅器・東京銀器を追加します。明治工芸 or 漆工・金工オタクであることがすぐにわかる品揃えだ。
というわけで、以下の15種を生成します。生成にあたって、私の知識や興味によって各項目の分量が前後したり、失敗することをご承知おきください。また気力の問題で、画像多めになります。
知名度の高い工芸品10種👈前編、この記事で扱います。
有田焼(佐賀県)
箱根寄木細工(神奈川県)
江戸切子(東京都)
輪島塗(石川県)
信楽焼(滋賀県)
南部鉄器(岩手県)
西陣織(京都府)
備前焼(岡山県)
曲げわっぱ(秋田県)
京友禅(京都府)
伝統工芸品オタク選定の5種👈後編で扱います。ニッチ。
村上木彫堆朱(新潟県)
秀衡塗(岩手県)
芝山漆器(神奈川県)
高岡銅器(富山県)
東京銀器(東京都)
知名度の高い工芸品10種を生成しよう
有田焼(佐賀県)
導入編も兼ねて有田焼から。ここで得た知識を他の工芸品にも応用していきます。
脳死なプロンプト「有田、陶器」で生成します。海外で安定の知名度があるせいか有田焼のようなものは生成されるんですが、なんだかもう少し詰めが欲しいところです。その「詰め」を素人が考えるのが難しいところ。
さて、有田焼は江戸・明治くらいの秀作が多いイメージです。海外の美術館に所蔵されていたり、オンライン上で取引されているものが多いことを想定して、これらの時代を表記する言葉を付け足してみます。一気に生成される作品のクオリティが上がりました。海外に輸出されたものが多い伝統工芸品に関してはこのプロンプトを入れると良さそうです。
さて、いろんな柄のものを作ってもらいます。Pattern of〜や〜patternというように模様を指定するとうまくいくようです。
箱根寄木細工(神奈川県)
さて次に箱根寄木細工。昔ながらのお宅に行ったら1個はあるような気がします。早速チャレンジしましょう。
英語圏で知名度がないもの、AIが学習できない単語に関しては脳死でプロンプトを入れてもうまくいかないのがMidjourneyの常。美しい箱根の風景が出力されてしまいます。
ここで「Marquetry(寄木細工の英語名)」を入れると途端にうまくいきます。世界各国にも寄木細工は存在しており、エジプトやシリアあたりのものが特に有名で素敵です。興味のある方は調べてみてくださいね。
あまり複雑な模様のもの、作家を指定すると途端に造形不可能&気持ち悪くなってしまうことがわかりました。これはハズレ。
何を作りたいのかは具体的に指定しましょう。ペンダントなのか、花瓶なのか、箱なのか。
さて、箱根細工の製法は指物と挽物に分かれます。皆さんがよく見かけるものは、木象嵌をルーツとする指物「ヅク技法」で作られたものだと思います。
残念なことにあまり知名度はないですが、特に上質で長持ちする寄木細工の多くは近年開発された「ムク技法(ムクづくりとも)」の方法で作られています。プロンプトに入れると、なんだか上質な仕上がりに。
海外のプロンプトを拝見したところ、寄木細工らしさを出すためには「abstract pattern」を入れるといいようです。確かに素晴らしい仕上がりになりました。
江戸切子(東京都)
正直、切子は全く知らないのですが試してみます。切子は海外でも知名度があるようで、比較的それらしいものが簡単に出力できます。
このままだと何切子なのかの指定ができないなと思ったので、江戸という表記を入れました。気のせいかわかりませんが、少し画像の傾向が風景に偏って崩れます。
壊れた分を補うために、カットグラスであるということを記載しました。幾分元に戻りましたね。しかし、この記載を入れたことでモノクロになってしまっています。確かに本来の江戸期の切子は色がないものが主流だったようですが、これでは現在の「色被せ(いろきせ)」ガラスを使った製品に比べて寂しくなってしまいます。
コバルトブルーであるという色指定を入れました。だいぶ江戸切子らしくなりましたね。
箱根寄木細工と同様に、模様を抽象化するために「abstract pattern」の記載を入れます。うまくいきました。薩摩切子との差別化は素人にはわからなかったので、今後に期待。
輪島塗(石川県)
漆器といったらここ、というくらいの代表格。当然海外でも学習量が多く、すぐに生成できます。同じような傾向を持つ有田焼と同様の生成方法で試してみます。まず漆器「lacquerware」であることを指定します。
有田焼同様に明治期の作品を想定し、「Meiji period style」を使用します。こんな簡単にそれらしいものが生成できちゃうなんて、本当に感動ものです。
折角なのでいろんな模様の生成を試してみました。漆工オタクの私には楽しすぎたので分量多め。ここでは詳細には試していませんが、螺鈿や蒔絵などの技法の用語で細かく指定すればもっと高級感のある作品になると思います。
模様も遊びがいがあります。IKEAのロゴを入れた漆器を生成したり。
ニューヨークの街並みを描いてもらったりしました。こんなこともできるんですね。
意欲作。映画「マトリックス」のデジタル雨の模様を漆器で再現してもらいました。なんかこの傾向、現代の漆器作家さんで見かけますね。すでに流行ってる?
信楽焼(滋賀県)
これも全く知識がないですがやってみます。
簡単に生成してみます。縄文っぽい渦模様が混じっていたり、壊れていたり、穴があいちゃうのは何でなのでしょうか…。
手っ取り早く信楽焼らしくする方法としてタヌキにしようとしましたが、うまくいかず。可愛らしさはあるんですが。
信楽焼という表記のみに頼らず、言葉で表現しまくってみます。こんな感じかなあ。どうしても穴は取れませんね…陶器オタクに後を託します。
南部鉄器(岩手県)
最近鉄分を取るために鉄器で白湯を沸かす方々がいると聞きました。個人的には鉄玉子もおすすめです。
さて、ざっくり生成しました。何も模様は指定していないのですが、中国茶道用って感じです。有田焼と輪島塗同様、知名度はあるので生成は容易なのですが、AIの学習元に何かしら別のもの…たとえば模倣品とかが紛れ込んでそうな感じです。皆さんも購入時はご注意ください。
もう少し黒仕上げにして、ハンドルを鉄製に、形態を急須(または鉄瓶)に限定します。だいぶそれらしい雰囲気になりましたね。形状を指定しないとお皿っぽいものがメインで出てくるので、指定した方がいいようです。
ミモザの模様の南部鉄器ってないなと思ったので指定してみます。なんだか金色が入ることで南部鉄器らしさが減ってしまいました。カラーがあることで琺瑯寄りのデザインですね。
ミモザの模様を「エンボス加工」した体裁で指定すると、すごくうまくいきました。つまみなどの詳細を指定すれば、実用に近付くと思います。
他にも存在しなさそうなデザインで試してみました。
西陣織(京都府)
ざっくり生成するとこんな感じ。京都への観光客が多いからか、こちらも有田焼などと同様に単語の知名度はありそうですね。
着物に仕立てましたがなんだか違う。何か足りないと思ったら、立派な金襴が足りないんですかね。外国の方に着物と言って浴衣を貸し出している影響もなんだかありそう。
金襴の概念を付け足しました。陰翳礼讃的な雰囲気は出たでしょうか。
ここで別のベクトルからの説明を試みます。シルクの記載を入れた方がいいようです。金襴以外の要素も大事だということに気づかされました。
人に着せてみると、途端に見応えのある絵になりました。
備前焼(岡山県)
簡単に生成してみます。これだけでも十分特徴は出てますね。
信楽焼と同様に細かく指定しようと思いましたが、なんだか蛇足。これはやめましょう。
カップを指定したら、ヒビはありますがいい出来栄えになりました。
曲げわっぱ(秋田県)
あらかじめ予告しますが、大苦戦の結果諦めたコーナーです。
こちらも名前そのままだと美しい謎の風景が生成されてしまいます。箱根寄木細工と同じようなスタンスで生成しましょう。
杉で作られているからと木の箱を指定すると、なんか違う構造物が。あまりにもシンプルすぎて、AIに想像できないんでしょうか。
ここまでよく用いてきた「abstract pattern」だと玉砕。
信楽焼同様、詳細な説明を試みるターンに入ります。それらしくはなってきました。
丸みを帯びた形になって、作ることができそうな形になってきました。でもまだシンプルさが足りない。これが限界のようです。どちらかというと竹工芸品の編み込み仕様。
京友禅(京都府)
こちらは西陣織と同様、そのものの知名度があるようです。
着物に仕立ててみましたが、特に何も変わらず。
詳細な説明を試みました。多分これ、業者さんの販促時の説明用画像みたいなものが紛れ込んでますね。なかなか学習範囲がうまく設定されないものです。
西陣織同様に、人に着せてみるとそれらしくなりました。涼やかな佇まい。
感想
「何と呼ばれているものを作るのか+どういう素材や形状や特徴なのか+詳細を描くための追加情報」は必ずプロンプトに盛り込まなくてはいけない内容のように思います。AIで一般的な画像を生成する際にも必要な情報なんですが、リアルに伝統工芸品を描写するとなると求められるスキルが異常に増えます。
ひとえに自分の「ものに対する表現力」と「持っている知識」を引き出す作業という感じでした。何も知識がなくても結果として出力はできるんですが、偶然できた想像上のものを楽しむのではなく、実際に作ることができるかを検討し、言葉で表現してリアリティーを求めるとキリがないです。
逆に言えば、すでに知識がある職人さんやアーティスト、オーダーメイドなどの設定を頭の中できちんと設定できている人は非常に細かく使いこなせると思うので、是非に活用していただきたいと思います。
あーーー、疲れた。我ながらこんなに書くのは物好きですね。後編は完全に自己満足な伝統工芸品のセレクションでやります。
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