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コックさんが鬼にあったお話、絵本「やすださんと おに」

タイトル

やすださんは おおきな にもつを かかえて、
とぼとぼと かえるところでした。
40ねんかん ようしょくやで コックを していましたが、
きょう とうとうみせじまいしたのです。
おおどおりに ファミリーレストランが たちならぶように なってから
おきゃくさんは だんだん へり、1日 0にんという日も ありました。
「もう としだし、このあたりが やめどきだ・・・」
ダンボールばこの なかで、フライパンや おたま、
やすださんのじまんだった
てづくりケチャップの はいった びんなどが
カチャカチャと おとを たてていました。


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やすださんは ふと おかしなことに きづきました。
さっきまで アスファルトだったはずの みちが、土なのです。
はっと かおを あげてみると、いつのまにか うすぐらい もりのなかに たっていました。
ひゅうっと つめたい くうきが ながれてきます。
「おおどおりに でるはずが・・・。どこで まちがえたのかしらん」
みちの さきに おやしきらしきものが みえます。
「あそこで みちを きいてこよう」
やすださんが もんの まえまで きた そのときです。

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やすださんは とっさに とびらの かげに かくれました。
「なんだ、あれは」
どっと あせが ふきだしました。
「おに・・、おにか?
ここにいるのは まずい!にげないと」 


やすださんは ゆっくりと ようすを うかがいました。
ズシンズシンと あしおとを たて、
おには やしきから とおざかっていきました。
ほっと むねを なでおろした そのとき、

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「にんげんだあ!にんげんが いるぞう」
へいの うえから おおごえが きこえました。
「しまった、ほかにも いたのか!」
そうきづいた しゅんかん、ふといゆびで ブンとつまみあげられ、
やすださんの からだは うきあがりました。
おには ぐいんと やすださんを ひきよせると、
ドスンドスンと やしきの ほうへ あるいていきました。


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やしきの なかの おにたちが わあっと あつまってきました。
「にんげんだ!」 
「ちかごろは とりや うしばかりだったもんなあ」
「にんげんを たべるの ひさしぶりだ」
やすださんは ぞっと ふるえあがりました。
もっていたはこが ゆっくりとおち、フライパンやボウル、ケチャップの 
びんなどが おとを たてながら とびだしました。
おにたちは したなめずりを しながら ぐうっと ちかづいてきます。
そのときです。
おにの あしもとを みた やすださんは、はっと いきを のみました。


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「ああ、ケチャップが!」
やすださんが おみせを しめるまえに つくった さいごの ケチャップです。
「ケチャップが」
あまくて おいしいトマトを えらび、じっくりと にこんで つくった 
ケチャップです。
「ケチャップ・・・」
オムライスや スープに つかうと、サラリーマンも こどもたちも 
「おいしい」「おいしい」と たべてくれた ケチャップです。
それが いま、おにに ふまれて われた びんから ながれだしていました。
やすださんの なかに ふつふつと いかりが わいてきました。
「ふ、ふ、ふ・・」 


「ふざけんなああ!」

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 やすださんの さけびごえに、おにたちは おもわず あとずさりました。
「そこの おに!
 そのケチャップはな、おいしく おいしく つくったケチャップなんじゃ!
 にんげんなんかより よっぽど おいしいんじゃ!
 それを、そのびんを わるなんて!」
おにたちは かおを みあわせました。 

「おい、おまえ」おにが はなしかけてきました。
「そのケチャップとやらは そんなに うまいのか」
「ああ、うまいとも」
やすださんは つりさげられたまま、ぐんと むねを はりました。
「じゃあ、くわせてみせろ」
おには やすださんを おろしました。

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やすださんは、びんに のこった ケチャップを ふってみました。
もう はんぶんも のこっていません。
「スープは むりか・・・そうじゃ」
にもつの なかから バター1つと、たまねぎ2つ、おにぎりを 4つ とりだしました。
「あ、こんなところに」
にわとりの うんだ たまごが ころころと おちています。
やすださんは 8つほど ひろいました。
コックの ぼうしを かぶり、エプロンを キュッと しめると にわへでました。 


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やすださんは あつめた 木ぎれと いしで かまどを つくり、 
火を つけました。
あたためたフライパンに ポンと バターを おとします。
バターが じゅわっと とけだしたところに たまねぎをいれ、
つづけて ごはんと ケチャップを いれると、
おいしそうな においが あたりいちめんに ひろがりました。
おにたちが くんくんと かいでいます。
やしきの そとへでていた おにも、においに つられるように 
かえってきました。
いったい なにを つくっているのでしょう。 


たまごを くるりと まいてできあがったのは・・・

オムライス

オムライスです。
さいごに やすださんの とくせいケチャップを とろりと かけました。


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「はい、おめしあがりください」 
やすださんは レストランで りょうりを だしていたときのように 
いいました。 
おにたちは すーっと においを かいだり、よこから みたり うえから みたりしたあと、 おおきな ゆびで つまんで ぱくりっと たべました。 
「うまい!」 
「うまい うまい!」 
「はじめて たべた、こんなの」 
「もっと たべたい・・・」 
なごりおしそうに、ゆびを なめる おにも います。 
やすださんは おもわず、ふふっと わらいました。


「おい、おまえ」おにが やすださんの まえに たちました。
「ここで りょうりばんに ならないか」
「そうだなあ・・・もう にんげんを たべないと やくそくするなら」
おにたちは、「どうする」といったかおをして おたがい みあわせました。 

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「ようし」
おにの ひとりが たちあがりました。
「もう たべない。そのかわり、もっと いっぱい つくってくれ」
ほかの おにたちも うなずきました。
「そうだな、あれだけじゃ たりん。
 やくそくするから、はらいっぱい くわせろ」
やすださんは わらいながら「しょうがない」と こたえました。
おにの りょうりばんに なることは、ほんとのところ、
やすださんにとっても うれしいことでした。
おにたちが あんまり おいしそうに たべるので、もっと いろんなりょうりを つくってあげたくなったのです。

こうして おにたちは、いまも やすださんの おいしいりょうりを たべているのです。 


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おしまい

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