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了巷説百物語感想



本編の内容に触れまくります。
未了の方はご注意くださいませ。
だらだら感じたまま書いているので、脈絡などないし、
雑です。


!!!感想!!!



■戌亥乃章:於菊蟲

百物語シリーズのきっかけとなった、『数えずの井戸』を回収するところから始まり、『続巷説』で描かれた話が繋がり、新しい登場人物を巻き込んで展開する…納得や驚きの他に、やり切れない切なさが混ざるのが、私が思うこのシリーズの魅力の一つ。
これまでもこつこつと徳次郎という人間に魅了される描写はあったものの、決定打になるような、そんな展開だった。
青山屋敷での化物仕事からスタートというのがファンを喜ばせる展開で、未読の人にも惹きのある見世物だったんじゃないかと…!!
源助が藤兵衛を「大将」と呼ぶのがしっくりきてて、2人の関係がはっきりする感じがして好き。
お玉が他の女性陣に比べて少しだけ抜けているような感じなのも、嘘を見破る洞観屋と行動を共にする《らしさ》を感じられて良い。人間ぽさというか。
次章への繋がり方のまたおしゃれなこと!
始まった!って拳を握らせてくれる最高の序章。

■申酉乃章:柳婆

柳屋が舞台になって、山岡百介が現れて、お龍が出て…!!なんて激アツ展開なんでしょう、まさかこの舞台が再演されるなんて…!!って思ってたら、まんまと騙されたァァァ!!っていう。でもさ、柳次が語ったことは百介が本当に感じていたことだからこそ洞観屋はその時《嘘》を見破れんかったわけよね。百介を知る、覚える、演じられるのは又市一行じゃないと本当にできないんだな、ある意味で百介の居場所でもあったんだなと改めて思って泣いた。柳次は【亡者操り】だからね、余計にそう感じた。死んだとしてまで山岡百介をした柳次…!
張り巡らされるアレコレが面白すぎる…!!私が大好きな京極夏彦が詰まってる!翻弄される!わかり易いのに判らない!オールスター感謝祭すぎる。このシリーズを読んでてよかったという面白さ。

「山岡百介には一切関わらないで欲しい、忘れて欲しい」

ねえ又市あなたさァ…!!それだけの為に時間をかけて罠を張ったの??『後巷説』を通して又市を思う百介の気持ちを知ってるからこそ泣ける。
好き…(号泣)でした。

■午未乃章:累

田所真兵衛がね、すごいちょうどいいの。京極先生が書かれるうだつの上がらない堅物人間がめちゃくちゃツボなので、運命さえ感じた。
ここで事触れの治平がね、又市をいかに信頼しているかを語るターンになるわけですよ。誰かが誰かを語る時、ぶっきらぼうに疎ましげに言うのに、一言一言にしっかりと感情がこもっていると読めるから読み手の頭の中で明瞭な関係性が構築されるのよね。それが各々の仕事になるわけやから、仕掛けのややこしさや難しさを紐解く時間の他にも楽しみができるのよね!
子供を生かす殺す、妻の生き肝を…とかいうこの章でも担ぎ出されたのが治平というのが残酷で、さすがだなと。
林蔵〜!会いたかった!
「又市の兄弟分で」
と、そう名乗るのはあなただけなのよ。林蔵…!!
『西巷説』でその兄弟分ぶりに熱くなり、他ではあまり揃って活躍という場は少なかったけど(今回もない等しい感じではある)、林蔵が又市をどう思うかというのが多く本文に含まれていたので満足です。満足すぎました。
とは言え登場に沸き立ったものの、また結末のやるせないこと…ここでも地獄ですか、そうですか。
「又には借りがあるさかい」って頑なにその場を納めようとする林蔵、おぎん、治平の「銭貰ってるだけ仕事はする」という額面通りやけどそれ以上にある《繋がり》ね。
題にあるとおり《累》の物語に混じる又市の話も苦しい。シリーズを通して御行の又市はあくまでも不透明であやふやで分からない存在と思っているけど、だからこそ少し明らかになった時に今までの行いが読み手の心を蝕むのよ。だからか、と腑に落ちたり、そんなに頑張らなくても、と目を背けたくなったり、頑張れって応援したくなったり。持ちうる感情を総動員しても又市に対してどういうまなざしを向ければいいのやら…というもどかしさも含む。
憑き物落としの出番と期待しつつ、落ちてしまえばどんな結末が待っているのかというのを百鬼夜行シリーズで嫌という程知っているから、あくまでも《巷説》であって欲しいと祈るほかないという。
こんなこと言いつつ、最終章を読み終えて真反対の感想を抱いてます。
情緒不安定になる作品です。
大好き。

■辰巳乃章:葛乃葉

祭文語りの文作もでてきました。
勘作のさ…話もさ…こんなところでこんなふうに詳細を知るのかい私は…?!と追い討ちの悲しさを与えられた。
登代に対して戸惑う藤兵衛が、やっと立体的な人間に見えて好きな章。
源助もあくまで自分の仕事を遂行しようとしているようではあるけど、どこかイチ人間として藤兵衛を心配しているようにも読めるのさ。
やっとここで黒幕が分かるけど目的は分からない…!無関係な複数の事件が少しずつ繋がって背景が出来て、作中の表現を借りるなら《絵》になる。読み込まないと置いていかれるけど、その分巧緻に作り込まれていて没入できる。
治平の役割だったのが後の展開に意味を成す面白さたるや!
京極先生は物語に縦幅だけじゃなくて深浅幅も作ってくれる…だから飽きないの!!

■寅卯乃章:手洗鬼

この章を涙なしで読めましょうや…無理でございますよね…
本誌で読んだ時、辛くて辛くて手で顔を覆い、わんわん泣いた記憶がございます…
さて。
今までのシリーズの中で抱いてきた《事触れの治平》というキャラクターがここでやっと完成するのに、掴めたと私は感じたのに、さらっと崩れてなくなってしまった悲しさ。もどかしさ。
中禪寺洲齋の存在感がクリアになったのもこの章で。こんなに人間らしいのか京極堂の曾父様は…!と。もし百鬼夜行シリーズを知らなければまた違った感じ方もできただろうなというどうしようもない悔しさはあれど、この方あってこそ、昭和の物語を紐解く陰陽師が生まれたのかと思えると、感無量とも言える。情報収集力に長けていて、解析力もあり、弁えるべき境界線を歴然と引いている。存外よく笑うし、柔らかい雰囲気も多分に含んでいて、そこに《人間らしさ》を見たからこそ、寿々の存在が浮き彫りになる…!!
・名前を呼ぶ。(魂呼ばいのところ)
・嘘を吐く。
これを、この章だけで痛いほど繰り返される。残酷すぎやしませんか京極先生。儚すぎやしませんか。百物語シリーズでは各作品で「助けてくれてもいいのに」と藁にもすがる思いをするけど、本当に、この時以上にページを捲るのが辛かったこともない。
薄々感じていた風見一学の存在がまた濃厚になって、これからの振る舞いを想像しながら、過去や背景を思った時にはもう既に好きになってしまっていた。
京極先生は時代ものにある所謂《悪者》を描くのも達者であらせられるので、とことん七福連が憎くなる。お前たちさえいなければ…!と登場人物と同じ熱量になれるのも作品と一体感があって面白い。
闇を抱えていて、恩を返すためと刀を抜く東雲右近の強さよ!!別に番外編とかで書いてくれへんかな?!もっと彼の人となりやこれからを知りたい!って思わせてくれる。めっちゃかっこよくてめっちゃ良い人。『続巷説』で惚れてからずっと相変わらず惚れてるけど、こんなに惚れるとは思ってなかった。

■子丑乃章:野宿火

怒濤に明らかになる真実と、とんでもない戦闘シーンにびっくりした。こんなにバッチバチボッコボコにやり合うなんて聞いてない。心の準備がいる。もう誰にも死んで欲しくない。もう中禪寺洲齋に悲しい顔をさせたくない。又市の理想を、目的を、無下にしたくない。
東雲右近がもうとにかくカッコイイ。
誰かが誰かを守るために立ち回るシーンがカッコイイ。
藤兵衛がめちゃくちゃヒロインになる回やな、って冷静になって少し笑ってしまった。
ああもうダメだ…となって現れるの風見一学!!!
終始危うげで何を考えているのかどうしたいのか、不明瞭なままここまで来たけど、自分の立場と役割を認識した上での立ち回りに感動した。風見がどうするつもりなのか分かったのはきっと右近だけだったんじゃなかろうか…
「礼を言う」
の一言に、風見がどうしたかったのかが詰まってた気がする。
藤兵衛が守りたいものが徐々に明確になる描写が好き。

なんかさ、とある作品でもあるあるやと思うねんけど、
「よかったこれでもう解決だ誰も死ななくて済む」
って安堵した途端、緩んだ空気を切り裂くジョーカーが現れるのよね。
だから言ったじゃん!足元に転がった銃は避けるなり仕舞うなりしなきゃ!とか、俺は許せねえとか言うやつ出てくるんだって!
って。
このままちゃんちゃん♪って終わるわけないよね、そうだよね、京極先生アンタって人はそうなんだよ!!
って一旦本を閉じたのは私だけじゃないはず。

最後まで洲齋にそんな顔させないでよ!!!!!!!
と、思いました。
笑。

■空亡乃章:百物語

あまり多くは言いたくない(言えない)けど、藤兵衛が百介をみた結果があまりにも見透かしすぎていて、それを又市も知った上で遠くから眺めていたんだろうなという…上は洪水下は大火事これなーんだ?みたいな気持ちになった。宇夫方様が僅かに絡んで、やっと藤兵衛が又市と言葉を交わして、些末な関わりが百物語シリーズのどこかに何かが絡んでいる面白さが最後まであった。
そう遠くない未来に語られる物語としていつまでも生きる又市たちを支えるのは、菅丘李山、山岡百介なんよね。
生まれてくれてありがとう。
生きてくれてありがとう。
語ってくれてありがとう。
巷説百物語の世界にしか生きてはいない登場人物たちに、現実に生きる私が色んなものを与えてもらったなあと思った。
なので、ありがとうですね。

京極夏彦先生、ありがとうございます!

だらだらと長いことすみません。
全然足りませんが、思いついたら追記したりします。

以上です。

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