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自主的な学びを実現するためには、デジタル教科書がおすすめ:柳到亨先生(和歌山大学)

柳先生(和歌山大学)は、学生が主体的に学ぶためにアクティブラーニングを授業で取り入れています。デジタル教科書の特性を活かして、教員が重要なところにマーカーを引いたり、企業や商品に関するURLを書き込むことで、受講生が能動的に予習するようになったそうです。そのためのきめ細かい授業のデザインについて、詳しく教えてもらいました。



 このエッセイでは、和歌山大学経済学部の専門科目「マーケティング論」でのアクティブラーニングやデジタル教科書の活用についてお話ししたいと思います。

アクティブラーニング教育手法を導入した理由


 和歌山大学に赴任してまもなく経験したことがアクティブラーニングに取り組むきっかけになりました。当初は、私の授業も一般的な座学の形式で、受講生は90分間ずっと教員の話を聞くだけというスタイルで行なっていました。ある日、授業が終わったところで真面目な学生に学んだ内容(ポジショニングやコンセプト)について簡単な質問をしたところ、理解できていなかったのです。
 私の講義方法においてどこか間違いがあるのではないかと悩みました。そこで同僚教員に一冊の本を紹介してもらいました(ロバート・パイク(藤原るみ訳)『クリエイティブ・トレーニング・テクニック・ハンドブック』日本能率協会マネジメントセンター、2008年)。その本では、教育者の仕事は、研修内容をただこなすだけではなく、良いパフォーマンスが出せるように受講者に力をつけてもらうことであると書かれていました。その根拠として、私たちが記憶できることは、読んだことの10%、聞いたことの20%、見たことの30%、見て聞いたことの50%、行ったことの70%、行って行動したことの90%が示されていました。目から鱗が落ちた瞬間でした。

アクティブラーニングを前提にした講義の進め方


 これまでの一方的な講義形式の授業ではなく、受講生が能動的に考え、学習する教育法を実行するために、デジタル教科書を採用しました。以前は、受講生が自ら能動的に学びに向かうように予習を指示しましたが、指示通りにテキストを読んでくる受講生はほとんどいませんでした。しかしデジタル教科書を採用した後、事前学習をする受講生が増えました。デジタル教科書の大きなメリットは、教員により、テキストに書き込みやマーカーなどが容易に提供できる点であります。例えば、重要なところはマーカーを引いたり、企業活動や商品開発等に関連するURL情報や動画等を提供したりできます。

 まず、授業のはじめには、前回の授業の振り返りをします。グループワーク課題を2−3組で発表します(20分)。1週間前に学んだ内容を反復学習することで学習効率を高められると考えました。次に、教科書の内容を要約し、受講者が発表します(20分)。この発表内容に関する感想・疑問をグループデスカッションでまとめます(15分)。5−6人から構成された小グールプの受講生間で相互学習を促しました。小グールプでも分からなかったことは、Microsoft社のTEAMSにて投稿し、教員が返答する形式を取りました(10分)。一般的に日本人学生は恥ずかしがり屋であるため、挙手し、発言するより、文章で投稿する形式を好むと考えました。最後に、小グループで、理論を実践に応用する事例分析を行い、提出するようにしています(25分)。

学習効果と受講生の感想


 毎年、受講生の授業感想に基づいて授業改善をはかるようにしています。今年はデジタル教科書を採用して3年目になりますが、授業の教育方法に関するさまざまな声を聞くことが出来ました。その内容を一部紹介します。
授業に対する全体的な内容に関しましては、「受講生自身が主体になることにより、授業内容がよく記憶に残った」など、アクティブラーニングに関する積極的な意見を多く得ました。

マーケティング論はグループ課題発表、テキスト発表、グループワーク、とすべて受講生が主体となって取り組む講義であるため、内容が頭に入ってきやすく、毎回よく記憶に残る講義になっている。私はあまり集中力がなく長時間話を聞き続けることが苦手なので、この講義方式は私にとても合っていると感じる。

ただ先生のお話を聞くだけでなく、反転授業のような形式で自分たちでプレゼンテーションの発表をするというのは新鮮で、とても印象深いものでした。やはり、自分たちで一から準備して発表した範囲はとても記憶に残っており、理解度が高いように感じました。

 次に、予習・復習の使用場面でデジタル教科書がどのように使われたのかを紹介します。「教員が引いたマーカー線が特に学習に役に立った」という意見がたくさん寄せられました。教員が事前にテキストで追加情報を提供することにより、学習がより進めやすいことや、自主的な学びに活用できたことを受講生は挙げていました。

今回初めて電子教科書を利用しましたが、先生が重要な部分をあらかじめマーキングしてくださっているので、予習や復習がとてもやりやすいです。メリットはこの他にも、思い教科書を持ち運ばなくて済むこと、書き込みをしても後から消すことができること、教科書にURLを張り付けておくことができることが挙げられます。

スマホでも教科書を読むことができるため、通学しながら予習と復習ができるという部分や、重いテキストを持ってこなくていいという部分はメリットであると考えています。

受講生の自主的学びを実現するためには、デジタル教科書がおすすめ


 以上、アクティブラーニング教育手法を導入した理由や、講義の進め方を紹介しました。アクティブラーニングを通じて、受講生自身が学習において主体的になることにより、授業内容がより記憶に残ったという意見を多く得ました。とりわけ、デジタル教科書が予習・復習の場面でよく活用され、学習に効果的であることがわかりました。もちろん、アナログとは異なるデジタル固有の限界はあります。目の疲れ・集中力の低下、ログインの問題、ページ移動の所要時間などがありますが、デジタル教科書にかける受講生や教員の期待はますます高まっています。これからもデジタル教科書の活用方法を、より積極的に模索したいと思います。

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