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新しいデジタル教科書システムによる「学生が教科書作りに参加する授業」の設計:朝岡孝平先生(高知工科大学)

朝岡先生は、学生が自らの考えをクラスに共有しそれに教員が反応するというスタイルで、デジタル教科書を用いた授業を行ってきました。2023年度よりデジタル教科書のシステムが新システム(EDX UniText)に移行した後でも、このスタイルの授業を続けており、学生が主体的に参加できると高い評価を受けています。その具体的なアプローチについてわかりやすく説明してもらいました。


はじめに

 私は2021年度から『1からの消費者行動 第2版』のデジタル版を用いて授業を実施してきました。その授業の様子も以前noteにまとめています
 私にとってのデジタル教科書の最大の魅力は、学生が教科書作りに参加できる点でした。つまり、教員が教科書に補足情報を書き込んで共有できるだけではなく、学生も自ら考えたことを教科書に書き込み、他の学生や教員に共有できるということです。授業中に挙手して発言したりしなくても、自分の考えを共有し、教員や他の学生から反応をもらえたりするシステムは、自分が学生のときにあったらきっと楽しんで使っていただろうと思ったのです。そのため、授業も学生のコメントを拾い上げることを中心に組み立てていました。
 2023年度よりデジタル教科書のシステムが新システム(EDX UniText)に移行し、コメントの共有は教員のみが行えることになりました。上記の点にデジタル教科書を使用する意義を感じていた私にとって、これは非常に大きな変更でした。
 今回のnoteでは、そのような変更の中で、これまで実施してきた、学生が自らの考えをクラスに共有しそれに教員が反応するというスタイルをいかにして維持するのかという工夫について記していきたいと思います。

授業の概要

 新システムを用いた授業は本note執筆時点で2回行っています。本務校の高知工科大学での授業と一橋大学で非常勤講師として行った授業です。履修者数(高知工科大学が50名程度、一橋大学が300名程度)と授業形態(高知工科大学が対面、一橋大学がオンデマンド動画)に違いはありますが、基本的な設計は同じで、以下の通りです。

2種類の課題

  • 予習コメント

    • 該当章を予習し、教科書内の語句や文章に対して、コメント(具体例への理論の適用や疑問点等)を考え、授業前日の午前中までにLMSに提出

  • 授業内課題(フィードバックシート)

    • 授業中に問題(説明した理論や概念について具体例を自分で考え分析させる)を出題し、それに対する回答を授業後にLMSに提出。その他、質問や感想等も自由に記述可

基本的な授業の進め方

  • 授業準備:予習コメントの確認・一部を教科書へ転記、補足内容の教科書への書き込み、提出された授業内課題の確認・取り上げる回答や質問の選定

  • 授業時:授業内課題へのフィードバック、予習コメントに触れながら教科書の説明

 特にデジタル教科書に関わってくるのは「予習課題」の部分です。旧システムでは直接学生にデジタル教科書に書き込んでもらい、事後的にLMS上で自身の書いたコメントを申告してもらっていましたが、学生が直接コメント共有ができなくなった今年度からは、事前にLMS上でコメントを提出してもらい、いくつかのコメントを私が授業前にデジタル教科書に転記しておき、それを授業で取り上げるというやり方にしました。
予習コメントのフォーマットは以下の通りです。

  • ニックネーム(電子教科書に転記して共有する際に使用)

  • 該当箇所(ページ、行、語句や文章)

  • コメント本文(100字以上)

  • その他の箇所へのコメント(記入自由、採点対象外)

 ニックネームに関しては、それぞれの学生が完全に匿名ではなく「名前」を持ってコメントすることにより、より「教科書・授業作りに参加している」感覚が得られると考え採用しています。また、旧システムでは「○○さんのコメントについて、私の考えは…」といったコミュニケーションや「○○さんのコメントがいつも鋭くて勉強になる」等の感想が出てくるなど、名前があることによりコミュニケーションが促されたり互いを認知したりし、それがまたコメントをするモチベーションに繋がっていたように感じたため、ニックネームは必須だと考えました。
 コメント本文に字数の下限を設けたのは、単なる感想以上の、ある程度中身のあるコメントをしてもらうためです。ただし、旧システムで学生がコメントを自由に共有していた際には、字数は短いが重要な質問や、雑談的なコメントも書き込まれており、それらも授業の重要な要素だと考えていたため、「その他の箇所へのコメント」欄も設け、そこにはメインの100字以上のコメント以外に共有したいコメントを自由に書いて良いことにしました。

コメントを転記したデジタル教科書

 上はデジタル教科書にコメントを転記したもののスクリーンショットです。青枠は学生のコメント、赤枠は教員のコメントとして区別しています。また上の画像では撮影のためコメントを3件開いていますが、普段はコメントを折りたたんでおり、読み上げるときのみ開くという運用をしていました。

授業の成果と今後の課題

 事前に予習コメントを回収し、それを教員が教科書に転記して共有する、というやり方によって、学生のコメントを主体として教科書・授業を作るということはある程度実現できたと考えています。
 感想としても、「予習コメントやフィードバックシートは今回は授業に使われているかなと毎回楽しみにし、ラジオのような感覚でした」「対面授業では100%発言はしないであろう私が授業に関われた気分になれたのがすごく嬉しかったです」「(他の学生の)示唆に富むコメントを読むのも大変刺激になっており、授業を受けるモチベーションとなっておりました」といったものが寄せられ、冒頭に書いたようなデジタル教科書の魅力が学生にも伝わったと思います。
 一方で課題もあります。以前の私のnote記事では、学生間で質問に答え合うなどのコミュニケーションが教科書上で行われていたことに触れましたが、学生がコメントを自由に共有できない新システムでは、そういったコミュニケーションが発生しないということです。こういった学生間のコミュニケーションは、学生の予習や授業参加のモチベーションにも大きく関わっていたと考えています。新システムでもこういったことを実現する工夫はないかを模索するとともに、こういった方向でのシステムの改善の提言等も行っていきたいと思います。


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