麻道日記④
留置2日目。
檻に戻される前に、小さな本棚があり、皆そこに群がっていた。俺もそれに付いていくと、漫画や雑誌、文庫本が並べられていた。
昨日じいさんが言っていたことだと分かった。
結構冊数は豊富で、細かいタイトルは覚えていないが、「彼岸島」が全巻揃っていたことと東野圭吾の本があったことだけ覚えている。後の話になるが、檻の皆で、一人ずつ同じタイトルの漫画を借りていき、3人で午前中に6巻読むという贅沢も覚えていくことになる。
俺は午前中に初めての取り調べを受けることになる。留置所がある1階から2階の取調室へ移動する。
その時に初めて手錠がはめられた。その重さは俺のこれまでの人生のそれだった。
あの白髪まじりの刑事が、部屋に入ってきた。ドアは開けられたままだった。
刑事はずっしりとしたファイルを持って、日誌のように何かを書き始めた。
「刑事さん、俺喋らないですよ。」
俺は震える声で言った。とりあえず国選弁護士が来るまで何も喋らないと、からからの喉で伝えた。
すると刑事は
「なあ、天田。こっちは全部わかってるんだぞ。渡辺は知ってるな。浅川も知ってるよな。」
と、俺の目を睨んで言った。
「やり取りは全部押さえてある。お前の携帯もこれから調べる、な、もう喋れ。」
と、ふんぞり返った。
俺はそれが証拠になりうるのか、そもそもやり取りは残っているのか考えた。が、答えは出ない。とりあえず今日は何もしゃべらない、そう決めた。
その俺の子供じみた空気を察したのか、刑事は名前や住所や家族関係を聞いてきた。事務的に答えて、その日はそれで終わった。
留置に入る前に取られた尿検査の結果はいつ出るのかときいたら、お前はそんなこと気にせんでいい、と刑事はニヤリと笑った。
俺はまた階下に戻され、檻に入れられた。すぐにじいさんとヤクザに相談した。
詳しい内容は話さなかったが、薬物関係は現物がなくてもアげられるのかときいたら、ヤクザのおじさんが、腕を組みながら、うーん、内容によるけど駄目なんじゃないか?
と俺にトドメを刺した。じいさんも、でも弁当はつくべ。と、頭をさすりながら答えた。
弁当とは執行猶予のことだと分かったのはだいぶ先の話だ。
俺は完全に心が折れた。もうアウトだと思った。早く弁護士に会いたかった。誰かに何かを聴いてもらいたかった。
そしてその夜、だいぶ遅い時間になって弁護士がきた。
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