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「世界はジャズを求めてる」2021年8月第2週(8月12日)放送「真夏のジャズ・フェス特集」スクリプト(出演 池上信次)#鎌倉FM

Spotifyのプレイリストです。今回はサブスクにない曲が多いのでオンエア今曲の半分だけです。

M-0 (番組テーマ曲)世界は愛を求めてる/スタン・ゲッツ

「世界はジャズを求めてる」。

この番組は、週替わりのパーソナリティがジャズを中心とした様々な音楽とおしゃべりをお送りします。毎月第2週の担当は、ジャズ書籍編集者のワタクシ池上信次です。ワタクシの回は「20世紀ジャズ再発見」というタイトルで、毎回テーマを決めて特集を組んでお送りします。

今回は「真夏のジャズ・フェスティヴァル」というテーマで、放送でジャズ・フェス気分を味わっていただこうと思います。

夏が来れば思い出す……のは、現在だいたい50代以上のジャズ・ファンにとっては、まず第一に上がるのが「ジャズ・フェスティヴァル」ではないでしょうか。近年はめっきり少なくなってしまいましたが、全国各地の広い野外会場で行なわれたジャズ・フェスティヴァルは、ジャズ・ファンでなくてもまさに夏の風物詩でした。毎年その開催を楽しみにしていたものです。

まずは1曲、1979年の「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」での「ザ・V.S.O.P.クインテット」のライヴ盤から「ワン・オブ・アナザー・カインド」をどうぞ。

M-1 「ワン・オブ・アナザー・カインド」ザ・V.S.O.P.クインテット

「ザ・V.S.O.P.クインテット」のライヴ盤から「ワン・オブ・アナザー・カインド」でした。メンバーは、フレディ・ハバード(トランペット)、ウェイン・ショーター(テナー&ソプラノ・サックス)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)。名前は「Very Special One-time Performance」の意味で、1976年のニューポート・ジャズ・フェスでのハンコックのコンサートのために「1回限り」で企画されたものでした。もともとは1960年代マイルス・デイヴィス・クインテット再結成の予定でしたが、マイルスのドタキャンでこのメンバーになったのですが、それがかえって好評で、活動が継続されました。この年の来日は前年に続く2度目で、当時はたいへんな人気でした。

この演奏がレコーディングされた1979年7月26日の夜は、今でいうゲリラ豪雨で会場はたいへんな大雨で、今の演奏もよく聞くと雨の音も聞こえてきます。ミュージシャンもお客さんもずぶ濡れ。リスナーの方のなかには当時会場でずぶ濡れになった方もいるのではないでしょうか。そんな状況がこのすごい演奏をもたらしたということで、この「大雨」は伝説として語り継がれています。ウェインのソロでフェイドアウトしてしまいましたが、演奏はこの後も長く続いて20分を超える熱演となりました。この演奏が収録されているアルバムはその名も『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ』ですが、再発売になった現在は『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説』と改題されています。

ジャズ・フェスといえば、このような「特別企画」がひとつの看板でもありました。つづいては、同じライヴ・アンダー・ザ・スカイで、ジョン・コルトレーンの没後20年を機に、1987年に行われた特別企画セッション「トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン」から1曲、「ミスターPC」を聴いてください。メンバーはウェイン・ショーターとデイヴ・リーブマンのソプラノ・サックス、リッチー・バイラークのピアノ、エディ・ゴメスのベース、ジャック・ディジョネットのドラムスです。

M-2「ミスターPC」トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン

「ミスターPC」でした。まさに鬼気迫る演奏で、体温が上がっちゃいますね。最初のソロがデイヴ・リーブマン、続いてがウェイン・ショーター。リーブマンもショーターも「コルトレーン派」といわれるのですが、全く違うアプローチというのがじつにおもしろいところです。このふたりの共演は、これ以前も以後もレコードとしてはありませんから、まさにジャズ・フェス的な企画だったと思います。この音源は『トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン』というCDからですが、同じ内容で映像作品でも残されています。(CDは廃盤、DVDの方が安価ですね)

日本のジャズ・フェス全盛期といえるのは1970年代の後半から90年代初頭あたりで、もっとも有名なものは、1977~92年に東京と全国の大都市で行なわれていた「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」ですね。そして1982~94年、間を置いて98~2003年に長野県の斑尾高原で行われていた「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾」、そして山中湖畔での「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」、これは1986~96年、会場を移して2002~04年の開催ですが、この3つといったところでしょうか。いずれも広い野外会場で、ジャズ・フェスならではのスペシャル・プログラムが組まれて、毎回多くのファンが詰め掛けていました。

小さなジャズ・クラブで聞くジャズもいいものですが、広い会場で、ジャズ・フェス向けとでもいいましょうか、大音量で聞くジャズもまた違った楽しみがあると思います。

次は日本のライヴではありませんが、「これぞ、ジャズ・フェス気分」を味わえる演奏をどうぞ。パット・メセニー・グループで「サード・ウィンド」。

M-3「サード・ウィンド」パット・メセニー・グループ

パット・メセニー・グループの「サード・ウィンド」でした。ギターとギター・シンセサイザーがパット・メセニー、キーボードがライル・メイズ、ベースがスティーヴ・ロドビー。ドラムスがポール・ワーティコ、パーカッションがアルマンド・マールサル、ヴォイスやアコースティック・ギターやパーカッションがペドロ・アスナールでした。

この演奏は90年から91年のヨーロッパツアーのライヴCD『ザ・ロード・トゥ・ユー』からですが、日本では、このメンバーでその翌年92年のライヴ・アンダー・ザ・スカイに来日して、この曲の演奏も聞かせてくれました。この曲は、途中のピックアップ・ソロや、終盤のギターシンセのソロなど大技の見せ場も満載で、その一方一緒にメロディをうたえたりと、ジャズ・フェス向けの曲って感じがしますよね。

ジャズ・フェスは、ときには新しい試みのお披露目の場でもありまして、ジャズ・フェスでなければ見れなかったもの、という演奏もたくさんあります。そんななかで私自身印象的だったのは、ハービー・ハンコックのロックイット・バンドですね。1984年のライヴ・アンダーザ・スカイに登場したのですが、いまではなんでもなくなってしまいましたが、ターンテーブルのスクラッチにはほんとうに驚きました。まあジャズ・フェスの音楽は、そういった「時代の象徴」でもあるんですね。客席でみんな立ち上がって踊ってたのも「時代」ですよね。

「ロックイット」は今聞くとさすがにちょっと古い感じもありますが、ハンコックはちゃんとアレンジをアップデートしてライヴで演奏していました。というわけで、1984年のジャズ・フェスを思い出しながら、2002年の再演ライヴの「ロックイット」を聴いてください。

M-4「ロックイット」ハービー・ハンコック

ハービー・ハンコックの「ロックイット」でした。メンバーはハンコックのキーボード、ウォレス・ルーニーのトランペット、ダーレル・ディアスのキーボード、マシュー・ギャリソンのベース、テリリン・キャリントンのドラムス、DJ ディスクのターンテーブルでした。

さて、次は実際に日本で行われたジャズ・フェスのライヴ盤から。これもジャズ・フェスならではの特別企画だったといっていいものだと思います。ジャコ・パストリアスのビッグバンドです。1982年、東京、横浜、大阪で行なわれた「オーレックス・ジャズ・フェスティヴァル」にジャコは錚々たる腕利きを揃えたビッグバンドを率いて登場しました。そのライヴ盤『トゥインズ』から「インヴィテーション」を聴いてください。

M-5「インヴィテーション」ジャコ・パストリアス・ビッグバンド

ジャコ・パストリアス・ビッグバンドで「インヴィテーション」でした。この曲は、古いジャズ・スタンダードですが、斬新なアレンジでまったく新しい曲に聞こえます。リーダーでベースがジャコ・パストリアス。アレンジはボブ・ミンツァー。トランペットのソロはランディ・ブレッカーです。このオーレックス・ジャズ・フェスティヴァルの東京公演の会場は、日本武道館でした。今の演奏はその武道館でのテイクです。じつは私はこの会場でこの演奏を聴いていたんですけど、武道館は超満員でした。なにしろ私の席は最上階の一番後ろだったんです。そんな席に座れる機会もなかなかないと思いますが、豆粒のようなジャコでしたが、すごい存在感がありましたね。

今日は「真夏のジャズ・フェスティヴァル」というテーマでお送りしていますが、お楽しみいただけましたでしょうか。最後はデヴィッド・サンボーンで、今日のジャズ・フェスは終演です。曲は「ラン・フォー・カヴァー」。1984年のスタジオ・ライヴ『ストレイト・トウ・ザ・ハート』から。メンバーはデヴィッド・サンボーンのアルト・サックス。ハイラム・ブロックのギター、ドン・グロルニックのキーボード、マーカス・ミラーのベース、バディ・ウィリアムスのドラムスです。

サンボーンとマーカスのコンビでの来日は80年代からたびたびありましたが、ジャズ・フェスでは92年のライヴ・アンダー・ザ・スカイで、マーカス・ミラー・プロジェクト・フィーチャリング・デヴィッド・サンボーンで出演しています。

M-6「ラン・フォー・カヴァー」デヴィッド・サンボーン

世界はジャズを求めてる。
今週のお相手は、ジャズ書籍編集者の池上信次でした。では、また。



*「世界はジャズを求めてる」は、アプリやウェブサイトを使って世界のどこでも聞けます。毎週木曜午後8時から1時間、再放送は毎週日曜お昼の12時から1時間です。

鎌倉FM
海風が吹き抜けるスタジオから地元の情報をお届けする街のラジオです。鎌倉時間をお楽しみください♪♪

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