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「世界はジャズを求めてる」2021年9月第2週(9月9日)放送「生誕70年のジャコ・パストリアス特集」スクリプト(出演 池上信次)#鎌倉FM

オンエアした楽曲のSpotifyのプレイリストです。どうぞ聴きながら本文をお読みください。

M-0 (番組テーマ曲)世界は愛を求めてる/スタン・ゲッツ

「世界はジャズを求めてる」。
この番組は、週替わりのパーソナリティがJazzを中心とした様々な音楽とおしゃべりをお送りします。毎月第2週の担当は、ジャズ書籍編集者のワタクシ池上信次です。ワタクシの回は「20世紀ジャズ再発見」というタイトルで、毎回テーマを決めて特集を組んでお送りします。

今回の特集は、ベーシストのジャコ・パストリアス。ジャコは1951年生まれ。1987年に35歳で死去しました。生きていれば今年の12月で70歳になります。あまりにも早い死ですが、生きていたらいったいどんな活躍をしていたでしょうか。今日は生誕70年を迎えるジャコの足跡をさまざまな演奏から聴いていきます。

70年代半ばから活動を始めたジャコは、1976年に初リーダー・アルバム『ジャコ・パストリアスの肖像』をリリースするやいなや、そのかつてないベースのスタイルで大きな注目を集めます。そしてその後の活躍も目覚しく、活動期間はわずか10数年でしたが、まさにジャズ・ベースの概念を根底から変えてしまったといっても過言ではないほどの影響を残しました。

まずは1曲、その初リーダー・アルバム『ジャコ・パストリアスの肖像』の冒頭に収録されている「ドナ・リー」を聴いてください。

M-1「ドナ・リー」/ジャコ・パストリアス

「ドナ・リー」でした。1975年録音で76年発表。メンバーはジャコのベースとドン・アライアスのコンガ。今ではこの曲は、「ベースの上級者課題曲」みたいな感じに思っている人もいるかもしれませんが、このジャコの演奏がなければそんな認識にはならなかったはずです。当時は、「ドナ・リー」という難曲を、「アドリブまでベースで弾く」という発想からしてたいへん衝撃的なことでした。こういったソロは管楽器がやることであって、ベースで演奏するというのは、まあ、なかったわけではないんですが、このように完成された演奏はなかったといっていいでしょう。最初からジャコは特別にすごかったんですが、やっぱり今聴いてもすごいですよね。

そしてこのレコーディング直後、75年12月、ジャコは以前から付き合いのあった、ギタリストのファースト・アルバムのレコーディングに参加します。ギタリストの名はパット・メセニー。次はメセニーのファースト・アルバム『ブライト・サイズ・ライフ』から、タイトル曲「ブライト・サイズ・ライフ」を聴いてください。

M-2「ブライト・サイズ・ライフ」パット・メセニー

「ブライト・サイズ・ライフ」でした。メンバーはパット・メセニーのギター、ジャコのベース、ボブ・モーゼスのドラムスです。この後のメセニーの活躍ぶりは説明するまでもありませんが、それまでのギター・トリオとはまるで違う、空間感がありますよね。

そして、この同時期にジャコは、当時のジャズ界をリードするグループのひとつであるウェザー・リポートに加入します。ウェザー・リポートのリーダーであるジョー・ザヴィヌルに「オレは世界一のベーシストだ」とデモテープを持って売り込んだという伝説は、真偽のほどはともかく、有名ですね。そしてジャコはウェザー・リポートの76年リリースのアルバム『ブラック・マーケット』のレコーディングから参加することになります。で、演奏だけでなく、入ったばかりだというのに楽曲まで提供しているのです。次は、その『ブラック・マーケット』にジャコが提供した楽曲、もちろん演奏もしています「バーバリー・コースト」を聴いてください。

M-3「バーバリー・コースト」ウェザー・リポート

ウェザー・リポートで「バーバリー・コースト」でした。メンバーはジョー・ザヴィヌルのキーボード、ウェイン・ショーターのソプラノ・サックス、ジャコのベース、チェスター・トンプソンのドラムス、ドン・アライアスのパーカッションです。まだまだキャリア的には新人ベーシストではありましたが、このウェザー・リポート加入でジャコは大きな注目と人気を集め、またグループにも大きな推進力を与えました。

えー、楽器についてちょっと説明すると、ジャコが使っているのはフレットレス・エレクトリック・ベース。ふつうエレクトリック・ベースのには、弦を押さえて音程をとるためのフレットと呼ばれる金属の部品がありますが、ジャコの使用楽器にはありません。コントラバスのようにツルツルのネックです。これも現在では珍しくありませんが、これが広まったのもジャコの影響がとても大きいといえると思います。当時はそのサウンドはじつに新しいものでした。

次はウェザー・リポートの77年リリースのアルバム『ヘヴィ・ウェザー』から「ハヴォナ」を聴いてください。作曲はジャコです。

M-4「ハヴォナ」ウェザー・リポート

ウェザー・リポートで「ハヴォナ」でした。メンバーはジョー・ザヴィヌルのキーボード、ウェイン・ショーターのソプラノ・サックス、ジャコのベース、アレッ クス・アクーニャのドラムス。ベース・ラインもソロもじつに斬新ですよね。

さて、これらWR以外のジャコの活動で外せないのがシンガー、ジョニ・ミッチェルとのコラボレーションです。ジャコはジョニと、ウェザー・リポート加入と同じ時期、76年からたびたび共演をしています。たびたびというより、76年リリースのアルバム『逃避行/原題:ヒジュラ』から連続して4枚ものアルバムに参加していて、ジャズ聴かない方にはジョニ・ミッチェルのグループのベーシストと思われていてもおかしくないくらい音楽的貢献も大きなものになっているです。

では、その『逃避行』から「黒いからす/原題:ブラック・クロウ」を聴いてください。

M-5「黒いからす(ブラック・クロウ)」ジョニ・ミッチェル

ジョニ・ミッチェルの「黒いからす(ブラック・クロウ)」でした。ジョニのヴォーカルとリズム・ギター、ジャコのベース、そしてエレクトリック・ギターがラリー・カールトンでした。

次もジョニ・ミッチェルでもう1曲。1979年発表のアルバム『ミンガス』から「グッド・バイ・ポークパイ・ハット」を聴いてください。

M-6「グッド・バイ・ポークパイ・ハット」ジョニ・ミッチェル

ジョニ・ミッチェルの「グッド・バイ・ポークパイ・ハット」でした。アルバム・タイトルの『ミンガス』はもちろん、ジャズ・ベースの巨匠チャールズ・ミンガスのこと。これはミンガスが作曲した曲で、もともと歌詞はなかったものにジョニが歌詞をつけたものです。ジョニのヴォーカル、ジャコのベース、ウェイン・ショーターのソプラノ・サックス、ハービー・ハンコックのエレクトリック・ピアノ、ピーター・アースキンのドラムスです。ピーター・アースキンはこのあとウェザー・リポートに入るので、メンバーがほとんどウェザー・リポートですね。ジョー・ザヴィヌルの代わりにハービー・ハンコックというのがむしろすごい感じもありますが。

ちなみに、このアルバムの録音後のジョニのツアーは、ジャコ、マイケル・ブレッカー、パット・メセニー、ライル・メイズ、ドン・アライアスという、ジャズのアルバムでは例がないほどのオールスター・メンバーで、その演奏はライヴ・アルバム『シャドウズ・アンド・ライト』で聴くことができます。

またジャコは、数は多くないのですが、さまざまなレコーディング・セッションにも参加しました。珍しいところでは、フランスのポップシンガー、ミシェル・ポルナレフのレコーディングなんてのもありますね。今日はかけませんけど。

次はレコーディング・セッション・ワークから1曲、ブラジル出身のシンガー、フローラ・プリムの「ラス・オラス 」を聴いてください。作曲はジャコです。

M-7「ラス・オラス」フローラ・プリム

フローラ・プリムの「ラス・オラス」でした。収録アルバムはフローラの『エヴリデイ・エヴリナイト』。ジャコはWR在籍中の1978年の録音です。メンバーは、フローラのヴォーカル、ジャコのベース、ハービー・ハンコックのピアノ、アイアート・モレイラのドラムスです。

えー、今の曲に参加していたハービー・ハンコックですが、ジャコとは相性がいいのか、先ほどのジョニのアルバムでも共演していました。そもそも、ハンコックはジャコのファースト・アルバムに何曲も参加していましたから、最初からジャコに注目していたのでしょう。ですから、ハンコックのリーダー・セッションでもいくつか共演があります。次はその中から1980年リリースのアルバム『ミスター・ハンズ』から、「4AM」を聴いてください。

M-8「4AM」ハービー・ハンコック

ハービー・ハンコックで「4AM」でした。メンバーはハンコックのエレピとシンセサイザー、ジャコのベース、ハーヴェイ・メイソンのドラムスです。作曲はハンコック。明らかにジャコのスタイルを意識して書かれたものですね。ジャコらしさ全開です。

そして、ジャコはウェザー・リポート在籍中の81年に2作目のソロ・アルバム『ワード・オブ・マウス』を発表します。そしてその翌年(82年)にWRを脱退し、ソロ活動を始めます。このアルバムはジャコの幅広い音楽性が表れていますが、興味ぶかいのが、ジャコが作曲してWRで演奏した「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」の再演です。ウェザー・リポートではジョー・ザヴィヌルのシンセサイザーが使われていたものを、ジャコは「生」オーケストラで演奏したのです。では、そのジャコ版「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」を聴いてください。

M-9「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」ジャコ・パストリアス

ジャコのソロ・アルバム『ワード・オブ・マウス』から「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」でした。ハーモニカのソロはトゥーツ・シールマンスです。ジャコは作曲家、編曲家としても素晴らしいですね。

卓越した技術と斬新なアイデアで、わずか10数年でジャズ・ベースの概念を変えてしまったジャコ・パストリアス。しかし、健康状態、精神状態などさまざまな悪い事情が重なっての不慮の死、35歳での早すぎる死去はほんとうに残念です。生きていれば今年まだ70歳。もっと演奏を聴きたかったですね。

では最後はジャコ作曲でもう1曲。曲名は「リバティ・シティ」。ジャコ・パストリアス・ビッグバンドのライヴ演奏でお聴きください。

M-10「リバティ・シティ」ジャコ・パストリアス

世界はジャズを求めてる。
今週のお相手は、ジャズ書籍編集者のイケガミシンジでした。では、また。


*「世界はジャズを求めてる」は、アプリやウェブサイトを使って世界のどこでも聞けます。毎週木曜午後8時から1時間、再放送は毎週日曜お昼の12時から1時間です。

鎌倉FM
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