中学生の憂鬱

社会人生活が長くなるにつれて、憂鬱なことが増えている。
でも、大人だけが憂鬱を抱えているわけじゃない。
中学の頃の僕も憂鬱を抱えていた。

中学生の僕は何となく塾に通っていた。

通っていた塾は、マンションの一室でおじさん先生が一人で経営している個別指導塾。
勉強することはそんなに嫌じゃなくて、環境が嫌だった。
その塾は全てがめちゃくちゃ不潔だった。
潔癖とまではいかなくても、きれい好きな僕にはとっても苦痛だった。

部屋はホコリっぽくて、ブックオフのシールが貼ってある日焼けした本がそこら中で山積みになっていた。
鼻炎持ちの僕はその部屋に入るたびに鼻水が止まらなくなるので、マスクはコロナなんて存在しなかった世界でも欠かせなかった。

そして、部屋がめちゃくちゃ臭い。
教室はマンションの一階にあったのだが、マンションのエントランスは教室の臭いに侵されていた。
そして、先生もめちゃくちゃ臭かった。
体臭も、口臭も。

伸びきったボサボサの髪の毛。黄ばみ、濁った汚水色の極厚メガネ。黄色いのびのびの爪。
先生が頭を搔けば、白い何かが宙に舞う。
耐えられない。

ただ、これだけディスっているが先生のことは決して嫌いではなく、むしろ人間的な部分などは好いていた。
コミュニケーションが得意なタイプではないが、不器用なりに一生懸命、丁寧に接してくれる。そんな先生だった。

そんな中で一番嫌だったのが、休憩時間。
先生はエントランスの自販機でいつもジュースを買ってくれた。
それを半分こする。
先生はマグカップを持ってきて、そこにジュースを半分注いで僕にくれる。
マグカップは一目見ただけで、長年使ったものであるとわかる。洗ってるのか心配になるし、洗ってたとしても使いたいものではなかった。
それが気持ち悪くて仕方なかった。
ただ、先生の優しさを無下にできないし、心を傷つける訳にもいかない。
そう思い、鳥肌を立てながらいつも一気飲みで飲んでいた。
炭酸なのに。

断ることのできない、鳥肌ジュースが何よりも憂鬱だった。

母の友人の娘が、同じ塾に通うことになった。
それからすぐに先生の様子が変わった。
いつもと同じ休憩時間。
ジュースを買ってきてくれる先生。
例の汚いマグカップにジュースを注ぐ先生。
でも、僕に渡してきたのは缶のほう。
不思議に思っていると、先生は笑いつついう。
「○○さんに、このコップ汚いから嫌だって言われちゃって。ごめんね。」

一人の女子中学生によって、一つの憂鬱が解消された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?