ハッピーターンで君を思い出す
「お菓子のハッピーターンってあるじゃん」
「あぁ、あの粉がかかってるお菓子な」
「そうそう、この前コンビニでハッピーターンみかけてさ、昔付き合ってた彼女のこと思い出したんだよ。昔よく二人で食べたなあって」
「あぁ、何かをみて、ふと昔の思い出とか、人の顔が浮かぶことってあるよなぁ」
「お前はさ、これ見たら、この人を思い出す、みたいなのってある?」
「そうだなぁ……。あっ、この前、雨の日に散歩してたら、青い紫陽花が雨に濡れてたんだよ。それを見たときは昔の彼女を思い出したなぁ。雨の日の散歩が好きで、悲しそうに笑う人だった……」
「うわ。なんか詩的でいいな。ハッピーターンに罪はないけど、なんかしょぼく感じてしまうな」
「あとは……。あっそうだ。昼間にやけにくっきりと見える月。空を見上げて、昼間に月を見つけたときは、離れ離れになってしまった幼馴染を思い出すよ」
「へ、へぇ。幼馴染なんていたんだ。これまたオシャレな」
「あとは、波の音。夕焼けの中、裸足で波打ち際に立ってさ。打ち寄せる波が俺の足元の砂をさらっていくんだよ。その足の感触で、また会おうと約束した友のことを思い出すよ」
「……」
「あとは、真夜中の非常階段。じじっ。じじっ。って小さく音をたてて点滅する非常口の緑色のサインは、思いを伝えられなかったブロンドの彼女のことを——」
「うそつけ! お前俺のハッピーターンをしょぼく感じさせたいだけだろ!」
「あとは、あれかな。ゴミの日」
「ゴミの日?」
「ゴミの日に寝過ごして、朝だせなかったゴミ袋を見るとさ」
「うん」
「お前のことを思い出すよ」
「ふざけんな」
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