五感で祈る
念願の日本天然木材のみで制作された納骨壇をお寺に納めることができた。
今まで何千件という葬儀・お墓に関する相談を経験し、さまざまな霊園やお寺に足を運んで来た。
その中で考えてきたこと。
大切な人を弔うために、相応しい弔いの場とは?
新しいこと?
斬新なこと?
豪華なこと?
どれもしっくりこない。
かといってよく見られるアルミの壇はあまりにも無機質で自分の中で祈りの場に相応しいとは思えない。
実際に契約した方も、アルミ製しかないからアルミ製の納骨壇を契約しているだけであって、「これがいい!」と思っている方は少ない印象を受けていただけに、お寺にあるからこそ意味がある祈りの場を作りたい。
その際に考えるべきは、お参りに来る方がお参りに集中できることの重要性。
お寺に事務所がある私達だから感じる、お墓参りに来る方々が求めている空間。
それは、
癒し
落ち着き
静寂
ではないか。
安心して亡き人を想える、祈れる場にそれらは欠かせない。
その場合に相応しいのはそのお寺に馴染む壇であることが最重要だろう。
壇がハイテクだったり華美だったり豪華だったところで、肝心のお寺の空気感に馴染んでいなければ違和感が勝って落ち着いて祈れなくなってしまう。
そう考えていた私なりの答え。
それが、日本の木でできた納骨壇。
難航した業者選定
木の納骨壇と決めてから、社内でも理想を話し合い、いろんな業者をリサーチしたり、面談を重ねたものの難航。
小さな町のお寺でも支払える金額かつ、日本製木材で丁寧に製作してくださる会社になかなか出会えない。
そんな折に、法隆寺の宝物箱を何点もオーダーメイドで制作された日本木材を専門に扱う職人さんに出会った。
木を愛していて、作品を納めた後にどんな風に使われるか理解するまで制作しないという気概。
売り手にも買い手を選ぶ権利があり、作ったものを大切にしてくれる人にしか提供したくないという誇り。
ものすごく高いレベルでものづくりをされていると話してすぐ分かり、私が何がしたいのか、今のお寺の問題、どんな祈りの場が必要なのかをお話させていただいた。
その結果、
「自分や自分の母が眠るならこういうものが良いというものを作ってみます。」
と言っていただき、とても嬉しかった。
それからしばらくして、「試作品ができました」と電話が鳴った。
早速、試作品を見に伺うと、なんとも素朴であたたかな納骨壇が出来上がっていた。
お寺によく使われている杉、ケヤキ、ヒノキなどを中心にお寺に馴染む木材が選定されたうえで各パーツに相応しい木を使用して作られたその納骨壇を見て「まさにこれだ!」と感じてとても嬉しかった。
「自分の遺骨も納めたい」納骨壇なのか
その頃ちょうど、「納骨壇を墓守がいない檀家さんのために設けたい」とある住職からご相談いただいていた。
お手伝いするにあたって住職にお話したことがある。
「お寺の住職と寺族には代々のお墓があるから自分が入ることがないだけに想像しにくいかもしれない。
けれども、檀家さんにとって大切な方の遺骨を預ける場所。
もし住職が自分や自分の家族の遺骨を納めるなら?を考えた時にこれなら自信を持って提供できるという壇を設けることをおすすめしたい。」
そんな私の考えに住職も賛同してくださり、とんとん拍子で話が進み、納骨壇の企画や事業戦略から販売支援や管理方法支援まですべてお手伝いすることに。
町のお寺の場合、納骨壇のために新たな建物を建てることはおすすめしてないため、お寺の空きスペースを使用することを住職に提案。
住職から企画への了解を得て、まずは檀家総代さまたちから理解を得るところから。
檀家総代会にお伺いして住職と説明し、質疑応答や意見交換を2時間ほどさせていただき、満場一致でお手伝いすることを許していただけた。
職人さんに空きスペースの寸法を測ってもらい、完全オーダーメイドで制作を開始。
完成した納骨壇を職人さんたちがはるばる運んで最後の仕上げをお寺でしてくださった。
そうして、日本で唯一と言ってもいい、日本天然木材のみでできた納骨壇が完成。
完成した状態をみて壇がお寺にあまりにもしっくりと馴染んでいることに私も住職も驚いた。
「何年も前からここにあった?」
と住職が何度もおっしゃっていたのが印象的だった。
五感で感じて祈る
お寺にふさわしい祈りの場。
そう考えて、ご相談いただいたお寺の空きスペースの建物の風合いや色味、地域や檀信徒さまの状況を伺ってサイズ感や納骨やお参りルールを決めたうえで無事に納骨壇が納められた。
ここから、まだまだやることはあるけれど、すでに檀家さんたちから「昔からここにあるみたい!素晴らしい出来栄え!」と喜ばれているそうで本当に嬉しい。
木の納骨壇の完成を体験して感じたことは
木の香り
木のあたたかみのある手触り
木ならではのことんという音
木目の素朴さ
など、五感で感じる価値がたくさんあるということ。
その一つ一つに癒しや穏やかさを抱くことができる。
そして年月を重ねて、化学製品のように劣化するのではなく、木はよりその場に馴染み、味が出てくるから、経年変化も楽しめる。
仏様が見守る中、木のぬくもりに包まれながら大切な人を想って祈る。
そんな空間を今後も増やしていくことで、弔いの価値を多くの方に感じていただきたい。
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