【せいゆうろうどくかい】

「お母さん、今日もあの図書館でお話しが聞きたい。」

子供は無邪気にそう言って笑った。


とある街では声を使って仕事をするという文化がありました。
人形劇、紙芝居、時には歌を歌ったり、動く映像に合わせて話したりなど使い方は様々です。
その人達のことを街の皆は『せいゆう』と呼んでいました。
なぜせいゆうと呼ばれるようになったのかの本当の理由は誰も知らないのですけどね。声で人を救う英雄が始まりだと言う人もいますし、声の俳優を略してせいゆうなんて人もいます。

これは、その『せいゆう』と呼ばれる人の中にいた一人の有名な女性のお話しです。
女性はアニメと呼ばれるもので色々な絵で描かれた人や物に声を吹き込むことを主として仕事をしていました。時には人を救う女戦士を、時には兄思いの妹を、他にも、病弱な少女、もふもふとしたモンスター、強気な男子中学生や天才女性ハッカーなどを演じ、虹のような声の持ち主だと街では話題が絶えない人でした。

その女性には悩みがありました。

(私の声は本当に人に元気を与えられているのだろうか、もっと何かできるのではないだろうか、仕事だけで完結させて良いのだろうか)

もちろんそれを知る術は当然無く、何をすればよいかもあまりわかりません。声を使うことを仕事としている以上、自分の商品(こえ)を何の気なしに使うということもできません。しかし、世界には今も不安を抱き、落ち着かない日々を送っている人が多くいます。そのような人々にエールを送りたい、安らぎを与えてあげたい、そのような思いから溢れ出た悩みなのです。


その思いに応えたかのように一羽の白い鳥が本を背中にたずさえて、女性のもとに降り立ちました。そして、このように話したのです。

「私は声を届ける鳥、この本に声を吹き込めば、あなたの望むところに届けましょう」

女性は問いました。

「望むところとはどんなところでもよいのですか。また、他の方の声を届けることはできますか。」

鳥は答えます。

「はい、どんなものでも構いません。必ずや届けてみせましょう。そして、私はあなたの想いから生まれた鳥、あなたの願いは可能な限りお聞きしますよ。」

そして鳥は背中の本を開きました。

女性は驚き、思わず聞きました。

「本にはなにも書かれていないのですか。」

鳥はその質問を想定していたかのように答えます。

「この本を作るのはあなた自身です。録音器と少し似ていますが、あなたの読んだ物語と声によって本が完成します。」

なるほど~、とうなずく女性は仕組みを理解するとまるで毛布で包み込むかのような暖かい声で物語を読み始めました。今までの経験を活かし、様々な声で、役、語り、情景の再現をしていきます。やがて読み終わり、出来上がった本は声を聞くだけでその物語が映像になる気さえするほどの完成度でした。

完成とともに鳥は本を閉じ、

「あなたの想いを必ずや多くの人に届けてみせます。そしてあなたの勇気ある行動に賛同する方には手助けをしましょう、きっと幸せになる人々が増えていきます。」

そう言うと鳥は羽ばたき、瞬く間に青い空に溶け込むようにして消えていきました。


少し日にちが過ぎた頃、女性のもとにたくさんの手紙が届きました。その内容はどれも感謝の言葉を伝えるものばかりでした。
女性は自分の声が人を救うことが、元気を与えることができるのだと、嬉しく思いました。また、せいゆうによる活動は増えていき、多くの本が世界中に届けられました。人々はせいゆうさんが本を使ってろうどくかいを開いているみたいだと大喜びです。その本を守るための図書館までできたみたいですよ。勇気あるせいゆう達の声が碧空(あおぞら)を飛ぶ鳥によって、今日もいろんなところに届けられていきます。


これは、一人の勇気ある女性が起こした行動が生んだ、素敵なせいゆう達のろうどくかい、今日はどのような作品が運ばれて来るのでしょうか。皆さんも見かけた際にはこの図書館に足を運んで耳を傾けてみてはどうでしょう。きっと素敵な物語に出会えますよ。あ、また一人足を運んでこられたみたいですね、ではこれにて失礼いたします。ご清聴ありがとうございました。



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