カルシウムの生理学と高Ca、低Ca
①Caの分布
Caは骨の主成分ですが、血中、細胞内にも存在します。その分布は以下のようになります。
99%が骨(や歯)、残り1%が細胞内や細胞外(血中)です。細胞内は細胞外に比べCa濃度は低く保たれています。ただし細胞内には小胞体という細胞内器官があり、その中にCaはストアされています。あくまで細胞質におけるCa濃度が低いという意味です。
血漿中のCa濃度は8.5〜10.0 mg/dLを基準値とします。そのうち50%がイオン化された状態で存在します。
検査ではイオン化されたCaと蛋白などに結合したCaの総量を測定することもあるため、高Caや低Caを考える上では注意が必要になります。病態を考える上ではあくまで生理活性のあるイオン化Caが重要になります。
②Caへの影響:アルブミンとアルカローシス
(A) 蛋白が少ない状態
Caの一部はアルブミン(Alb)と結合して血中を運ばれていますが、低栄養や肝硬変、ネフローゼ などでAlbの量が減少すると、アルブミンに結合できない分のCaは、生理活性のあるイオン化された状態で存在することになります。
ゆえに、
となります。そこで、低Alb血症(Alb濃度が4mg/dL未満)の時は
と補正します。
(B) アルカローシス
過換気症候群などでアルカローシスになると、アルブミンはH+を放出し、その代わりにイオン化Caと結合します。そのため、アルカローシスではイオン化Caの低下により低Ca血症の症状を呈します。
③Caの役割
細胞内のCa濃度は細胞外の1/10000 に保たれています。様々な刺激によって細胞内Ca濃度は上昇します。具体的には
・チャネルを介して細胞外から細胞内へのCa流入
・細胞内の小胞体が開き、内部のCaが細胞質へ流出
です。細胞内のCa濃度が上がることで以下のような様々な反応が起こります。
例) Lambert–Eaton症候群では抗VGCC(voltage-gated Ca channel)抗体によってCaチャネルが開かず、細胞内のCa濃度が上昇しないため神経筋接合部におけるアセチルコリン分泌が阻害されます。
④CaのIn/Out
CaのIn/Outは以下のようになっています。
また、骨形成と骨吸収のバランス(リモデリング)もCa濃度に影響します。これを念頭において、各種のCa調節に関わるホルモンの作用を見ていきます。
⑤Caの調節その1:ビタミンD
(A) ビタミンDの作用その1:骨への作用
ビタミンDは骨形成も骨吸収もどちらも促進します。ビタミンDの量によってどちらに傾くかが決まります。
・ビタミンD過剰⇨骨吸収促進⇨Ca濃度↑
・ビタミンDが生理的濃度⇨骨形成を促進(Ca↓だが後述するPTHの代償で正常)
・ビタミンDが不足⇨骨形成↓⇨くる病、骨軟化症
です。重要なことは、ビタミンD欠乏ではくる病、骨軟化症といった骨強度の低下をきたすという点です。
(B) ビタミンDの作用その2:腸管
CaやPの吸収を促進します。こちらがビタミンDの最大の意義です。PTHとの兼ね合いで複雑ですが、大雑把にも
ビタミンD欠乏⇨CaやPの吸収が低下⇨低Ca血症、低P血症
と繋げて覚えます。
(C) ビタミンDの作用その3:腎臓
尿細管におけるCaとPの再吸収を促進します。ただしCaの再吸収に関しては後述するPTHの作用に比べずっと弱いため、Caの調節という観点からはあまり重要度が低いと考えられます。
(D)ビタミンDの作用4: その他
副甲状腺に作用してPTH合成を抑制します。
です。
次にビタミンDの合成ですが、以下を参照してください。コレステロールを材料として作りますが、その過程で日光照射、肝臓と腎臓での活性化が必要です。裏返すと、日光不足、肝機能低下、腎機能低下でビタミンD欠乏を起こし得ます。
⑥Caの調節その2:パラトルモン(PTH)
PTHは副甲状腺から分泌されるホルモンです。
(A) 分泌の調節
PTHは血漿Ca濃度に強く影響されます。血漿Ca濃度の上昇/低下を副甲状腺の主細胞が感知し分泌を制御します。
≪注≫CaSR(Ca-sensing receptor) Ca感知受容体
・副甲状腺にあるCaSRは血漿Ca濃度を感知してPTH分泌を調節します。
・腎にあるCaSRはCaの再吸収を調節します。
(B) 腎臓への作用
PTHはCaの再吸収を亢進しPの再吸収を抑制させます。この作用でCa濃度の上昇とP濃度の低下を起こします。
(C) 骨への作用
PTHは骨吸収を促進して、骨から血中へのCaの遊離を促します。
(D) ビタミンDとの関連
PTHは腎臓(近位尿細管)における25–ヒドロキシビタミンD3の活性化を促進して活性型ビタミンD3を増やし、活性型ビタミンD3を不活性化する24–水酸化酵素を抑制します。それにより活性型ビタミンD3を増やし、間接的に腸管でのCaとPの吸収を促進します。
以上をまとめたものが下図です。
⑦Caの調節その3:カルシトニン、FGF23
(A) カルシトニン
カルシトニンは甲状腺のC細胞から分泌されるホルモンです。破骨細胞の抑制を行い、CaとPを低下させます。薬としては骨吸収阻害作用は期待できず、代わりに下行性疼痛抑制系に作用し除痛作用が期待されています。そのため、骨粗鬆症における疼痛軽減で用いられます。
参考:C細胞由来の腫瘍は髄様癌です。RET遺伝子変異のあるMEN2の部分症であることも重要です。
(B) FGF23(fibroblast growth factor 23)
Pの摂取量増加を契機に分泌亢進するホルモンです。近位尿細管でPの再吸収抑制とビタミンDの不活性化(24水酸化酵素の活性化)、遠位尿細管でNaとCaの再吸収亢進を行います。
CKD(特にstage3以上)ではP排泄が低下するため、それに反応してFGF23の分泌が亢進しますが、これが心血管系への過負荷と血管の石灰化(NaとCaの再吸収ゆえ)に関与している可能性が示唆されています。
⑧高Ca血症
(A) 症状
非特異的ですが、主にCa濃度が12mg/dL以上で出現します。主な症状として
・全身症状:倦怠感、意識障害、重症で傾眠、昏睡、せん妄
・腎臓:腎性尿崩症(AQP2を抑制)⇨多飲多尿脱水、腎血管収縮(脱水とのダブルパンチで腎前性腎不全)、間質性腎炎
尿中Ca排泄が増加していれば腎結石
・消化器:便秘(蠕動運動↓)、悪心嘔吐、消化性潰瘍(胃酸分泌↑)、急性膵炎(Caがトリプシノーゲンを活性化)
・心臓:QT短縮、徐脈、(長期で)心血管の石灰化
(B) 原因
大きく分けると
・PTH↑:原発性副甲状腺機能亢進症、薬剤性(PTH製剤、リチウムなど)
≪注≫続発性副甲状腺機能亢進症では低Caのことが多いですが、場合によっては高Ca血症をきたすこともあります。
・PTHrP↑:腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)
・活性型ビタミンD↑:肉芽腫(サルコイドーシス、結核など)、リンパ腫、
ビタミンD過剰摂取
・骨吸収↑骨形成↓:長期臥床(骨形成↓)、甲状腺機能亢進症(破骨細胞↑)、
腫瘍の骨転移や骨浸潤(LOH)、多発性骨髄腫、エストロゲン製剤、副腎不全
・Ca排泄↓:薬剤性(サイアザイド)、ミルクアルカリ症候群、家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)
です。ぞれぞれの説明は以下。
(C) 診断
・高Caを見たら⇨低AlbがあればAlb値から補正(4–Alb+測定Ca)
・薬剤性は問診から。ミルクアルカリはMg製剤とCa製剤の併用やビタミンD製剤の使用などに加え、アルカローシス+腎不全で考えます。不動がないかも病歴から確認できます。
・家族歴からMEN1や2A(いずれもAD)、FHH(AD)も考えます。
・癌の指摘はあるか。
・尿中Ca(FeCa):低下していればFHHを強く疑います。
・PTH:原発性副甲状腺機能亢進症では上昇することがありますが、軽度なことも多いです。
≪注≫PTHは分泌後すぐに分解され、血中には完全なPTHの他に、PTHの断片も数多く存在します。検査では通常は生理活性のある未分解PTHを測定します。これをintact PTHといいます。ただしこの方法では透析患者で見られる一部欠損したPTHも測定されているため、その場合はwhole PTHの測定がされる場合があります。
・PTHrP:HHMでは上昇します。ただし悪性腫瘍があってもLOHではPTHrPの上昇は認めません。
・活性型ビタミンD(1,25–ジヒドロビタミンD3):肉芽腫がある場合上昇しています。
・TSH、fT3、fT4:甲状腺中毒症では溶骨によりCa↑です。
・TP、Alb、血清蛋白電気泳動:MMの有無
・腎機能、尿定性:CKDの背景、MMなど。
・X線:溶骨性変化の有無、サルコイドーシスなら肺門部リンパ節腫大はあるか、肺癌の指摘はあるか etc
・頸部エコー:副甲状腺の腫大はあるか。
(D) 治療
・脱水があれば生理食塩水
・カルシトニン:数時間で効果が出るが数日で効果減弱。
・ビスホスホネート:HHMでの第1選択。多発性骨髄腫の支持療法にも。効果発現まで数日かかるため急性期にはカルシトニンとの併用が必要です。顎骨壊死や食道潰瘍に注意。
・副甲状腺摘出:原発性副甲状腺機能亢進症で行う。CaSRアゴニストも有用。
・ステロイド:サルコイドーシスなどの肉芽腫が原因の場合に有用。
⑨低Ca血症
(A) 症状
・全身症状:抑うつ、てんかん
・筋:テタニー(筋強直)、筋けいれん、腱反射亢進
≪注≫
・Chvostek徴候:顔面神経管の出口(耳の前)を叩くと攣縮
・Trousseau徴候:上腕をマンシェットで加圧すると助産師の手
・心:QT延長、TdP、徐脈、長期で心筋ミオパチー⇨心収縮力低下
・骨:病的骨折(骨粗鬆症、骨軟化症、くる病など)
・消化器:下痢
・皮膚:乾燥
・眼:白内障
(B) 原因
大きく分けると
・PTH↓:原発性/偽性副甲状腺機能低下症、低Mg血症、高P(腫瘍崩壊症候群など)
・活性型ビタミンD↓:日光照射低下、肝硬変、CKD、ビタミンD活性化障害、摂食量低下
・Ca排泄↑:ループ利尿薬、高Mg血症
・骨形成↑:hungry bone syndrome(前立腺癌などの骨転移)
・その他:低アルブミン、アルカレミア(いずれもイオン化Ca上昇)、Caのキレート剤(フォスカルネットなど)、急性膵炎
(C) 診断
・問診:薬歴(⇨薬剤性)、手術歴放射線治療歴(副甲状腺機能↓)、骨折歴(易骨折性の有無)、家族歴
・血液検査:(intact) PTH、P、Mg、Alb、活性型ビタミンD、腎機能肝機能
(D) 治療
・グルコン酸Ca 急速に補正が必要な時に。
・活性型ビタミンD3製剤:ビタミンD↓の時。
・Mg製剤:低Mg時
⑩国試
正解はdeです。
aのエストロゲンは破骨細胞を抑制します。閉経後エストロゲンの分泌が低下するとこの抑制が低下し、骨粗鬆症のリスクとなります。
bのカルシトニンは破骨細胞を抑制します。
cのADHは無関係です。
dのPTHは骨吸収↑でCa↑です。
eの副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド)は骨形成の阻害因子(スクレロチン)の合成を促進します。ゆえにステロイドの長期使用では骨粗鬆症のリスクに注意が必要です。
正解はaです。PTH↓のためCa↓ P↑になります。
bではPTHrP分泌による腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM)でCa↑
cでは肉芽腫によるビタミンD活性化でCa↑
dではビタミンD作用でCa↑
eでは破骨細胞↑でCa↑(CRABのC)
正解はbeです。bは前の問題の通りで、eは副甲状腺機能亢進症が含まれるためです。
正解はbです。
aは腫瘍細胞の分泌するPTHrPによる高Ca血症をきたしますが、ほんまもんのPTHは低下します。
bはPTH↓を原因としてCa↓です。
cはPTH受容体の問題のため、PTH↑ Ca↓ P↑です。
dはビタミンDの作用でCa↓です。Ca↓の刺激と、ビタミンDによるPTH分泌↓の作用低下の2つの刺激でPTH↑です。
eは続発性副甲状腺機能亢進症をきたします。CKDによるビタミン活性化低下です。あとはdと同様です。
正解はadです。
aではビタミンD活性化障害+Pの排泄低下でCa↓ P↑になります。ただしこれが長期に続くと副甲状腺過形成でPTH↑の影響が強くなり、Ca↑になり得ます。
bではカルシトニン産生腫瘍です、カルシトニンは破骨細胞を抑制するためCa↓、P↓です。
cでは腸管のCaとPの吸収が低下するためCa↓、P↓です。
dではPTH↓のためCa↓ P↑です。
eではFGF23の作用でPが尿中に排泄され低P血症をきたします。またFGF23の作用でビタミンDが不活性化されるため低Ca血症になります。
腎結石の症例です。PTH↑かつCa↑かつP↓で、原発性副甲状腺機能亢進症を考えます。
a:PTHの作用は骨吸収↑です。ゆえに骨密度は低下します。
b:PTHの作用でPの再吸収が低下しP↓となります。
c:尿中Ca排泄は亢進です。だからこそ腎結石になってます。逆にFeCa↓ならFHHを考えます。
d:補正式は4–Alb+測定Caです。11.5になります。
e:PTHはビタミンDの活性化亢進と、不活化抑制を行います。ゆえに活性型ビタミンDである1,25(OH)ビタミンDは上昇です。
正解はcdです。
高齢女性の脱水、貧血で右鼠蹊部に腫瘤があります。沈渣にて血尿と異型細胞を多数認めているため悪性腫瘍の合併(腎細胞癌か)が考えられます。血液検査にて 高Ca、低Pを認めているため、診断は腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)が考えられます。高度の高Ca血症のため傾眠傾向となっているため、輸液、ビスホスホネート、カルシトニンを治療に用います。
≪注≫前の問題の原発性副甲状腺機能亢進症と比べ、PTHrPが関与する場合はより顕著な高Caとなります。
正解は ce
CKD患者でPTH↑ Ca↑ P↑となっています。透析患者という点からは続発性副甲状腺機能亢進症が考えられます。通常はCaは低下しますが、Ca製剤やビタミンD製剤の使用、今回のような25年という長期間の透析からは副甲状腺の過形成による高Caも考えられます。骨吸収の評価で手指骨のX線、副甲状腺の評価で頸部エコーが必要です。
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