カルシウムの生理学と高Ca、低Ca

①Caの分布

 Caは骨の主成分ですが、血中、細胞内にも存在します。その分布は以下のようになります。

 99%が骨(や歯)、残り1%が細胞内や細胞外(血中)です。細胞内は細胞外に比べCa濃度は低く保たれています。ただし細胞内には小胞体という細胞内器官があり、その中にCaはストアされています。あくまで細胞質におけるCa濃度が低いという意味です。
 血漿中のCa濃度は8.5〜10.0 mg/dLを基準値とします。そのうち50%がイオン化された状態で存在します。

画像2

 検査ではイオン化されたCaと蛋白などに結合したCaの総量を測定することもあるため、高Caや低Caを考える上では注意が必要になります。病態を考える上ではあくまで生理活性のあるイオン化Caが重要になります。

参考:総Ca量とイオン化Ca量の換算
・総Ca濃度がX mg/dLとします。
・すると上の図から分かるように、イオン化Ca濃度はX/2 mg/dLです。
・Caの物質量は40(g/mol = mg/mmol)です。
⇨X/2 mg/dL=5X mg/L= X/8 mmol/L
・Ca2+は2価イオンのため、1mmol/L=2mEq/Lです。
⇨ イオン化Ca濃度は X/4 mEq/L です。
例) Ca濃度が10mg/dL なら、 イオン化Ca濃度は2.5 mEq/L です。

②Caへの影響:アルブミンとアルカローシス

(A) 蛋白が少ない状態

 Caの一部はアルブミン(Alb)と結合して血中を運ばれていますが、低栄養や肝硬変、ネフローゼ などでAlbの量が減少すると、アルブミンに結合できない分のCaは、生理活性のあるイオン化された状態で存在することになります。
 ゆえに、

Albが少ない=血漿Caのうちイオン化Caの割合が大=血漿Ca濃度が低くても高Ca血症の症状を呈しうる

となります。そこで、低Alb血症(Alb濃度が4mg/dL未満)の時

補正Ca濃度(mg/dL)=測定Ca濃度(mg/dL)+4ー血漿Alb濃度(mg/dL)

と補正します。

(B) アルカローシス

過換気症候群などでアルカローシスになると、アルブミンはH+を放出し、その代わりにイオン化Caと結合します。そのため、アルカローシスではイオン化Caの低下により低Ca血症の症状を呈します。

③Caの役割

 細胞内のCa濃度は細胞外の1/10000 に保たれています。様々な刺激によって細胞内Ca濃度は上昇します。具体的には
・チャネルを介して細胞外から細胞内へのCa流入
・細胞内の小胞体が開き、内部のCaが細胞質へ流出

です。細胞内のCa濃度が上がることで以下のような様々な反応が起こります。

・神経伝達物質の放出
・ホルモン分泌
・筋収縮
・アポトーシス

例) Lambert–Eaton症候群では抗VGCC(voltage-gated Ca channel)抗体によってCaチャネルが開かず、細胞内のCa濃度が上昇しないため神経筋接合部におけるアセチルコリン分泌が阻害されます。

④CaのIn/Out

CaのIn/Outは以下のようになっています。

画像2

また、骨形成と骨吸収のバランス(リモデリング)もCa濃度に影響します。これを念頭において、各種のCa調節に関わるホルモンの作用を見ていきます。

⑤Caの調節その1:ビタミンD

(A) ビタミンDの作用その1:骨への作用

ビタミンDは骨形成も骨吸収もどちらも促進します。ビタミンDの量によってどちらに傾くかが決まります。

・ビタミンD過剰⇨骨吸収促進⇨Ca濃度↑
・ビタミンDが生理的濃度⇨骨形成を促進(Ca↓だが後述するPTHの代償で正常)
・ビタミンDが不足⇨骨形成↓⇨くる病、骨軟化症

です。重要なことは、ビタミンD欠乏ではくる病、骨軟化症といった骨強度の低下をきたすという点です。

(B) ビタミンDの作用その2:腸管

CaやPの吸収を促進します。こちらがビタミンDの最大の意義です。PTHとの兼ね合いで複雑ですが、大雑把にも

ビタミンD欠乏⇨CaやPの吸収が低下⇨低Ca血症、低P血症

と繋げて覚えます。

(C) ビタミンDの作用その3:腎臓

尿細管におけるCaとPの再吸収を促進します。ただしCaの再吸収に関しては後述するPTHの作用に比べずっと弱いため、Caの調節という観点からはあまり重要度が低いと考えられます。

(D)ビタミンDの作用4: その他

副甲状腺に作用してPTH合成を抑制します。

重要な点をまとめると、ビタミンDは
・腸管のCa、P吸収を促進⇨Ca↑、P↑の作用あり。
・骨のリモデリングを調節⇨ビタミンDが欠乏すると骨強度低下
・PTHの分泌抑制

です。

次にビタミンDの合成ですが、以下を参照してください。コレステロールを材料として作りますが、その過程で日光照射、肝臓と腎臓での活性化が必要です。裏返すと、日光不足、肝機能低下、腎機能低下でビタミンD欠乏を起こし得ます。

画像4

参考:ビタミンDを多く含む食事は?
⇨サケ、サバ、キノコ類

⑥Caの調節その2:パラトルモン(PTH)

PTHは副甲状腺から分泌されるホルモンです。

(A) 分泌の調節

 PTHは血漿Ca濃度に強く影響されます。血漿Ca濃度の上昇/低下を副甲状腺の主細胞が感知し分泌を制御します。

≪注≫CaSR(Ca-sensing receptor) Ca感知受容体
・副甲状腺にあるCaSRは血漿Ca濃度を感知してPTH分泌を調節します。
・腎にあるCaSRはCaの再吸収を調節します。

参考:上記のCa濃度を感知する受容体(CaSR)に対するアゴニストとして、calcimimeticがあります。シナカルセト(レグパラ®),エテルカルセチド(パーサビブ®)などです。これらはCaSRを刺激してPTH分泌を減らすもので、CKDに続発する二次性副甲状腺機能亢進症に用いられます。悪心嘔吐の副作用や、低Caをきたすため定期的な(最初は週1)Caモニタリングを行うことに注意です。

(B) 腎臓への作用

 PTHはCaの再吸収を亢進しPの再吸収を抑制させます。この作用でCa濃度の上昇とP濃度の低下を起こします。

(C) 骨への作用

PTHは骨吸収を促進して、骨から血中へのCaの遊離を促します。

参考:PTH誘導体のテリパラチドは、持続投与では骨吸収促進、間欠的投与(1日1回の投与)によって骨形成を促進する作用があります。

(D) ビタミンDとの関連

 PTHは腎臓(近位尿細管)における25–ヒドロキシビタミンD3の活性化を促進して活性型ビタミンD3を増やし、活性型ビタミンD3を不活性化する24–水酸化酵素を抑制します。それにより活性型ビタミンD3を増やし、間接的に腸管でのCaとPの吸収を促進します。

以上をまとめたものが下図です。

⑦Caの調節その3:カルシトニン、FGF23

(A) カルシトニン

カルシトニンは甲状腺のC細胞から分泌されるホルモンです。破骨細胞の抑制を行い、CaとPを低下させます。薬としては骨吸収阻害作用は期待できず、代わりに下行性疼痛抑制系に作用し除痛作用が期待されています。そのため、骨粗鬆症における疼痛軽減で用いられます。

参考:C細胞由来の腫瘍は髄様癌です。RET遺伝子変異のあるMEN2の部分症であることも重要です。

参考:カルシトニン製剤はウナギから作る(ウナギ Eel から作るため商品名はエルシトニンと言います)。他にもサケから作るものもありますが、前者の方がメインです。サケとうウナギに共通するのは海水と淡水とを行き来するということですが、その際にCaの調節機構として強力なカルシトニン活性が必要だと考えられます。

画像5

(B) FGF23(fibroblast growth factor 23)

 Pの摂取量増加を契機に分泌亢進するホルモンです。近位尿細管でPの再吸収抑制ビタミンDの不活性化(24水酸化酵素の活性化)、遠位尿細管でNaとCaの再吸収亢進を行います。

CKD(特にstage3以上)ではP排泄が低下するため、それに反応してFGF23の分泌が亢進しますが、これが心血管系への過負荷と血管の石灰化(NaとCaの再吸収ゆえ)に関与している可能性が示唆されています。

参考:腫瘍性骨軟化症
・腫瘍(特に前立腺癌や軟部腫瘍)がFGF23を産生
・FGF23の作用でPが尿中に排泄され低P血症をきたし、結果として骨軟化症となります。CaやPTHは基準値範囲内です。
・他にもFGF23を分解するタンパク質の遺伝子異常で低Pをきたします(遺伝性低P血症性くる病)。
・治療は切除可能な腫瘍があれば切除。腫瘍が特定できなかったり切除不明な場合は抗ヒトFGF23抗体製剤(ブロスマブ クリースビータ®︎)が2019年に保険適応になりました。
・112A18にて出題があります。

参考:ブロスマブ
・FGF23を標的とした分子標的薬
・X染色体連鎖性低P血症性くる病などの、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に適応。

⑧高Ca血症

(A) 症状

 非特異的ですが、主にCa濃度が12mg/dL以上で出現します。主な症状として

・全身症状:倦怠感、意識障害、重症で傾眠、昏睡、せん妄

・腎臓:腎性尿崩症(AQP2を抑制)⇨多飲多尿脱水、腎血管収縮(脱水とのダブルパンチで腎前性腎不全)、間質性腎炎

尿中Ca排泄が増加していれば腎結石

・消化器:便秘(蠕動運動↓)、悪心嘔吐、消化性潰瘍(胃酸分泌↑)、急性膵炎(Caがトリプシノーゲンを活性化)

・心臓:QT短縮、徐脈、(長期で)心血管の石灰化

(B) 原因

大きく分けると
・PTH↑:原発性副甲状腺機能亢進症、薬剤性(PTH製剤、リチウムなど)
≪注≫続発性副甲状腺機能亢進症では低Caのことが多いですが、場合によっては高Ca血症をきたすこともあります。
・PTHrP↑:腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)
・活性型ビタミンD↑:肉芽腫(サルコイドーシス、結核など)、リンパ腫、
ビタミンD過剰摂取
・骨吸収↑骨形成↓:長期臥床(骨形成↓)、甲状腺機能亢進症(破骨細胞↑)、
腫瘍の骨転移や骨浸潤(LOH)、多発性骨髄腫、エストロゲン製剤、副腎不全
・Ca排泄↓:薬剤性(サイアザイド)、ミルクアルカリ症候群、家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)

です。ぞれぞれの説明は以下。

(ア)原発性副甲状腺機能亢進症
・副甲状腺の腺腫や癌、過形成によってPTH分泌が亢進した病態。
・高Caの原因として最多
高齢女性に好発
・腺腫が原因のことが多く、無症状、軽症のものが多い。一方癌(PTHrPによるものを含む)では重症なものも多い。
・PTH↑による高Ca、低P、骨吸収↑による骨痛を認める。
尿中Ca排泄は上昇(PTHにCa再吸収↓作用はあるも、骨吸収で血中に移行するCaが多いため)。
・一部にMEN1やMEN2Aの部分症ということも。

参考:嚢胞性線維性骨炎(Osteitis fibrosa cystica) Brown腫瘍
・骨吸収が亢進し、破骨細胞とヘモジデリンの沈着により骨腫瘍のように見える病変
・原因の90%は原発性副甲状腺機能亢進症

(イ):薬剤性
リチウム製剤はPTH↑による高Ca血症の他に甲状腺機能低下症、意識障害(脳波異常)が有名です。また、妊婦の投与で児のEbstein奇形のリスクとなります。
サイアザイドは尿中Ca排泄を抑制するため、高Caの背景になり得ます。その一方で、尿中Caが減少するた腎結石の予防に用いられます。
・活性型ビタミンD製剤の大量摂取は高Ca血症の原因です。特に腎機能低下時はリスクが高いです。
・ビタミンAの過剰摂取は骨吸収亢進の結果高Ca血症を生じることがあります。
・テオフィリン:PTHの作用増強が原因と考えられている。

(ウ)腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)
・原発性副甲状腺機能亢進症に次いで多い高Ca血症の原因。
・原因は肺などの扁平上皮癌、悪性リンパ腫、乳癌など様々
・腫瘍細胞の分泌するPTHrP(PTH  related protein)がPTH作用をするため高Ca血症、低P血症をきたします。

参考:局所的な骨溶解により生じる高Ca血症(LOH:local osteolytic hypercalcemia)
・腫瘍細胞から分泌されるIL–1やIL–6などのサイトカインによって、RANKLを介して破骨細胞が活性化し、骨吸収により高Ca血症を生じます。
・LOHとHHMをまとめてMAH(Malignancy-associated Hypercalcemia)といいます。

(エ)ミルクアルカリ症候群
・高Ca血症の原因第3位
高Ca、代謝性アルカローシス、腎障害をきたします。
≪注≫腎不全なのにアシドーシスではなくアルカローシスという点が特徴的です。
・Ca製剤とMg製剤がリスク
⇨Mg製剤で血液と尿がアルカリ化(アルカローシス)
⇨Ca再吸収亢進
⇨高Ca
⇨Na再吸収↓など
⇨腎不全

(オ)家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)
・常染色体優性
・CaSRの異常により、Ca再吸収が亢進し、PTH分泌が抑制されないことに起因します。
尿中Ca濃度が低下します。PTHは正常から軽度上昇程度にとどまります。
・Caの上昇も軽度のことが多いです。

(C) 診断

・高Caを見たら⇨低AlbがあればAlb値から補正(4–Alb+測定Ca)

・薬剤性は問診から。ミルクアルカリはMg製剤とCa製剤の併用やビタミンD製剤の使用などに加え、アルカローシス+腎不全で考えます。不動がないかも病歴から確認できます。

・家族歴からMEN1や2A(いずれもAD)、FHH(AD)も考えます。

・癌の指摘はあるか。

・尿中Ca(FeCa):低下していればFHHを強く疑います。

・PTH:原発性副甲状腺機能亢進症では上昇することがありますが、軽度なことも多いです。

≪注≫PTHは分泌後すぐに分解され、血中には完全なPTHの他に、PTHの断片も数多く存在します。検査では通常は生理活性のある未分解PTHを測定します。これをintact  PTHといいます。ただしこの方法では透析患者で見られる一部欠損したPTHも測定されているため、その場合はwhole PTHの測定がされる場合があります。

・PTHrP:HHMでは上昇します。ただし悪性腫瘍があってもLOHではPTHrPの上昇は認めません。

・活性型ビタミンD(1,25–ジヒドロビタミンD3):肉芽腫がある場合上昇しています。

・TSH、fT3、fT4:甲状腺中毒症では溶骨によりCa↑です。

・TP、Alb、血清蛋白電気泳動:MMの有無

・腎機能、尿定性:CKDの背景、MMなど。

・X線:溶骨性変化の有無、サルコイドーシスなら肺門部リンパ節腫大はあるか、肺癌の指摘はあるか etc

・頸部エコー:副甲状腺の腫大はあるか。

(D) 治療

・脱水があれば生理食塩水

カルシトニン:数時間で効果が出るが数日で効果減弱。

ビスホスホネート:HHMでの第1選択。多発性骨髄腫の支持療法にも。効果発現まで数日かかるため急性期にはカルシトニンとの併用が必要です。顎骨壊死や食道潰瘍に注意。

・副甲状腺摘出:原発性副甲状腺機能亢進症で行う。CaSRアゴニストも有用。

・ステロイド:サルコイドーシスなどの肉芽腫が原因の場合に有用。

⑨低Ca血症

(A) 症状

・全身症状:抑うつ、てんかん

・筋:テタニー(筋強直)、筋けいれん、腱反射亢進
≪注≫
Chvostek徴候:顔面神経管の出口(耳の前)を叩くと攣縮
Trousseau徴候:上腕をマンシェットで加圧すると助産師の手

・心:QT延長、TdP、徐脈、長期で心筋ミオパチー⇨心収縮力低下

・骨:病的骨折(骨粗鬆症、骨軟化症、くる病など)

・消化器:下痢

・皮膚:乾燥

・眼:白内障

(B) 原因

大きく分けると

・PTH↓:原発性/偽性副甲状腺機能低下症、低Mg血症、高P(腫瘍崩壊症候群など)
・活性型ビタミンD↓:日光照射低下、肝硬変、CKD、ビタミンD活性化障害、摂食量低下
・Ca排泄↑:ループ利尿薬、高Mg血症
・骨形成↑:hungry bone syndrome(前立腺癌などの骨転移)
・その他:低アルブミン、アルカレミア(いずれもイオン化Ca上昇)、Caのキレート剤(フォスカルネットなど)、急性膵炎

(ア)原発性副甲状腺機能低下症
・甲状腺の手術後、DiGeorge症候群、CaSRの異常など。
PTH↓、Ca↓、P↑となります。

(イ)偽性副甲状腺機能低下症
・PTH分泌は正常だが、その受容体または下流のシグナル伝達の異常。
⇨血液検査ではPTH↑ Ca↓ P↑ です。
・Pの貯留により脳内や動脈の石灰化をきたします。
・1型と2型に分けられる。1型はGPCR(受容体)の問題、2型はシグナル伝達におけるcAMP産生移行の過程の問題です。
・1型はAlbright遺伝性骨異栄養症(低身長や肥満や短指症や知能障害が特徴的)を合併する1a型と、合併の少ない1b型に分けられます。
・CaやPが正常にも関わらずAlbright徴候を認めるものに偽性偽性副甲状腺機能低下症があります。

(ウ)続発性副甲状腺機能亢進症
・CKDが原因として最多。CKDではビタミンD活性化障害+Pの排泄低下で
低Ca+高P血症になります。
・すると副甲状腺の過形成のためPTH分泌が亢進します。
・そこにビタミンDの投与やCa製剤を使うと高Ca血症を起こすことがあります。
・長期的には副甲状腺の過形成と、それによる更なるPTH↑で骨吸収が亢進し、高Caとなります。

(C) 診断

・問診:薬歴(⇨薬剤性)、手術歴放射線治療歴(副甲状腺機能↓)、骨折歴(易骨折性の有無)、家族歴

・血液検査:(intact) PTH、P、Mg、Alb、活性型ビタミンD、腎機能肝機能

(D) 治療

・グルコン酸Ca 急速に補正が必要な時に。

・活性型ビタミンD3製剤:ビタミンD↓の時。

・Mg製剤:低Mg時

⑩国試

104I23 
分泌過剰によって骨密度が低下するのはどれか.2つ選べ.
a エストロゲン
b カルシトニン
c 抗利尿ホルモン
d 副甲状腺ホルモン
e 副腎皮質ホルモン

正解はdeです。
aのエストロゲンは破骨細胞を抑制します。閉経後エストロゲンの分泌が低下するとこの抑制が低下し、骨粗鬆症のリスクとなります。
bのカルシトニンは破骨細胞を抑制します。
cのADHは無関係です。
dのPTHは骨吸収↑でCa↑です。
eの副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド)は骨形成の阻害因子(スクレロチン)の合成を促進します。ゆえにステロイドの長期使用では骨粗鬆症のリスクに注意が必要です。

106B10
高カルシウム血症がみられないのはどれか.
a 副甲状腺機能低下症
b 成人T細胞白血病
c サルコイドーシス
d ビタミンD中毒
e 多発性骨髄腫

正解はaです。PTH↓のためCa↓ P↑になります。
bではPTHrP分泌による腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM)でCa↑
cでは肉芽腫によるビタミンD活性化でCa↑
dではビタミンD作用でCa↑
eでは破骨細胞↑でCa↑(CRABのC)

104E10 
高カルシウム血症を呈するのはどれか.2つ選べ.
a Cushing症候群
b サルコイドーシス
c 原発性胆汁性胆管炎
d 慢性甲状腺炎〈橋本病〉
e 多発性内分泌腫瘍〈MEN〉Ⅰ型

正解はbeです。bは前の問題の通りで、eは副甲状腺機能亢進症が含まれるためです。

111B25
血液中の副甲状腺ホルモン〈PTH〉とカルシウムが同方向に変化(両方とも増加,または,両方とも減少)するのはどれか.
a 腫瘍性液性因子性高カルシウム血症〈HHM〉
b 特発性副甲状腺機能低下症
c 偽性副甲状腺機能低下症
d ビタミンD欠乏症
e 慢性腎不全

正解はbです。

aは腫瘍細胞の分泌するPTHrPによる高Ca血症をきたしますが、ほんまもんのPTHは低下します。
bはPTH↓を原因としてCa↓です。
cはPTH受容体の問題のため、PTH↑ Ca↓ P↑です。
dはビタミンDの作用でCa↓です。Ca↓の刺激と、ビタミンDによるPTH分泌↓の作用低下の2つの刺激でPTH↑です。
eは続発性副甲状腺機能亢進症をきたします。CKDによるビタミン活性化低下です。あとはdと同様です。

109D19
血清Ca値と血清P値とが反対方向に変化(一方が上昇し他方が低下)する疾患はどれか.2つ選べ.
a 慢性腎不全
b 甲状腺髄様癌
c ビタミンD欠乏症
d 特発性副甲状腺機能低下症
e 腫瘍性低リン血症性骨軟化症

正解はadです。
aではビタミンD活性化障害+Pの排泄低下でCa↓ P↑になります。ただしこれが長期に続くと副甲状腺過形成でPTH↑の影響が強くなり、Ca↑になり得ます。
bではカルシトニン産生腫瘍です、カルシトニンは破骨細胞を抑制するためCa↓、P↓です。
cでは腸管のCaとPの吸収が低下するためCa↓、P↓です。
dではPTH↓のためCa↓ P↑です。
eではFGF23の作用でPが尿中に排泄され低P血症をきたします。またFGF23の作用でビタミンDが不活性化されるため低Ca血症になります。

115A73
68歳の女性.救急外来での血液検査で高カルシウム血症を指摘されたことを主訴に受診した.3日前に背部痛で救急外来を受診し,尿路結石症と診断された.高血圧症で通院中であり,尿路結石発作を過去に3回経験している.意識は清明.体温36.2℃.脈拍82/分,整.血圧156/90mmHg.心音と呼吸音とに異常を認めない.右背部に叩打痛を認める.神経診察に異常を認めない.血液生化学所見:アルブミン3.7g/dL,Ca 11.2mg/dL,P 2.4mg/dL,副甲状腺ホルモン〈PTH〉170pg/mL(基準10〜60).腹部CTを次に示す.
この患者の検査値として適切なのはどれか.2つ選べ.
a 大腿骨頸部骨密度低値
b 尿中P再吸収(%TRP)低値
c 尿中Ca排泄量減少
d 血中補正Ca濃度12.5mg/dL
e 血中1,25(OH)ビタミンD低下

画像6

腎結石の症例です。PTH↑かつCa↑かつP↓で、原発性副甲状腺機能亢進症を考えます。
a:PTHの作用は骨吸収↑です。ゆえに骨密度は低下します。
b:PTHの作用でPの再吸収が低下しP↓となります。
c:尿中Ca排泄は亢進です。だからこそ腎結石になってます。逆にFeCa↓ならFHHを考えます。
d:補正式は4–Alb+測定Caです。11.5になります。
e:PTHはビタミンDの活性化亢進と、不活化抑制を行います。ゆえに活性型ビタミンDである1,25(OH)ビタミンDは上昇です。

111A55
82歳の女性.傾眠状態のため家族に連れられて来院した.生来健康だったが先月から血尿,口渇,便秘,悪心および食欲不振が出現していた.昨日から傾眠傾向となり増悪するため同居する息子夫婦が自家用車に乗せて連れてきた.身長152cm,体重40kg.体温36.2℃.脈拍80/分,整.血圧142/56mmHg.呼びかけると開眼するが,すぐに閉眼する.眼瞼結膜は貧血様である.口腔内は著明に乾燥している.頸部と腋窩のリンパ節を触知しない.心尖部を最強点とするⅢ/Ⅵの収縮期雑音を聴取する.呼吸音に異常を認めない.腹部は平坦,軟.右鼠径部に径約4cm,弾性硬,可動性不良の腫瘤を触知する.尿所見:赤色調,蛋白1+,糖(-),潜血3+,沈渣に赤血球多数/1視野,異型性の強い上皮細胞多数/1視野.血液所見:赤血球380万,Hb 10.8g/dL,白血球8,100,血小板13万.血液生化学所見:総蛋白5.1g/dL,アルブミン3.2g/dL,総ビリルビン0.7mg/dL,AST 29U/L,LD 283U/L(基準176〜353),ALP 146U/L(基準115〜359),尿素窒素23mg/dL,クレアチニン1.3mg/dL,尿酸11.1mg/dL,血糖198mg/dL,HbA1c 6.4%(基準4.6〜6.2),Na 140mEq/L,K 3.5mEq/L,Cl 99mEq/L,Ca 15.0mg/dL,P 2.5mg/dL.
輸液とともに投与すべきなのはどれか.2つ選べ.
a アルブミン
b インスリン
c カルシトニン
d ビスホスホネート
e 副腎皮質ステロイド

正解はcdです。

高齢女性の脱水、貧血で右鼠蹊部に腫瘤があります。沈渣にて血尿と異型細胞を多数認めているため悪性腫瘍の合併(腎細胞癌か)が考えられます。血液検査にて 高Ca、低Pを認めているため、診断は腫瘍随伴体液性高Ca血症(HHM:humoral hypercalcemia of malignancy)が考えられます。高度の高Ca血症のため傾眠傾向となっているため、輸液、ビスホスホネート、カルシトニンを治療に用います。

≪注≫前の問題の原発性副甲状腺機能亢進症と比べ、PTHrPが関与する場合はより顕著な高Caとなります。

101A37
75歳の女性.膝と踵との痛みを主訴に来院した.25年前から糸球体腎炎による末期腎不全のため血液透析を受けている.6ヵ月前から歩行時の両膝の痛みを自覚し,最近は踵にも痛みを感じるようになった.血液所見:赤沈40mm/1時間,赤血球360万,Hb 10.8g/dL,Ht 32%.血清生化学所見:尿素窒素86mg/dL,クレアチニン9.2mg/dL,ALP 600IU/L(基準260以下),Na 140mEq/L,K 5.3mEq/L,Cl 106mEq/L,Ca 11.5mg/dL,P 6.4mg/dL,PTH 880pg/mL(基準10~60).動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.43,PaO2 82Torr,PaCO2 47Torr,HCO3− 28mEq/L.
ほかに行う検査として適切なのはどれか.2つ選べ.
a 腎生検
b 頭部CT
c 頸部超音波検査
d 副腎シンチグラフィ
e 手指骨X線撮影

正解は ce
CKD患者でPTH↑ Ca↑ P↑となっています。透析患者という点からは続発性副甲状腺機能亢進症が考えられます。通常はCaは低下しますが、Ca製剤やビタミンD製剤の使用、今回のような25年という長期間の透析からは副甲状腺の過形成による高Caも考えられます。骨吸収の評価で手指骨のX線、副甲状腺の評価で頸部エコーが必要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?