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スタートアップ紹介③「Hims & Hers Health」後編

本記事の概要
本記事の後編では、Hims & Hers Healthの競合状況、黒字化、所感を紹介する
前編の記事はこちら

  • Hims & Hers Healthは、遠隔医療サービス、処方薬、ウェルネス製品、パーソナルケア製品などを消費者に提供している

  • 当初は男性向け製品を中心に展開していたが、後に女性向け製品にも手を広げ、現在は男女両方の製品を提供している

  • 2017年11月に設立され、2019年1月に$100Mを調達し、2021年1月にニューヨーク証券取引所(NYSE)でIPOを行った(評価額は$1.6B)

  • 同社は2023年度第4四半期に$1.2Mの初黒字を計上した

https://www.hims.com/

https://www.forhers.com/

トップ画像はHims & Hers Healthのウェブサイトより
※本記事は、添付URLの記事および各社のウェブサイトを参考に作成しました。


競合企業例(米国)

ro

https://ro.co/

所在地:New York, NY, USA
累計調達額:$1B
設立年度:2017年
事業概要:遠隔医療、ウェルネス製品(禁煙関連製品含む)などを消費者に提供。分社にRomanという企業があり、ED、脱毛、湿疹、アレルギー等向けの治療製品を提供している
対象顧客:一般消費者

Hims & Hers Healthとの主な相違点

  • roはメンタルヘルスケア関連のサービスは縮小しており、Hims & Hers Healthの方がメンタルヘルスサービスが充実している

  • roはHims & Hers Healthのサービスにはない、湿疹治療、多汗症治療、不妊治療、眼瞼下垂症治療のサービス提供をしている

  • ED治療薬については同製品の販売の場合、Hims & Hers Healthの方が安い(例:Tadalafil 5mg、Hims:$6.50/回、ro:$11/回)

  • roは減量薬のGLP-1受容体作動薬(ウゴービ等)を取り扱っている。但し、家庭用の検査キット(自宅に送付される採血キット)の結果を基に医師がGLP-1受容体作動薬の処方の有無を判断する。保険適用されるか、については、roのコンシェルジュがサポートを行う(仮に保険適用されない場合でも薬の入手は可)
    GLP-1受容体作動薬の処方の資格判断(検査代含む):$99、GLP-1受容体作動薬の医薬品購入費: $145/月

参考サイト

BlueChew

所在地:Chicago, IL, USA
累計調達額:不明
設立年度:2014年
事業概要:男性向けのセクシャル・ウェルネスに特化した遠隔医療サービスを提供
対象顧客:一般消費者

Hims & Hers Healthとの主な相違点

  • BlueChewはED治療薬の提供に特化しており、提供する製品も錠剤ではなく口腔内で噛み砕いて服用するチュアブル錠のみを販売

Keeps

所在地:New York, NY, USA
累計調達額:$69.8M
設立年度:2017年
事業概要:脱毛・薄毛に悩む男性向けに特化した、遠隔医療サービスを提供
対象顧客:一般消費者

Hims & Hers Healthとの相主な違点

  • Keepsは脱毛・薄毛治療に特化したサービスを提供

  • 脱毛・薄毛治療向けの多くの製品でKeepsの方が安価に提供している(例:Minoxidil 5% Solution、Hims:$15、Keeps:$9)

  • Keepsは全米50州で利用することができない(特に、デラウェア、アイダホ、カンザス、ニューメキシコ、プエルトリコ、ワシントンD.C.、ウェストバージニアでは利用不可)

参考サイト

競合企業例(日本)

DMMオンラインクリニック

DMM.comと医療法人社団DMHが連携したオンライン診療事業。
2021年12月にサービスを開始し、肥満症、AGA、メディカルスキンケア、不眠症・睡眠障害の治療に対するサービスを提供。

https://dmm-corp.com/business/clinic/
  • Hims & Hers Healthと同様に男性・女性向けの健康・コンプレックス商材を取り扱っている

  • DMMオンラインクリニックのサービスの流れ:アカウント作成、診療予約(事前に問診表の記入)、ビデオ通話による診療の実施、決済、医薬品の発送(診療完了後1-2日で配達)

  • 日本特有の治療サービスとして、花粉症に対する医薬品提供サービスを実施している

  • GLP-1受容体作動薬(経口薬のリベルサス)の提供も行っており、1か月分のみの場合は税込み10,120-33,440円(用量により価格は変化)。また、GLP-1受容体作動薬とセットで漢方やサプリメントの提供も行っている

  • ピル・アフターピルの提供サービスは2024年3月で終了しており、引き続きオンラインで医薬品を購入したい場合はsmalunaで購入可能(DMMオンラインクリニックがsmalunaとコラボしている)

  • 診察料は無料。発生する費用は薬代と配送料のみ

  • 日本で他にも遠隔医療サービスを提供している競合として、「LINEドクター」、「CLINICS オンライン診療」、「curon」等がある。コンプレックス商材を中心に扱うという点で、DMMオンラインクリニックがHims & Hers Healthとサービス内容が類似している。

Hims & Hers Healthは2023年度第4四半期に黒字化を達成

  • 2023年度第4四半期総売上高が$246.6M(2022年度第4四半期は$167.2M)、$1.2Mの純利益(2022年度第4四半期は$10.9Mの損失)を報告

  • 2023年度の第4四半期の加入者数は前年同期比48%増の150万人に達した

  • 2024年には売上高が$1Bを突破し、初の通期純利益黒字化の達成を目指している

  • 2023年度第4四半期の売上高が$246.6Mに対して、マーケティングに$125.9Mを費やしている(米国のTVのCMやYoutubeの広告でHims & Hers Healthを頻繁に見かける)

参考webサイト

今後の展望

Hims & Hers Healthは遠隔医療×コンプレックス商材のビジネスは入手したい、治療したいと思っても病院に行くことが恥ずかしい・時間がないとのニーズにうまく答えた形になった
消費者ニーズに上手く答えただけでなく、遠隔医療を可能にするテクノロジー、対面での診察をせずに処方箋を受けることが可能な法体制、消費者のデジタルへの抵抗性の低さ、等の環境が整ったことが、Hims & Hers Healthのビジネス成功につながったと考える。もちろん新型コロナウイルスパンデミックにより、消費者にとって遠隔医療がより身近になったことも大きな要因の一つであるといえる

Hims & Hers Healthは黒字化を達成したものの、これからのビジネス展開は以下の2点で必ずしも安泰とは言えないと考えている。
*あくまで筆者個人の意見として記載

①大手ECサイト・特化型競合企業の脅威
医師からの処方箋が必要な医薬品はあるものの、ECサイトでの製品販売ビジネスのため、参入障壁は低いことが考えられる
Amazonのような大手企業も参入しており、知名度、価格、製品ラインナップ、カスタマーサポートの充実度の勝負になると資金に余裕がある大手企業が有利になりやすい。
また、大手企業だけでなく特化型競合企業も大きな脅威となっている。roは Hims & Hers Healthでは取り扱っていないGLP-1受容体作動薬のオンライン販売も行っており、減量薬の供給元として期待されている。Keepsは薄毛・脱毛に特化することで、製品のラインナップを充実させ、Himsよりも価格を抑えて提供している。
Hims & Hers Healthとしては、新規の顧客獲得だけでなく、顧客離れを防ぎ、継続的に購入してもらえるような戦略を立てる必要があるかもしれない(継続購買による割引、知人紹介による割引、等)

Amazon clinicのED治療薬購入サイト↓

②マーケティング費用の割合が高い
Hims & Hers Healthは売り上げに対して約50%の費用をマーケティングに使用している。消費者に知ってもらう、という点では成功していると考えるが、引き続きマーケティングに多大な費用をかけていては、大きな利益は望めない(一方で、競合他社もほぼ似たようなサービス・製品を提供しているため、マーケティング費用をなかなか削れない状況にもあると想定)
Hims & Hers Healthが、今後注力する女性向けスキンケア、メンタルヘルス、抗肥満(減量)の3分野は、彼らが利益が高いと見込んでいる分野であり、今後は集中的にマーケティングを行っていくと考える。
一方、減量医薬品であるGLP-1受容体作動薬はECサイトの競合のroだけでなく、大手会員制量販店のCostcoでも処方箋が提供されるようになる。GLP-1受容体作動薬の販売で一歩出遅れているHimsとしては、同じようなサービス提供や価格帯では、減量事業で新規顧客の獲得に苦戦することが想定される
競合が多い女性向けスキンケアは、自社製品の開発・展開メインで行くか、すでに顧客を保有しているブランドを買収して強化するのか、減量事業と合わせてどのような戦略で販売を進めるか、注目していきたい

GLP-1受容体作動薬の処方箋がCostcoで提供される↓

所感

デジタル化によりコンプレックス商材が消費者にとって、より身近に手に入る製品となった今、ECサイトでのコンプレックス商材販売ビジネスは今後も伸びていくことが想定される
このようなコンプレックス商材の製品展開で、今までとは異なるアプローチでサービス展開を可能にする技術やアイデアが持っている/生み出しそうなスタートアップが出てきているか、引き続き注視していきたい

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