見出し画像

暗記はアウトプットだ。

東大王・伊沢 拓司さんの「ことば」

 今回は、いよいよ入学してから初めての定期考査も近づいてきたということで、「テスト勉強に少しでも役立つ内容を!」という想いから、テレビや各メディアでお馴染みの“東大王”・“クイズ王” 伊沢 拓司さんの著書『勉強大全』から、【暗記】についての内容をご紹介します。
 そもそも【暗記】について、彼はこんな疑問を呈しています。

「暗記」
 この熟語の表記が悪い。僕は常々そう考えています。…(中略)…
 「暗記」が、「暗い」という字のせいで、どうにもがむしゃらにモノを詰め込むようなイメージで語られているフシがあるなと僕は思っています。そもそも「詰め込む」ですら、詰め込み教育などという言葉のせいでマイナスのイメージを帯びていますよね。詰め込むこと自体は悪いことではなくて、ただ単にきれいに詰め込めばいい話なのに。
 …(中略)…
 「暗記」は「諳記」とも書きます。本来の意味としては「諳記」のほうが適切なように思えるのですが、「諳」の字があまりなじみのないものであるため、前者が一般的になっています。「諳」は「そらんじる」と読みます。「何も見ないで言えるように覚える」ことです。
 ですから、「暗記」というのは「何も見ないで言えるように覚えること」というのが本来の意味です。「諳誦」の「諳」ですね。「暗い」という字がもたらすマイナスのイメージは、本来の意味には含まれていないのです。
 
「勉強大全」(KADOKAWA、2019)

 そう言われれば、何となくそんな気もしてきます。確かに私たちは、ついつい【暗記】という行為に対して、少し軽いイメージを持ったりもしがちですよね。

・「それって、ただの丸暗記だよね!」
・「暗記だけだったらイケるんだけどさ!」

 こんなこと、言ったり聞いたりすること、ありませんか?通常の”理解をして身につける行為”としての【勉強】と、少し違う場所にあるような意味合いで【暗記】を捉えてしまいがちな気がします。伊沢さんの本を読んでみて、私自身もこれまで【暗記】に対して軽々しく捉えてしまっていたような気にさせられました。
 ご存知の通り、彼は東大(東京大学)合格という、日本の中では超有名な大学入試をクリアした経歴をもつわけであり、更には”クイズ王”として多くのテレビ番組等でも活躍しているので、彼自身の受験勉強方法には興味を抱きます。そんな彼ですが、サラッとこんな風に述べています。

 もう、受験なんて大部分が「暗記」じゃん。
 それでも「たかが暗記」と言えますか。受験の大部分をナメてかかっていては、良い成果を出せるはずもないのです。

「勉強大全」(KADOKAWA、2019)

 はじめは、ちょっと驚きました。『そう言い切れちゃうのって、特別な暗記力があるからでしょ?』とも感じますし、”クイズ王”となるほど驚異的な暗記力を持ち合わせているから、受験勉強だって簡単に【暗記】できるようにも思ってしまいがちですよね。
 しかし、彼がこんな風に【暗記】を重要視して強調できるのには、それなりに理由がありました。それが、掲示でもちょっと紹介した、二種類の【暗記】の使い分けです。

【マクロ暗記】と【ミクロ暗記】

【マクロ暗記】
 大事な構成要素とつながり方を覚え、「構造」を正しく再現できるかがポイント。昔話のストーリーを覚えるように、話の流れや順序を再現できるようにするのが目的。重要なパーツが何個あるのか、その数を覚えてから進める方法がオススメ。

【ミクロ暗記】
 漢字書き取りや英単語、数学の公式など、細部まで完璧に覚えることがポイント。一気に全範囲を覚えるのではなく、少しずつ区切って「ココまでは10割できる」という範囲を一つずつ増やしていく方法がオススメ。

 簡潔に紹介すると、このような感じです。そう言われてみると、私たちはいつの間にか生まれながらにして、【暗記】を積み重ねているようなものなんだなぁとも思ったりします。
 本の中でも例として出されていますが、例えば『昔話・桃太郎のストーリーは?』と聞けば、おおよその人が答えられるものですよね。作品として「桃太郎」の詳細な一文一文や言い回しなどは覚えていないにせよ、
【おじいさんとおばあさん/山へしば刈りに・川へ洗濯に/大きな桃が流れてきて/桃の中から桃太郎/大きくなって鬼退治へ/イヌ・サル・キジ/腰にはきびだんご/鬼ヶ島へ…】 という感じで、何となくは思い出せるものです。これは本というよりも、歌のイメージがあるのかも知れませんが(笑)。ともあれ、これが、いわゆる【マクロ暗記】に当てはまるものだそうです。人からうわさ話を聞いたりする時も、実は頭の中ではこの【マクロ暗記】をしているのかも知れませんよね。〇〇さんと〇〇くんが登場し、そこに〇〇さんがこんなことを言ってきたら…最終的にはこうなった、という感じ。この話の「構造」を理解することが大切です。

 一方で、【ミクロ暗記】は、俗にいう一般的な【暗記】のイメージ通りのものです。何度も何度も繰り返し書いて、完璧に覚えようとするアレです。漢字の書き取りや英単語や数学の公式、理科の周期配列表などなど… いかにも「暗記しています!」という感じで頑張るアレ、ですね。

 この2種類があるということが何となく分かった人は、この使い分けをすることが大事だそうです。「今から覚えたいものは【ミクロ暗記】の方だから、こんな風にやっていこう!」とか、「これって【マクロ暗記】だな。じゃあこういうやり方が効果的だね!」という感じですね。ここをスマートに選択して、意識的に【暗記】を行っていけると、おそらく情報の整理がうまくいくのだと思います。テスト前にぼんやりと教科書やノートを見直すことも決してダメではありませんが、限られた時間で効果的な【暗記】を行うことの方がきっと良い結果を生むはずです。

その【暗記】は、何のため?

 最後に、ココが最も重要と言えるところです。

 何のために暗記するのでしょうか。
 一番大きいところで言えば「合格」でしょう。「合格点を取る」ですね。
 より細かく分けていけば、「英文の中でわからない単語を減らす」「頭では思いつけないから解法を記憶しておく」、ゲンキンな目的ベースなら「単語テストで満点を取る」とか。
 いずれにせよ、暗記というのは目的ではなく手段です。何かを達成するという目標のため、それに必要な物事を頭の中に入れていく作業が暗記です。
 ですから、暗記という作業をする上で意識するべきは、まず「何を達成するために覚えるのか」ということです。

「勉強大全」(KADOKAWA、2019)

 そう、今回であれば皆さんは「定期考査で良い成績を残すため」とか「赤点をとらないため」という目的をもっていて、そのために【暗記】をするのだと思います。これが、何となくみんなもやっているから「覚えておこうかなぁ…」くらいのフワフワした気持ちでやっていても、あまり効果が得られないのです。まず、何のために【暗記】をするのか、ということ。

 そして、その目的であれば、【暗記】したものの成果を問われる瞬間がいつかと言えば、テストを受けるその時!ですよね。そのイメージを持っておくことも大切なことです。つまり、「わぁ、【暗記】できた!良かった!」で満足してしまうことは、非常に危険です。大切なのは、【暗記】できたものを、テスト当日に自分の解答用紙へ正しく答えられるかどうか、です。その点についてが、今回の掲示で示した「暗記はアウトプットだ。」という一言ですね。

 ずっと述べている「本番の点数を高める」以外にも、「友達との会話のネタに」「趣味が高じて楽しいから」「クイズが強くなりたい」などなどいろいろな理由が考えられるでしょう。
 これらに共通しているのは、「知識は使うために覚える」ものであるということです。「知識は使われる」、この項のキーワード、バン!
 何を言いたいのかと言うと、「知識は覚えるためのものではない」ということです。ゴールは覚えることではなく、その知識を使うことです。まずはその意識から。
  …(中略)…
 通常は「インプットとアウトプットのバランスが……」みたいな話になるわけですが、ここで僕はちょっとひねくれつつ、こんなことを提唱したいと思います。
暗記で重要なのはアウトプットである」と。

「勉強大全」(KADOKAWA、2019)

 こんな形で、たかが【暗記】について、彼は論理的に解説してくれていて、最終的には【暗記=勉強】とも言える、みたいなことさえ述べています。確かに、何事でも知識を定着させる行為って、私たち人間にとっては【暗記】という行為に当てはまるような気もします。「それ以外の言い方って…?」となりませんか?コンピュータで言えば、データの保存とか記録とか、そういうものと同じですね。

 いずれにしても、覚えておく・残しておくのは、それを使う時のためだ!ということは、私たちの暮らしでついつい忘れてしまいがちです。スマートフォン全盛の時代で、みんなが簡単に写真を撮り・スクショを残し・一言をつぶやき・写真をupし…、

でも、そもそもそれって、何のために残しているの?

ということですね。ちゃんとそれを再び(初めて?)使う時のことをイメージして残しているんだろうか?ということは、私自身も考えてみたいと思います。

 テストまで2週間と数日の授業です。悔いが残らないように早め早めに計画的な準備を進めて、知識を使う場面をイメージしてから有意義な【暗記】を始めましょう。皆さんが良いスタートを切れることを祈っています!

Thank you!!