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【大ピンチ】メークローン市場で倒れた私の目の前に現れた救世主の話

何とクレイジーな...!

タイの首都バンコクから行ける人気観光地、メークローン市場。
初めてその市場の写真を目にしたときは、言葉を失った。線路の上に所狭しと日用品や生鮮食品が並べられているではないか。

列車に轢かれたらどうするのか?衛生的に問題はないのか?日本だったらどう考えても実現し得ない光景だ。ぜひともこの目で見てみたいと思い、私たちは、心を躍らせながらメークローン市場への行き方を調べた。

バンコクにある国鉄ウォンウィエンヤイ駅から列車に乗り、マハーチャイ駅まで行く。そして、マハーチャイ駅からボートで川を渡り、バーンレーム - メークローン線に乗り換える。バーンレーム駅からメークローン駅へは1日4往復、列車が走っているようだ。

バンコクからメークローン市場までは、タイ国鉄でなんと100円未満で行ける。いくら何でも安すぎだ。その代わり、列車の車内にエアコンなんてものはなく、首振り機能の壊れた埃まみれの扇風機がついている程度だ。乗り心地はお世辞にも良いとは言えない。

しかし、窓全開で風を浴び、バナナの木の青々とした風景を眺めながら、のんびりと移動するのは、異国情緒が溢れて何とも気持ちがいいものだ。

ウォンウィエンヤイ駅で買ったソーセージ入り揚げパンをかじりながら、約1時間の列車旅を楽しむ。あっという間にマハーチャイ駅に着いて、今度は船着場まで歩く。10分ほどの船着場までの道中には、魚の干物がたくさん売られていた。

船着場に着き、約10円を支払って、小さなボートに乗り込む。脇にはバイクで乗り込む地元民がたくさんいる。観光客向けというわけではなく、地元民に日常使いされているボートなのだろう。

3分ほどボートに乗って、少し緑がかった黄土色の川を渡る。

向こう岸に着くと、またてくてくと歩いて、今度はバーンレーム駅を目指す。同じくメークローン市場に向かっている地元民のご夫婦が、「こっちだよ」と目配せしてくれた。またしても、魚の干物のいい匂いが立ち込める。

バーンレーム駅の周りは犬が多い。初めは恐怖を感じたが、昔の日本もこんな感じだったのだろうか。先ほどの列車と同じく、40円の切符を買って、いざ、メークローン駅へ。

私は基本的に移動中はイヤホンをせず、ただ街の音を聴いていることが多い。でも今日は、何だか久しぶりに音楽を聴きたくなった。かりゆし58のボーカル、前川真悟さんの書く歌詞が好きで、旅には最適なのだ。

〜サターニー トーパイ クー メークローン〜

車掌のアナウンスが響いた。ついにメークローン駅に着いたようだ。

イヤホンを外し、慌てて窓の外を見ると、列車とお店がスレスレの状態で進んでいる。列車と人々との距離は、15cmくらいだろうか。

「何じゃこりゃ...!!」

速度を落とす列車の中で、ヒヤヒヤしながら、ただひたすらその光景を眺めた。

メークローン駅では、電車が来るのを待ち構えていた観光客たちが、こぞって写真を撮っている。列車の前には、気づけば長蛇の列ができていた。私たちも彼らに負けじと写真を撮った。

しかし、ここで私の身体に異変が起きる。

一年中で最も暑い時期とされる5月のタイは、熱気と湿気が凄まじい。少し歩くだけで、灼熱の太陽に身も心もやられてしまう。お店でブルーベリースムージーを飲み、少し身体を冷ました。が、手遅れだったようだ。

何だか体調が優れないな...

そうだ... 今日は生理2日目だった...

暑い... お腹が気持ち悪い... 気分が悪い...

トイレにでも行きたいけど、

さっき行ったばかりだし、

お金がかかるし、ちょっと遠いなぁ...

あぁ...ちょっとこれはもう

ダメかも知れない...

目の前が暗くなって諦めかけたそのとき、

「大丈夫か?」

屋台のおばちゃんが、声をかけてくれた。

どこからか椅子を持ってきて、自分の店の裏の影に座らせてくれた。

パートナーはポカリを買ってきて、扇子で仰ぎながら、私の背中をさすってくれた。

どうやら私は今、熱中症と貧血が合わさった状態のようだ。
みんなの優しさが身に沁みた。

すると、椅子を持ってきてくれたおばちゃんは、隣の屋台のおばちゃんから受け取った小さなプラスチック容器を差し出してくれた。

「これを嗅ぎな」

何だろう…?
さっきから近くの屋台のおばちゃん同士で「あれ持ってないか?」と、何かを探している様子だった。

私はそれが何なのかさっぱり分からなかったが、見ると容器の中には、コットンが入っている。匂いを嗅いでみると、ミントやメンソールのような、スースーする香りがした。

目眩で倒れかけていた私の意識は、みるみる回復した。

隣の屋台のおばちゃんは、両手の人差し指でこめかみをくるくると触るジェスチャーをしている。コットンに触れ、その指でおばちゃんのしている通りに真似してみた。ますます清涼感が増して、気分が良くなり、頭が冴えてきた。

「すごい...!ありがとう!!本当にありがとう!!」

私を救ってくれたおばちゃん二人と、この小さな容器の中に入った魔法の薬のお陰で、私は何とか窮地を脱したのであった。

ひたすら横で心配してくれていたパートナー。さすがに動画を撮影することは控えていたので、動画にはこの一部始終は映っていないが、私の中で“メークローン市場”と言って思い出すのは、この救世主たちとのエピソードだ。

「これはいくらするの?お金を払います」と言ったのだけれど、
おばちゃんたちは、
「いいから持っていきな」と、私に無償でそれを与えてくれた。

後で調べた情報によると、それは「ヤードム」と呼ばれるらしい。タイ語で「嗅ぎ薬」を意味する。アロマや漢方をベースに配合した清涼感のある香りを染み込ませたもので、常夏のタイに暮らす人々の生活には欠かせないものなのだそうだ。

あれから1年半が経って、容器のラベルはすっかり剥がれてしまったけれど、私は今でもこのヤードムを「旅のお守り」として、大事に携帯している。

言葉が通じなくても、人間は助け合って生きていけるんだなと実感した1日だった。

あの日、私を助けてくれたおばちゃんたち、本当にありがとう。

おばちゃんにもらったヤードム

この日の旅Vlogはこちら
https://youtu.be/a1bbsli2CuU?si=7RW9bjbWATdkpJ8g


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